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生々しい格差社会とワーキングプアの実態 ~労働相談活動から~(労働相談に寄せられる解雇・賃下げ、賃金・残業代不払い等の実情について) おおさか労働相談センター相談員 杉山悦男(民主法律268号・2007年2月)

おおさか労働相談センター相談員 杉山悦男

 おおさか労働相談センターに寄せられる一年間の相談件数は、この数年1,500~17,00件であり、各地域相談センターと地域労組(17ヵ所)には合計で年間約500件の相談がありますので、合わせて2,000~2,200件にのぼります。
 相談件数の中で、解雇問題(退職強要・勧奨含む)については20~25%を占めます。
また、賃金問題(賃下げ、賃金・残業代不払い)については、23~26%と解雇問題をやや上回っています。
 また、相談者を年齢別にみますと20代~30代の青年層が毎年50%を超える状態です。
 最新の総務省労働力調査では、非正規労働者(1,663万人)が雇用労働者(5,003万人)に占める割合は33.2%にものぼっています。労働相談での非正規労働者の相談が42%ですから、非正規労働者からの相談が構成比を大きく上回っていますので、やはり非正規労働者に対する企業の不当な扱いが正社員に比べて大きくなっています。
 企業側からの解雇や退職強要・勧奨では、労基法18条の二項の職権濫用が日常茶飯事に行われていることが浮き彫りになっています。これは正社員、非正規社員を問わず攻撃がかけられています。
 解雇問題についてのいくつかの例を挙げますと、
① 会社創立当初から勤めて20年にもなるのに、いきなり社長から、会社がやっていけないからという理由だけで辞めてくれと言われた。この人はまだ40代の働き盛りであり、再就職は一層むつかしい年代です。
 社長が従業員の好き嫌いで解雇するという例もよくあります。
② 運送の仕事で勤続3年以上になる正社員で30代青年の場合は、社長が変わってから嫌われていて、突然仕事をくれなくなってから二週間位続いて、ある日自分の専属のトラックも取り上げられ、二ヶ月位車庫に一人で取り残されていた。その後、別の仕事を与えられたが、それもまた取り上げられた上、辞めてくれと言われ解雇通告書を渡された。
③ 洋服のリホームチェーン店で働いて5年にもなる40代の女性は、新しい経営者に変わって一年になるが、私の接客態度が悪い、気が合わないという理由で突然解雇を言われた。
④ 勤続6年になる35歳の正社員の女性は、はじめは営業事務の仕事だったが、英語の翻訳やホームページ・ネット管理などもするようになった。当初売り上げが何倍かになったが最近になって減少してきたところ、部長から「君はいったい何を考えているのか」「売り上げが伸びてないのは君のせいと思わないのか」などと罵声を浴びせられて、精神的に参ってしまい、現在有給休暇扱いで休職しているが退職に追い込まれそうな気がする。
⑤ 13年間勤めた会社で正社員57歳の女性。一般事務から営業・経理・人事・総務事務など全ての事務、コンピューター関係、清掃関係、社長秘書など全てをこなして働いてきた。他の男性社員と比べて給料も低く、賞与も少額だったが、文句を言えない性格なので続けてきた。55歳になった時も、社長から定年だからといって給料を25%カットしたよと言われた。仕事の内容は何も変わらずそのまま続けてくれ。とも言われた。
 そして更に、55歳の定年から2年勤めさせたから、もう辞めてくれてもいいよ、と言われた。 女だからとこんな扱いをされてきたんだと気がついて怒りがこみ上げてきます。
⑥ 6年間パートで勤めたレストランですが、ライバル会社のレストランで忘年会があったので出席したところ、もう一人の同僚と一緒に休んで下さい(辞めて下さい)と言われた。

 賃金に関する問題でのいくつかの例を見てみますと、 
① 大手私鉄の関連会社に契約社員として入社して6年以上の26歳の青年。契約社員の場合はベアなしで退職金もないので将来の見通しがない。その上、皆勤手当ということで当初は78,300円だったのが、05年9月に76,300に減らされて、06年9月にはさらに61,600円に減らされた。こんなことでは非常に生活が不安なのでそちらを訪問して相談させていただきたい。
② A引越会社で運転の仕事をしている20代の青年。一番小さいトラックでの仕事で、車両破損、家屋破損が32万円、物損破損で8万円を一件についての上限として賠償しなければならない。同行していたメンバーも連帯責任として均等に賠償することになっている。しかし、ドライバーの場合は(アルバイトでも)前記の上限金額を限度に全額補償、バイトは一件につき8,000円を上限とされています。
 ローンで払うこともできますが、辞めたくてもローンが終わるまでは辞められない状態になっています。
 労働時間も曖昧で、出勤時間は7時とか7時半で、帰ってくるのが大抵19時~20時頃です。募集広告では17時でしたが。残業手当は早く出勤したとしても18時からしか付きません。帰庫してから日報を書いたり、不足資材のチェックなどでの30分~1時間は毎日サービス残業です。
 お客さんに配るチラシにはウソばかり書いてあります。「自社便100%」と書いておきながら、東京方面ではJR貨物を使っているし、「100%身元保証人付従業員」というのも派遣社員をたくさん使っていて信用できません。
 上司は威圧的で、筋の通らないことでも威圧することで通してしまうような人が多いです。会社に相談メールがありますが、都合の悪いことは返事が返ってきません。どうしたらいいでしょうか。
③ M大手銀行からの訴えですが。始業8時40分~終業17時ですが、実際は7時30分に出勤して終業は平均しても21時です。サービス残業が月平均で100時間を超えている。残業代はいっさい支給されていない。以前に労基署からの勧告があって残業代の支払いがされたが、最近ではまた元に戻ってしまっている。労基署へ訴えているが(電話で)いまのところ動いてくれていない。労働組合はあるが御用組合で取り組まない。
④ 洋服の販売員をしているという20代の女性。残業代や深夜手当等はもらったことがなく、今回は本社から「この書類にサインだけして送り返して下さい」と送られてきた。内容が書かれていないので「サインできません」と言ったら、「一日2時間サービス残業します」という内容の新しい書類が送られてきた。「納得できないのでサインできません」というと「書類上のものなんで、とりあえずしてください」と言われて書かされた。今まで何年もこのような内容の書いていない書類にサインさせられていた。これにサインすると残業代は一切もらえないのでしょうか。
⑤ 求人雑誌を発行する会社で正社員として働き5年経つ31歳の女性(お母さんからの相談)。勤務時間は9時~18時となっていますが、帰宅は早くて21時~22時(これはまれな場合)で、ひどい時は翌朝の0時~2時になる時もあります。この状態が毎日続いています。残業代は20時間分しか支給されず、あとはサービス残業です。土曜、日曜、祝日出勤も結構あります。娘の身体が心配ですがどうすればいいでしょうか。
 二人の若者の過労死裁判支援に携わってきた者として娘さんの健康が心配です。すぐ一緒に相談センターに来るようにと伝えているんですが。
 
 以上はほんの一部の例ですが、働く者にとって本当にひどい状態が広がっています。職場に憲法がないとは以前よく言われた言葉ですが、現在では労働基準法をはじめ労働者保護の法律すら守られず、無法職場がまかり通っています。
 労基法に定めている権利を要求したり、理不尽な上司に対して自分の意見を言う当たり前のことが職場で通用せず、いじめや嫌がらせをされ、文句をいう者は辞めたらええなどと言われ精神的につらくなって会社へ行けなくなってしまうというケースが激増しています。
 労働相談センターで仕事をしていますと、格差社会やワーキングプアの実態を肌身で感じさせられる毎日です。
 特にこのような状態が今後も続くならば、相談者の半数が若い人たちですから将来を担う青年たちの心は不安と絶望に陥り、健全な日本の社会発展は望めないでしょう。              このような実態を放置して、安倍首相は日本を「美しい国」になどと、よくも言うものだと強い憤りを感じます。
 ホワイトカラーエグゼンプションなどはもっての他であり、人間らしく働き生活のできる「働くルールの確立」こそ緊急に求められます。

(民主法律268号・2007年2月)

2007/02/01