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総合規制改革会議アクションプラン実行WG資料(厚生労働省提出資料)

総合規制改革会議
アクションプラン実行WG資料

平成15年11月10日
厚生労働省

1 労災保険の民間開放の促進

Ⅰ 労災保険の民営化について

1 労災保険制度の基本的考え方

 ( 1) 労災保険制度は社会保障の一翼を担うものであり、労働者保護の観点から国が行うべき
  ① 労災保険は、労働条件の最低基準である被災労働者に対する事業主の災害補償責任の履行確保を目的とする強制責任保険である。
  ② 補償内容は労働条件の最低基準を超える水準となっており、全事業主の集団的責任に基づく社会保険として、国の社会保障の一翼を担っているもの

(参考)労災保険制度における社会保障化の例
 イ 障害補償や遺族補償等について大幅な年金化(使用者の補償責任は一時金支払のみ)
 ロ 療養補償について治癒認定があってはじめて打切(使用者の補償責任は打切補償を行えば3年間)
 ハ 通勤災害保護制度の導入(使用者に補償責任なし)

( 2) 迅速・適正な労災補償のため監督行政・安全衛生行政と一体であるべき
  ① 労働基準行政は、労働者の生命や健康を守り、災害を未然に防止するため、監督行政や安全衛生行政を通じて、現場に立ち入り監督指導を行うことで、就業環境等の変化に伴う問題点や安全衛生上の問題点を継続的に把握し、労働者保護の観点から行政を展開。
  ② 労災保険事業は、そもそも被災労働者保護を目的に行っており、監督行政、安全衛生行政と一体的に運営されてはじめて、社会経済情勢の変化に合わせた被災労働者に対する迅速かつ適正な補償が可能。
  ③ さらに、発生した災害に対しての補償のみならず、労災保険事業から得た情報を基に再発防止のために安全衛生上の対策を講じる等により、労働者保護という行政の使命を遂行。

2 民営化により労働者保護が後退

 (1) 未加入・未納事業場が増大するおそれ

  ① 自賠責保険における車検制度のように加入を担保する仕組みがなく、また、民間保険会社では強制加入や滞納処分もできない。
  ② このため、未加入・未納事業場が増大し、当該事業場の被災労働者は補償を受けられない。

 (2) 保険事業のみの運営では的確な労災認定が困難

  ① 災害が業務上か業務外か等の判断については、刑事責任に連動する事業主の災害補償責任の有無の判断として、国が行うべき。また、急増する過労死等外形的に業務起因性の把握が困難な新たな労災事案に対して、職場や働き方の変化等の実態を幅広く恒常的に蓄積する仕組みが民間ではないことから、認定基準の設定等は民間では的確になされない。

  ② 民間保険会社では事業場への立入権限はなく、実態を踏まえた業務上外の認定が困難。
   なお、過労死等の複雑困難な労災事案に関しては、業務上外の判断をめぐり、被災労働者と事業主が対立するケースもあり、保険者であると同時に事業主としての立場をも併せもつ民間保険会社の認定では、公正さに疑念を抱かれるおそれ。

 (3) 経営破綻リスクの存在3
  ① 民間保険会社には経営破綻リスクが不可避。
  ② 経営破綻の場合特に長期にわたる年金給付(平均約30年間)に支障のおそれがあり、制度に対する信頼感が欠如。

3 民営化により非効率、負担増のおそれ
 (1) 労働者保護の確保は不可欠であり、このため極めて非効率な仕組みに  複数の制度運営主体が併存し非効率となり、結局保険料の大幅な引上げにつながる。

 (2) 事務運営費増大のおそれ
  民間開放すれば、上記の非効率に加えて、営業経費等が発生すると考えられることから、保険料負担が上昇するおそれがある。

(参考)日米の労災保険の事務運営費
○ 日本の業務取扱費等の収入に対する割合は、5.2%(平成13年度)
○ 米国の民間労災保険の事務運営費は保険料収入の約4割。

※保険料収入をとした事務運営費の割合( 年) 100 2001
13.8 査定費用
諸経費26.1(うち、手数料6.5、一般管理費 8.4、その他(税など) 11.2 )
“Best’s Aggregates and Averages, Property/Casualty, 2003” 【出典】
( 社公表資料) A.M.Best

Ⅱ 保険料率の考え方について

1 社会保険の原則
  社会保険においては、私保険と異なり、保険料については危険に応じて定められるべきとの原則はないことから、給付と反対給付とは均衡するものではない。

2 現行料率設定の基本的考え方

 (1) 労災保険料率は、労働災害や職業病は業種毎に類型化される場合が多いこと等を踏まえ、
  ① 業種毎の安全衛生対策とあいまって同種災害の防止努力を促進するという政策的意味、
  ② 業種を異にする事業主間の負担に係る過大な不公平感の是正、という観点から、業種ごとに設定しているが、社会保険の原則にかんがみれば、業種別に収支を均衡させる必要はない。
  このことは、産業や職業は相互に依存関係にあることから、事業主間の相互扶助や全事業主の集団的責任の観点を考慮する必要があることからも、妥当である。

 (2) 保険料率の見直しに当たっては、災害防止努力を保険料率に反映させるため、過去3年間の災害の実績等をもとに改定。
、、( ) なお個別事業主の災害防止の自主的努力のインセンティブとして個別メリット制を制度化。

3 業種間調整の必要性について
 (1) 社会保険としての性格に反し、業種別の収支率に厳密に見合った保険料率を設定することは、以下の点からも適切ではない。
  ① 現行の給付内容は、事業主の個別の災害補償責任を超えて、全事業主に集団的に災害補償責任を負わせていること特に、長期間の療養やその後の後遺障害等については、その時点
の当該業種の事業主集団に責任を負わせることは無理があること。
  ② 収支率のみで考えた場合、過大な保険料負担が不可避な業種が発生せざるを得ないこと

 (2) このため、保険料負担の業種間調整は必要不可欠であり、この点については、保険料負担者たる使用者、受益者たる労働者及び公益の三者から構成される審議会における議論、答申を経て決定されているところである。

Ⅲ 労働福祉事業について

1 趣旨
  労災保険では、保険給付に合わせて、被災労働者の社会復帰の促進、
  被災労働者やその遺族の援護、適正な労働条件の確保等を図ることにより、労働者の福祉の増進に寄与することを目的として、労働福祉事業を行っている。

2 事業の概要
 (1) 被災労働者の円滑な社会復帰を促進するために必要な事業
  ○ 労災病院の運営
  ○ 義肢、義眼、車椅子等の支給等

 (2) 被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業
  ○ 労災年金受給者の子弟に対する就学等援護費の支給
  ○ 要介護者のための労災特別介護施設の運営等
 (3) 労働者の安全及び衛生の確保のための必要な事業
  ○ 労働災害防止対策等

 (4) 適正な労働条件の確保を図るために必要な事業4
  ○ 未払賃金の立替払事業の実施等

3 労働福祉事業の見直しについて
  「特殊法人等整理合理化計画(平成13年12月閣議決定)を受け」て、労働福祉事業団は平成16年4月から独立行政法人化(独)労働(者健康福祉機構)されることとなっており、あわせて、労災病院について、再編計画を本年度中に策定し、再編対象外の病院については廃止又は統合する等事業の見直しを実施。

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2003/11/10