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増える自殺 企業の予防対策も必要だ【熊本日日新聞】

 昨年の自殺者の総数は三万千二十四人であることが、警察庁のまとめでこのほど分かった。前年より九百十五人減ったものの、四年連続で三万人を超える(人口十万人当たり二四・四人)異常事態が続いている。

 全体の71%が男性。年齢別では、六十代以上が一万八百人、五十代が七千八百人、四十代が四千六百人など中高年に集中する。原因・動機は「健康問題」が一万五千人。「経済・生活」が六千八百人と続く。熊本県内の総数は四百三十六人。

 自殺の背景には、経済労働状況、人口構造、精神病理などの要因が複雑にからんでいる。長引く不況のため、経営困難に陥る企業も増えた。社員の評価システムの導入やリストラを実施する企業も増え、社員のストレスになっている。

 さらに注目を要するのは、五十代を迎えている団塊の世代は若い時から自殺率が高いという傾向である。人口が多いために社会と摩擦を起こしがちで、青年期には受験や就職の競争、中年期には会社内外での競争激化がストレスとなった。これから迎える本格的な高齢期でも、数の急増に福祉政策が追いつかず、それがまたストレスとなることが予想される。まさに受難の世代と言えよう。

 精神医学的には、自殺者の九割は「心の疲労」を抱え、とりわけうつ病が多いと言われる。うつ病は、ストレスの影響で感情を支配する脳内の情報伝達物質の代謝が悪くなる。意欲が消失して不安感が高まり、わずかなことにも過剰に悲観する。不眠、疲労、食欲不振など肉体的な異常も伴う。

 うつ病の治療も休息と薬物投与が原則になる。脳の機能を回復させる抗うつ剤の開発も進んでいる。熊本市内の精神科医は「自殺の防止にはまず二週間が大事。休養して薬を飲めば、自殺をしようという切羽詰まった気持ちが薄れてくる」と語る。ただし、日本では、精神科への偏見も強く、受診するのをためらう傾向がある。

 うつ病や自殺を予防する対策としては、企業がストレスマネージメントに総合的な対策を持つことも大事になる。ビジネス機器のトラブル防止には先進的な対策を持つ企業も、人間的なトラブルの解決では「飲みながら話を聞く」程度の前時代的な対応しかしない場合が多い。

 社員全体にストレス病への意識を高める教育を行う必要がある。ことに重要なのは管理職に対する専門的な研修で、部下のストレス軽減策や問題が起きた場合の対処方法を学んでもらう。社内の保健担当者や人事部はそれを支援する。

 アメリカの大企業では「EAP」(従業員支援プログラム)を導入しているところが八割にも達する。企業がストレス疾患の治療に詳しい外部の専門家と契約しておき、本人、家族、同僚などが相談する制度だ。治療機関の紹介もここで行う。

 プライバシーの保護が最優先されるが、本人の承諾を得て治療や職場復帰の方法について会社の担当者と調整することもできる。また、企業と組合が「EAP」の利用を命じる制度を設けているところもある。うつ病と合併することが多いアルコール依存症の治療に適用され、「要治療」の判定が出た場合、従わないと失職することがあるという。

 日本でも、さまざまな「EAP」サービスを行う専門機関もつくられている。電話やメールを利用して臨床心理士や精神科医との匿名相談を組み込んだものもあり、契約する企業も増えている。「EAP」は企業の社員に対する姿勢を象徴するものの一つになるかもしれない。

2002/08/07