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自殺防止 社会全体で粘り強く【信濃毎日新聞】

 自殺者の増加が大きな社会問題になっている。自ら命を絶たねばならない苦しみは察するに余りある。家族らの心にも深い傷を残す。厚生労働省は有識者の懇談会を発足させるなど対策に乗り出している。幅広く取り組みを重ねていくときだ。

 昨年一年間の自殺者は、警察庁のまとめで三万千人余に上った。四年連続で三万人を超えている。見逃せないのは、負債や失業など「経済・生活問題」によるものが過去最多になったことだ。長引く不況、厳しい雇用情勢の影響をうかがわせる。

 失業率は依然、高水準だ。経済の立て直し、雇用の安定に政府が努めるのは当然にせよ、すぐさま状況の改善は望めない。自殺防止に本気で取り組む必要がある。背景にはさまざまな事情が絡んでいる。社会全体で粘り強く対策を積み上げたい。

 一つには相談、医療の態勢を整えることである。自殺の多くはうつ病かうつ状態を経ると専門家は分析する。しかし、医者にかかるケースは少ない。悩みや心の病気を抱えた場合、早期に発見し、適切に対応することで防いでいく余地がある。

 防止策を検討する厚生労働省の懇談会は、うつ病対策に重点を置いて提言をまとめる方向だ。研修などを通じたかかりつけ医らの知識・技術の向上、精神科医との連携の必要性を指摘する。論議を踏まえ、しっかり手だてを講じなければならない。

 互いに理解を深め合うことも重要だ。心の病気に対して偏見を持たれたり、不利な扱いを受けるのではまずい。問題を隠すなど、事態をなお悪くしかねない。むしろ周囲が病気の兆候を見逃さず、相談や受診を勧めるような環境がほしい。

 うつ病については、二〇〇一年版の厚生労働白書でも身近な病気として取り上げられた。ストレスの多い現代社会でだれでもかかる可能性がある。悩みを人に相談するのは恥とするとらえ方も珍しくない。国は啓発に一段の力を注ぐ必要がある。

 企業の対応も鍵になる。人件費抑制や競争激化の流れが働く人たちに重くのしかかる時代だ。雇用不安は精神的な圧迫感を生みやすい。従業員が体調を崩せば、企業にも損失になる。「心の健康」を保つ取り組みは、ますます大事な課題である。

 厚生労働省の懇談会では▽心の問題で休業した労働者の職場復帰の支援▽プライバシーに配慮した外部の相談体制の整備―などが取り上げられた。安易な人減らしを避けることも含め、自殺防止に力を注ぎたい。

2002/08/13