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「ワーキング・プア」著者D・K・シプラーさん来日記念講演会報告 全日本損害保険労働組合大阪地方協議会副議長 柏原英人(民主法律時報419号・2007年5月)

全日本損害保険労働組合大阪地方協議会副議長 柏原英人

 5月18日エル・おおさかにて開催された記念講演はアメリカにおける貧困問題について認識を深めると同時に、日本でも貧困の問題がいかに深く広く進行しているかということをあらためて知ることができ、講演を通じて貧困問題をお互いの課題として解決に向けていかに運動を進めていけばよいのかイメージを持つことができた大変意義深い講演会でした。

 今回の講演会は、大阪労連・関西マスコミ文化情報労組会議等の労働組合と民主法律協会等の法曹団体、全大阪生活と健康を守る会連合会、大阪過労死を考える家族の会、働き方ネット大阪などが賛同団体となり実行委員会によって進められました。
 当日は、複数の新聞社に講演会の記事が紹介されたことや、前日にNHKのクローズアップ現代で取り上げられたことなどもあり定員200名の会場に250名を超える参加者があり、立ったまま講演を聞く人がでるという大盛況で、日本の貧困の実態報告もあって最後まで熱気あふれる講演会となりました。

 まず初めに実行委員会を代表して日本語版「ワーキング・プア」の訳者でもある実行委員長の関西大学・森岡孝二教授からシプラーさんの経歴、日本語版「ワーキング・プア」出版の経緯、東京での講演会の模様やマスコミの取材が殺到したこと、関西大学での講演の後、忙しい合間をぬって広島原爆資料館を見学され現地で高校生たちと交流したことなどシプラーさんが日本にこられてから精力的に行動されていることについて紹介があり講演会が始まりました。

 シプラーさんの講演の中で印象に残ったところを私なりに列挙しますと(詳しくはぜひ「ワーキング・プア」の本を購入して読んで下さい)
 ・ 世界で一番豊かな国といわれるアメリカで貧困にあえぐ人々が世界で一番多く(13.7%)、同時に世界二番目の経済大国である日本が僅差(13.5%)で続いており現在は逆転しているかもしれない。
 ・ ものごとは点と点とをつなぐと線になり全体の絵が浮かび上がってきてはっきりわかってくる。貧困問題は非常に複雑でありこの「ワーキング・プア」の本の中で点と点をつなぎ線にして全体像を明かにした。
 ・ 「ワーキング・プア」=働く貧困者=たちは労働によってアメリカの豊かさを支えているにもかかわらず彼らの存在はわたしたちにとって見えない存在となっている。
 ・ アメリカにはアメリカンドリームがあり誰でも豊かになることができ、貧困なのは働いていないからであるという考えがあるが現実は違う。アメリカンドリームは自分自身の想像力までも見えなくしている。貧困には個人に起因するものや、地域・学校に起因するものなどがあり同じテーブルに広げると大きな全体像が浮かび上がってくる。そのギャップを埋めることがアメリカ人の意思である。
 ・ アメリカは好景気であるが、貧困者は稼ぐよりも負債が上向いている。
例えばシングルマザーは時給980円で働いている。子供は喘息持ちで収入は貧困ライン以下で預金はない。救急車も250ドルの費用がかかり、ローンは15.75%と貧困者の方がより多くの利息の支払いをしている。
たくさんの支払の請求書を見た子供が母親に「ねえ、貧乏ってお金がかかることなんだね」と言った。
住宅事情、車のローンが子供の栄養状態に関連する。昔と違って、家賃、車のガソリン代などに50~70%かかり、貧困者は食費しか削れない。子供は低体重で栄養失調状態になっており、IQは3歳頃までの栄養状態が影響し取り返すことはできない。
 ・ 政治家は理解しようとしていないし、わかっていない。富める者は貪欲に資産を増やす。
 ・ アメリカは労働組合の加入率が7.8%と低い。賃金がドンドン下がっている。
日本は、18%(民間14%)でまだ高い。労働組合に加入することは大切である。運動することによって州法を変えていく。
 ・ 選挙にいく人間は、年収7万5千ドル以上の人が多く、貧困者は少ない。貧困者が選挙に行くようになれば、政府ももっと変っていくだろう。選挙に行くことが大切である。
 ・ 世界一豊かな国で貧困者が世界一多いということは恥と肝に命じなければならない。

 その後、日本における現状報告として4名の方から発言がありました。
1、 全大阪生活と健康を守る全連合会の大口さんより、生活保障費から老齢加算、母子加算が削られ、深刻な中で何を節約しているのかの実態報告があった。
2、 西成労働福祉センター労組の海老さんより、高齢者特別清掃事業の必要性、増える野宿生活者の自殺等、釜ヶ崎の労働者の実態についての報告があった。
3、小学校教員の渡部さんより、子どもたちの様子から見える実態の報告がありました。
  「子どもは熱が出てもお母さんに知らせないでとかばう。派遣で休めないことがわかっているのです。」「学校納入金を請求する手紙などは、親がいやな顔をするので渡さず、やぶって捨ててしまいます。」
4、 違法な「偽装請負」を告発し裁判で闘っている吉岡さんより、闘いに立ち上がった思いと大阪地裁判決報告があり、引き続く大阪高裁に向けて「何としても闘いに勝利して同じような状況に置かれている若者の実態を改善したい」と決意表明があった。

 また、会場からの13の質問のうち4通についてシプラーさんより回答されました。
 最後に質問に立った若者が「本日の講演会で日本においてのさまざまな貧困の実態を知った。でもそれぞれに置かれた状態が違う人々が一緒に行動することは難しいと思う」と発言したことが率直で強く心に残りました。

 貧困問題の解決の多くは政治の問題であると思いますが、確かに起因するところはさまざまであり、そのさまざまに起因するところに対してさまざまな人々が少しでも改善するよう日々努力を重ねています。その思い(点と点)をつないで全体像を浮かび上がらせれば人と人の心がつながり行動への可能性がはじまります。
 講演から今後の運動の進め方について多くの示唆を得ることができたと同時に、実行委員会としてのこだわりであった質疑応答と現場からの報告は、日本における貧困の全体像を浮かび上がらせるということで一定成功したと思います。
 今回の講演会は若者の参加が大変多く、また労働組合、弁護士、学者、学生、市民団体などのさまざまな人々が参加したことが大きな特徴でした。
 9月の働き方ネット大阪結成総会、11月の「8時間の労働が当たり前の社会へ」、2月の「ホワイトカラーエグゼンプション反対集会」も成功のポイントは現場からの報告とさまざまな人々の交流でした。
 今後の運動に思いを込めながら最後にこのような機会を作っていただいた森岡教授と民主法律協会に心から感謝をしたいと思います。

(民主法律時報419号・2007年5月)

2007/05/01