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働き過ぎ社会を変える新しい運動―「働き方ネット大阪」 弁護士 岩城 穣(民主法律268号・2007年2月)

弁護士 岩城 穣

1 結成に至る経緯
(1) 2006年6月24日、民法協創立50周年レセプションの場で、大阪労連の服部信一郎さんから、「今、労政審で議論されているホワイトカラー・エグゼンプションと労働契約法について、民法協として具体的な取り組みを始めるべきではないか」と問題提起された。
 その前年には西谷敏先生から同様の提起があり、06年2月の権利討論集会の分科会で西谷先生にこのテーマで講演をいただいたが、その後は50周年記念事業(記念誌やDVDの制作、レセプション準備)に手を取られ、具体的な取り組みに踏み出せていなかったことから、上記の服部さんの提起は、タイムリーなものであった。
(2) さっそく、6月28日の幹事会、7月3日の事務局会議での議論も経て、7月5日、第1回の準備会を労連3人、民法協事務局4人で行った。3年前の「働くルールの確立めざす大阪連絡会」のようなネットワークを作る必要があるのではないか、どんな組織を作るか、どんな活動をするかについてイメージを議論するとともに、思いきって幅広い団体に準備会への参加を呼びかけようということになった。
(3) 8月4日の第2回準備会には、約30名もの参加者があった。労連の主要組合のほか、過労死家族の会、新婦人からも参加があり、また関西大学の森岡孝二先生も参加された。そこでは、ネットワーク組織の名称から始まり、運動のスタイルや活動の内容について、率直かつ多彩な議論がなされた。
・単にホワイトカラー・エグゼンプション導入阻止というだけでなく、すでにエグゼンプションの実態が先行している職場を変えていく取り組みが必要。
・自分の時間、家族との時間を取り戻そう。「サザエさん」のような家族の食卓を。
・労働者だけでなく、家族や子どもも、「応援」でなく主体的に参加できる運動がしたい。
・「働き方」「働かされ方」を問い直す運動を。
といったようなものであった。
 そして、名称は、最終的に「ストップ・ザ・エグゼンプション! 働き方を考える大阪ネット」に決まった。
 この準備会での議論は、その後の取り組みのあり方、方向を決める、本当に有意義なものであった。

2 感動を呼んだ結成総会(9月28日)
 9月28日、エルおおさか南館5階ホールで開かれた結成総会は、予想をはるかに上回る180名もの参加者で、ほぼ満員になった。
 森岡孝二先生の記念講演「働き方はこれでよいのか? ストップ・ザ・エグゼンプション」の後、私がコーディネーターとなって、損保会社の正社員畑尻充功さん、偽装請負の労働者吉岡力さん、夫を過労死で亡くし息子の過労死寸前の働き方を心配している伊森朱美さん、公立中学校の教師山田悟朗さん、電器会社の研究部長をしていた夫を過労死で失った尾形幸子さんの5人のパネリストによるリレートークを行った。そして、これらを受けて、会場の参加者を交えた活発な意見交換がなされた。
 最後に、結成までの経過報告と行動提起、運営要綱の提案と採択、運営役員の選出、副会長がなされて閉会となった。
 選出された役員は、次のとおりである。
 会 長 森岡孝二(関西大学教授)
 副会長 服部信一郎(大阪労連)、川本幹子(新婦人大阪府本部)、新田笑子(大阪過労死家族の会)、柏原英人(全損保)
 事務局長 岩城 穣(民法協事務局長)
 事務局次長 河村 学(弁護士)、高橋 徹(弁護士)、渡部有子(大教組)、遠近照雄(大阪労連)

3 結成後の役員・事務局会議での議論
 結成総会後の役員・事務局会議では、結成総会の感想を出し合い、今後具体的にどのような活動を行っていくかについて議論を行った。
 その結果、働き方ネットとして、今後継続的に「つどい」を行っていくこと、その中で、様々な講師をお呼びして学び、また多彩な分野の人たちにパネリストとして参加してもらいリレートークを行っていくこと、働き方ネットの紹介やエグゼンプションの危険性を知らせるリーフレットを作ること、会員を広げていくこと、ホームページを立ち上げること、などが確認された。
 そして、結成総会に続く「第2回つどい」を、ILOが1919年に8時間労働制を宣言する第1号条約を採択した日である11月28日に行うことを決定した。

4 今後の活動スタイルを確立した「第2回つどい」(11月28日)
 「1日8時間の労働が当たり前の社会へ」と題して行った「第2回つどい」では、前回に引き続き森岡孝二先生に「8時間労働制の歴史的意義を考える」として記念講演を行っていただいた。続いて、農機具販売会社の営業所長であった夫を過労死で失った藤井尚子さん、月400時間、36時間連続勤務までせざるを得ず倒れる日に遺書まで書いたというコンビニ店長渡辺敏和さん、アメリカと日本の両方の労働事情に詳しい阪大助教授のスコット・ノースさん、30年以上にわたって毎日5時の定時退社を堅持しているJMIU田辺鉄工所支部委員長の木野繁夫さんの4人のパネリストによるリレートークを行った。
 その後の会場を交えた意見交換では、予想を超える多くの意見、質疑がなされた。
 最後に、「ストップ・ザ・エグゼンプション──働き方を考える大阪ネット 11・28アピール」が提案され、満場の拍手で採択された。
 この「第2回つどい」は、参加者は72名であったが、今後の働き方ネットの活動の基本的なスタイルを確立したものであった。

5 その後の活動と今後の予定
 その後の役員・事務局会議は、「第2回つどい」にたくさん参加し、終了後の懇親会で親しくなった「チーム・ユニオン」の青年たちが常連として参加してくれるようになったこともあり、明るく、活発な議論が行われている。
 12月中旬には、ユニークなリーフレットも完成し(2万部印刷)、関係団体に下ろし、また街頭宣伝で配布するなどして活用している。
 会員資格や会費、カンパをどうするかという組織問題もあったが、①誰でも参加できるものとし会費は特に徴収しない、②ただし、入会に際して1口1000円のカンパを訴える、③会員一般用と事務局用の2つのメーリングリストを作り、希望する会員にはメーリングリストにどんどん参加してもらう、ということに決まった。
 今年に入り、ホワイトカラー・エグゼンプション法案の国会提出をめぐって情勢が変転する中、1月22日の夕方には、淀屋橋で「働き方ネット」として初めて街頭宣伝を行った。音楽家ユニオンの方に依頼してテナーサックスを演奏してもらったりもしながら、2月9日の法律家7団体共同シンポジウムのビラと働き方ネットのリーフレットを元気に配布した。
 「第3回つどい」は、3月16日に予定している。

6 最後に
 以上のように、「働き方ネット大阪」は、これまでになかった、非正規労働者や家族も含めた個人参加のユニークなネットワークとして活動を開始した。
 当面の最大の課題は、もちろんホワイトカラー・エグゼンプションの導入阻止であるが、現在すでにエグゼンプションを事実上先取りしている職場を変えていくこと、正規・非正規を超えて「働き方・働かされ方」を問い直していくことが求められている。
 民法協の会員・関係者の皆さんにも、ぜひご入会・ご賛同いただくとともに、絶大なるご支援・ご協力をお願いする次第である。
(なお、結成総会については民主法律時報412号(06年10月号)に高橋徹弁護士、第2回つどいについては同414号(06年12月号)に服部信一郎さんの報告がそれぞれ掲載され、また、この「民主法律」に、結成総会と「第2回つどい」での記念講演とリレートークの全文を掲載しているので、参照されたい。)

【活動日誌】
06・7・5 第1回準備会(7名)
  8・4 第2回準備会(30名)
  9・1 第3回準備会(15名)
  9・27 淀屋橋街頭宣伝
  9・28 「働き方ネット大阪」結成総会(エルおおさか南館5階ホール)(約180名)
  10・18 第1回役員・事務局会議
  11・20 第2回役員・事務局会議
  11・28 「第2回つどい 1日8時間の労働が当たり前の社会へ」(72名)
  12・11 第3回役員・事務局会議(5名)
  12・中旬 リーフレット完成
  12・26 第4回役員・事務局会議
07・1・18 第5回役員・事務局会議(12名)
  1・22 午後6~7時、淀屋橋で街頭宣伝(約20名)
  2・8 第6回役員・事務局会議(予定)
  2・9 大阪法律家6団体共同シンポジウムに参加(予定)
  3・16 「第3回つどい」(予定)

(民主法律268号・2007年2月)

2007/02/01