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自殺者3万人/気軽に相談できる体制を【神戸新聞】

 昨年もまた、自殺者が年間三万人を超えた。九八年から四年連続で三万人台を記録し続けている。

 件数は昨年よりやや減ったが、圧倒的に男性が多く、五十歳以上が60%を占めている。原因、動機別では「経済・生活問題」がなお増える傾向にある。

 数字からは、不況、倒産、リストラ、借金苦に、働き盛り、一家の中心だった中高年男性が押しつぶされるように、自ら命を絶つ姿が浮かんでくる。

 しかし、それだけが自殺につながっていると考えるのは短絡に過ぎるだろう。職場や家庭での孤独感、先行きに希望を見いだせない閉そく感などが複雑に絡み合っているに違いない。

 長時間労働や成果主義など、だれもがストレスを受けやすく、「心の病」にかかりやすい時代だが、問題は気軽に相談しにくい空気が、この社会にはまだ強いことである。

 中高年男性の場合は、一人で悩みを抱え込む傾向が強い、と多くの専門家は指摘する。相談すること自体を恥ずかしいと感じてしまう。まじめで責任感の強い人ほど、そうなりやすい。周囲の無理解もある。うつ病などの診断を受けると、職場復帰がむずかしくなるケースも少なくない。

 深刻な事態を受けて、厚生労働省が今年二月に設置した自殺防止対策有識者懇談会でも、各委員から「精神疾患への偏見が、悩んでいる人を追いつめ、治療の遅れを招いている」という指摘が相次いだ。

 最近は、医師や臨床心理士がプライバシーを守りながら、メンタルヘルスに取り組む従業員援助プログラムを導入する企業が増えつつある。国、自治体はこうした取り組みを後押しするとともに、事業所の研修や専門家派遣を進めてもらいたい。

 国は、いのちの電話など民間の相談機関のネットワークづくりを考えているようだが、世代別のきめ細かい相談体制をつくるようにしたい。

 自殺はまた、家族や周囲を悲劇に巻き込む。自殺で親を失った子どもたちのケアに取り組む「あしなが育英会」の調査では、残された子どもの三分の一が「親の自殺は自分のせい」と感じている。「悩んでいるのに気付かなかった」と、罪悪感に苦しんでいるという。

 子どもたちは実名を公表し「お父さん、死なないで」と訴える活動も始めている。疲れ、悩み、孤独感に襲われたとき、かけがえのない家族の顔を思いだそう。あなたは決して一人ではない。

2002/07/29