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今こそ過労死企業の情報公開訴訟へ 弁護士 松丸 正(民主法律276号・2009年2月)

弁護士 松丸 正

1 過労死を出した企業名の公表の意味
 過労死事件で労災認定を得、更に企業賠償で勝訴を得ても、過労死・過労自殺を生み出した職場そのものは何ら変わっていないことが少なくない。過労死等を生じた会社に対し損害賠償という金銭的な制裁のみならず、社会的制裁を与える方法はないのか。遺族が労災認定を得ても、黙っている限り、過労死の存在は職場のなかでも明らかにされないままになってしまう。
 この点につき平成20年11月25日(火)の毎日新聞「記者の目」で東海林(とうかいりん)記者は、過労死・過労自殺につき「国は生じた企業名を公表し再発を防げ」との提言をしている。過労死を1人でも出した企業は、労働時間管理等の再発防止策について社会的な監視を受けるべきであり、その公表は監視機能を強めることになり、また就職にあたり企業の善しあしを判断する重要な情報であるとしている。

2 平成14年6月の情報公開審査会の答申
 大阪では大阪過労死問題連絡会と労働基準オンブズマンが共同して36協定の情報公開訴訟を提訴し、事業場名や限度時間等の情報公開を認める判決を得ている。この経験のうえにたって過労死を出した企業名の公表についての訴訟に挑んではどうだろうか。
 この問題については、平成14年6月17日の情報公開審査会の答申書(労災保険請求に係る脳血管疾患及び虚血性心疾患の処理経過簿の一部開示決定に関する件・平成14年諮問第104号)がある。各労働局で作成している脳血管疾患及び虚血性心疾患の処理経過簿につき情報公開請求をした件につき、答申は「業種」及び「疾患名(請求時)」は、「脳・心臓疾患に罹患した労働者個人を識別することができることとなる部分ではなく、公にしても個人の権利利益を害するおそれがないと認められる」としてその開示を認めた。しかし、「事業場名」等については、認定件数は少ないことから、それによって「労働者個人を識別できることとなる部分と認められる」として開示を認めていない。この一部不開示答申に対しては訴訟では争われていないようである。

3 過労死を出した企業名の公開へ
 過労死を出した企業に対する社会的な責任を明らかにし、職場の労働条件を是正させる目的をもって処理経過簿に記載された企業名の情報公開請求を行い、不開示のときは情報公開訴訟に取り組んではどうだろうか。個人識別情報をクリアーするために事業場名ではなく企業名にとどめたり、一定の規模以上(例えば東証一部上場企業とか)の企業に限定するとかの工夫は必要であろう。

4 是正勧告についても情報公開を
 また、労基法違反(賃金不払労働、36協定違反等)や労働者派遣法違反(偽装請負)に対する事業場に対する是正勧告についても公表されていない。労基法等の違反に対する是正勧告を公表することは、職場の労働条件改善に資することになろう。この点の情報公開については、情報公開法の「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」の要件をクリアーすることが必要である。労基法等の違反があるとき労基署長としてこれに対し是正勧告を出すとともに、これを公開することは、違法な労働条件の改善という行政目的にもかなうものといえよう。
 是正勧告についての処理経過簿の内容の公開についても、同時に情報公開訴訟でチャレンジしてみてはどうだろうか。

(民主法律276号・2009年2月)

2009/02/01