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エグゼンプションを先取りした「給特法」下での教師労働の実態 大阪教職員組合副委員長 渡部有子(民主法律268号・2007年2月)

大阪教職員組合副委員長 渡部有子

「給特法」の制定について
 私たち教員の給料は、1971年に制定された「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給料等に関する特別措置法」(以下給特法)の第1条で「教育職員の職務と勤務態様の特殊性に基づき」「時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」(第3条)ということになっています。つまり、何時間勤務しても残業代がつきません。労基法37条は適用除外されているのです。今、問題になっている「ホワイトカラー・エグゼンプション」は実質的にすでに教員には適用されています。そして、年収要件もなく、すべての教員に適用されているのです。

 ただし、同じ3条で「給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない」と定められています。それは、戦後教員たちは時間外手当を支払われないまま、恒常的・慢性的な超過勤務の実態を打開しようと、裁判に訴え次々と勝訴していき、ついに最高裁でも勝利判決が確定しました(昭和47年12月26日)。こうした中で、自民党・文部省は教員の時間外労働については、労働基準法37条の適用除外を認めることを求め、その代わりに教員に給料額の4%の教職調整額を支払うという法律を定めることにより解決を図ろうとしてきました。この4%の教職調整額は超勤手当ではなく、教育職という職務の特殊性を再評価し、本俸そのものを引き上げるためのものです。当時の人事院総裁は衆議院文教委員会で「・・勤務時間の内外を通じてのその職務を再評価して、これは単なるつけたしの手当じゃなしに、本俸そのものを引き上げると、4%の調整額というのがそこにあるわけです。」と答弁しています。

 私たちの先輩たちは、4%の教員調整額の支給を口実として、無限定な超勤を許さず、逆に「超過勤務原則禁止」を勝ち取りました。この成果は文部省と教職員組合による交渉を踏まえ、「訓令」「通達」として具体化され給特法の体制ができあがりました。給特法では「原則として時間外勤務は命じないもの」とし、例外的に認められるのは次の4項目です。
(1) 生徒の実習に関する業務
(2) 学校行事に関する業務
(3) 職員会議に関する業務
(4) 非常災害等やむを得ない場合に必要な業務
 これらは、「限定4項目」と呼んでいますが、これに関わる業務であっても超勤を命じることのできるのは、「過半数の職員の合意」が必要であり、「臨時または緊急やむを得ない場合」に限られるというきびしいものです。
 そして、超勤の量にも規制を加えています。最高限度を月8時間、連続6時間とし、その量を超えた場合(例えば修学旅行のつきそいなど)は、1日を単位とする休養措置(回復措置)をとり、量の規制に対する強制力をもたせました。

教職員の勤務実態
 このような法律があるにもかかわらず、現在の教職員の働き方は異常な時間外労働がまかりとおっています。それは過労死ラインで働いているという実態です。大教組は04年11月に「超過勤務実態調査」をおこない、約4500名から回答がよせられました。平日5日間での学校での居残り勤務・持ち帰り仕事・土日の出勤・自宅での仕事を合計した一週間の超勤は平均で14時間24分におよびました。週40時間労働からすると、1,4倍の仕事量をこなしていることになります。一番深刻なのは、中学校現場の男性教員で、平均が20時間32分。平均がすでに月80時間をこえる状態で、脳心臓疾患で死亡した場合、過労死と認定される基準を超えています。月100時間の「過労死」ラインの人は、全体で13,4%もおり、中学校教諭は26,6%もいます。まさに、職場の4人に一人が過労死ラインで働いているのです。1週間に何らかの超勤をした人は96、0%で、土日も仕事に従事した人も78、5%にのぼるのです。労基法上使用者責任で取らせなくてはならない休憩時間も、実態としてはなかなか取れる状況ではありません。05年に実施した大阪府教委調査の不十分な調査でも、「休憩・休息が取れている」はゼロとなっていること、「ほとんど取得できていない」との回答が7割強をしめているなど、労基法上違反状態です。疲労が蓄積し、慢性疲労になっている状況です。

 その中でも青年教職員の実態はさらに深刻になっています。新任(1年目の教職員)は研修があり、たとえば小学校の教員では、あるクラスを担任していても子どもたちを置いて、研修ということで集められるのです。 勤務時間ぎりぎりまで研修でしばられて、その後でレポートをすぐ書かなくてはなりません。次の日には担当教員と校長の印をもらって、教育委員会に提出です。それらの上に一般の教員がしている担任の仕事をするのです。授業がはじめからうまくいくはずはなく、どうしたらよいのか悩み、教材研究にも時間がかかります。夜10時まで学校にいるのが当たり前になっていて、「10時組」と言う言葉までできている学校もあると報告されています。青年の声を聞いてください。
 「500人の生徒のテストの採点、成績処理のために90時間ちかくかかるので、テスト期間中は自宅で連日徹夜作業をしています。(高等学校・30歳・女性)
 「1日、27時間ほしい。もう少し寝たい。」(中学校・26歳・男性)
 「唯一の空き時間(一日一時間)にも、生徒指導が入り予定していた授業準備等ができないことも多い。学校にいる間は全く休む時間がない。リフレッシュする時間を少しでもとれればと思う。」(中学校・31歳・男性)
「働きすぎ。若いから、体力でもっているが、今の状況のまま年をとると思うと、定年までは無理だと感じています。」(小学校・31歳・女性)

 このような長時間・過密労働はいのちを削り、健康を害することになります。全国的にも05年度の休職者の数(病休者ではなく、3ヶ月以上休んでいる人)が7000人を上回りました。そのうち精神疾患の割合が59,5%となっています。おおざっぱに言えば10年前からの統計で、休職者の増えた数は精神疾患の人が増えた数とほぼ同じなのです。つまり、休職する教職員の中で精神疾患の人だけが急増しているということです。大阪ではさらにひどく、05年度の休職者は437人ですが(大阪市を除く)、その中の精神疾患の割合は68、4%です。03年度は58、9%、04年度は61、5%と増加しています。精神科医の実感からするとということで、複数の医者の意見は、精神的な病気で通院している人はもっと多いという実感で、4~5倍は患者がいるのではないかという医者もいます。共通して言われることは「なぜこんなに悪くなるまで医者に来ないんだ」ということです。もっと早く治療していたら、早く治るのに・・と言われます。休みたくても休めず、ぎりぎりまで自分を追い詰めて働いてしまう教職員。1人休むと、その学年が次々と倒れていく、「ドミノ倒し」という現象までおきているのです。

教員は「W・E」は影響がないのか?
 以上のように教員の時間外労働は労基法37条の適用除外となっており、超勤手当は支給されません。しかし、ホワイトカラー・エグゼンプションなどを含む労働法制の改悪は教職員にも大きな影響があります。教員の勤務時間は週40時間とされていますし、01年4月、厚生労働省による通達は適用されるのです。つまり、使用者である校長には「労働時間の管理を適正に行う責務」があるのです。それらが長時間労働の解消にむけた法的なたたかいの根拠になっています。もちろん、教育は国民のものです。教職員の長時間過密労働の問題は子どもたちの教育条件という視点から、少人数学級の実現や教職員の定数増の国民的なたたかいもすすめながら、法的な措置も視野に入れたたたかいもしなければならないと思っています。働くルールをさらに改悪する、残業代ゼロ法案はエグゼンプションされている教職員がたたかう根拠をなくすものであり、絶対に許されるものではありません。

(民主法律268号・2007年2月)

2007/02/01