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脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の見直しに向けた検討の着手について(2000年10月12日 労働基準局補償課)

平成12年10月12日
労働基準局補償課

脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の
認定基準の見直しに向けた検討の着手について

1 背景
  標記認定基準(以下「認定基準」という。)については、平成7年2月及び平成8年1月に改正を行い、的確な運用を図ってきたところであるが、本年7月17日、最高裁判所は、労働基準監督署長が業務外と判断した自動車運転者に係る2件の脳血管疾患の業務上外の判断について、国側敗訴の判決を行ったところである。
  この判決は、個別事案に関する判断を判示したものであり、認定基準の是非を判示したものではないが、今後より的確は業務上外の判断を行うため、この判決を踏まえた業務上外の判断がなされるよう認定基準の見直しを行うこととしたものである。

2 見直しの内容
(1) 認定基準における「業務の過重性」の評価の見直し
  イ 「業務の過重性」の評価要因の具体化
    現行の認定基準における「業務の過重性」の評価については、「業務量(労働時間、労働密度)、業務内容(作業形態、業務の難易度、責任の軽重など)、作業環境(暑熱、寒冷など)、発症前の身体の状況等を十分調査の上総合的に判断する必要がる。」としているが、具体的な評価要因まで明示していない。
これに対し、最高裁判決では、「業務の過重性」の評価に当たり、就労態様に応じた具体的な評価要因として、下記aからgなどの諸要因を考慮しているところである。
    このため、これらの諸要因を認定基準に具体的に取り込むよう見直しを行う必要があるものと考えている。
    a 精神的緊張を伴う作業
    b 不規則な業務
    c 早朝から深夜に及ぶ拘束時間が極めて長い業務
    d 労働密度が低くはない業務
    e 非常に長い時間外労働及び長い走行距離を伴う業務
    f 十分な休憩が取れない作業環境下における業務
    g 寒冷等ばく露業務
  ロ 「慢性の疲労や過度のストレスの持続」の検討
    最高裁が自判した横浜南労働基準監督署長事件の判決における「業務の過重性」の評価においては、脳・心臓疾患発症の有力な原因が、高血圧症などの基礎疾患によるのものなのか、「業務の過重性」によるものなのか判断できないような一定条件の場合には、精神的緊張を伴う業務や不規則な業務などに従事することによって生じる「慢性の疲労や過度のストレスの持続」が慢性の高血圧症、動脈硬化の原因の一つとなり得るものとし、「業務の過重性」の評価に当たって、付加的な要因として考慮する考え方を示している。
    このため、疲労の評価といった観点についても検討する必要がある。
  ハ 1週間より前の業務のとらえ方
    現行の認定基準は、「業務の過重性」の評価に当たり、発症に接近した時期(発症前・前日・1週間以内)における過重負荷を中心に評価する考えを取っており、その具体的な過重性の評価は、医学経験則上、発症前1週間程度をみれば評価する期間は十分であるとされていることから、まず、発症直前から前日までの業務、次に発症前1週間以内の業務をみて、1週間以内の業務が相当程度過重であった場合にのみ、1週間より前の業務の過重性を評価の対象としている。
    このため、前記ロの疲労の評価との関連事項として、この点の見直しについても検討する必要がある。

(2) その他の所要の整備
  イ 平均的労働者の範囲の明確化
    最高裁が支持した西宮労働基準監督署長事件に係る大阪高裁判決では、「業務の過重性」を評価する際に比較対象とする平均的労働者について、「通常の勤務に耐え得る程度の基礎疾病を有する者をも含む平均的労働者を基準とすべきである。」と判示している。
 一方、現行の認定基準では、この点について、平均的労働者は、「日常業務を支障なく遂行できる健康状態にある者」と記述しており、基礎疾患を有する者を含んでいるか否かは明確となっていない。
 しかしながら、実務面における認定基準の運用に当たっては、この平均的労働者について、「基礎疾患を有する者を含む日常業務を支障なく遂行できる者」として取り扱っており、大阪高裁判決と同旨の考え方を取っている。したがって、この点の取り扱い方に誤解を生じないよう、認定基準に明示することにより、認定実務上の徹底を図る。
  ロ 基礎疾患のとらえ方
    前記イの平均的労働者との関連事項として、認定基準の運用上、基礎疾患のとらえ方の判断のよりどころとなるものについて、検討する必要がある。

3 見直しに向けた検討スケジュール
  今後、医学専門家(臨床、病理、公衆衛生等の専門家)により構成される検討会を設け、医学的見地からのご検討をいただき、その検討結果を踏まえ、平成13年夏頃を目途に現行認定基準を見直すこととしている。

(参考)                 
   認定基準の変遷          
・ 昭和36年 2月 策定   
・ 昭和62年10月 改正   
・ 平成 7年 2月 改正   
・ 平成 8年 1月 一部改正

2000/10/12