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人間らしく生き働ける、憲法が生きる社会に─私と家族の働き方からみえてきたもの 新日本婦人の会大阪府本部 川本幹子(民主法律268号・2007年2月)

新日本婦人の会大阪府本部 川本幹子

 「働く」ではなく「働き過ぎる」と言うこと。一日24時間という時間のなかで、働き過ぎると家族と食事ができないこと、ボンヤリしている時間があると罪悪感に襲われるような後めたさを感じると言うこと。仕事以外のことを考えるのさえおっくうになったりすること。そして死ぬことすらあると言うこと。それが人ごとではない国になっていると言うこと。「過労死」だと訴えなければ、「自己責任」が問われておしまいにしたい企業論理に押しつぶされてはたまらない。
 
 「働き過ぎ」が人間らしく生きることをどれだけ阻んでいるか、昨年新婦人がとりくんだ『私と家族の働き方黒書』の証言運動に寄せられた一つひとつの声からみえてきました。
 特徴的だったのは、息子や娘の働き方に心を痛める母親からの証言が多かったこと、また子育て世代の妻から見た夫の働き方も深刻なものでした。「正規・非正規」を問わず20代、30代の世代がまさに“結婚できない・子どもが産めない・育てられない”状況のなかにあるのです。
 「仕方がない」とあきらめているのか、「これが自分の生き方」と漠然と納得させられているのか、どちらにしても「こんな働き方からどうせ抜け出せないのだから」と告発することもできずにいる現状。深夜に帰宅する息子の背中を見ながら、証言せずにはいられなかった母親は「労働時間短縮の流れはどこにいったのでしょう。このままでは健康面で心配。結婚も遠のきそう親子で夕食を囲める家庭が築けそうにもない息子をみている親はつらくて悲しい」と書いています。
 「職場のモラルハラスメントで(息子は)会社を辞めました。心がすさんで、働く意欲を失いました。そして、今派遣になりましたが、自活できる収入ではありません。こんな若者に未来が見えるわけもありません」と訴えています。
 成果主義がもちこまれた職場では人間関係さえ希薄になり、上司の顔色を窺うギスギスした職場になっています。先輩から仕事を充分教えられず、逆に仕事のミスは押し付けられ、心も体もガタガタになったという、24歳の女性は、親のアドバイスでやっと取った有給休暇に「一日休むということがこんなにリフレッシュできるとは思いませんでした」と証言。
 その後、新婦人にも入会し、相談できる仲間がいることも彼女を支えているのです。
 「派遣先で一日20時間働け、と言われいつ呼び出しがきてもいいように寮で背広をきたまま寝ている」青年。「下働き・長時間労働で体を壊し、2回の転職後、デパートの販売員に。まわりに正社員はほとんどいなくて、一緒に働いていても雇用の形態はバラバラ」なのです。
鉄鋼会社に勤める22歳の青年は、「入社一年経った頃から毎朝出勤時間になると吐いている」と正月に帰省した時に両親に告げ、即辞めるように言うと、安心した様子だったと。
派遣先で「一日20時間働け」と言われ、いつ呼び出しがきてもいいように寮で背広を着たまま寝ていた青年。彼も含め同期入社の7人全員が退職しました。
辞めなければ、体を壊す。辞めると次の就職は「非正規」しかない、とどちらを選んでも、先のみえない働き方なのです。人間はモノではない。使い捨ては許さない、と怒りがこみあげてきます。

 新婦人の事務所にIさんから電話が入りました。働き出してまだ半年にならない21歳の息子さんのことでした。本人は意欲いっぱい働いているのですが、ホテルの管理をしている会社に就職し、勤務時間は午後3時から翌日12時まで21時間拘束です。仮眠はあるというものの12時以後勤務がのびることもしばしばで、この勤務の繰り返しが一週間続くことも。帰宅すれば寝てるだけの息子を見ていられないので、との電話でした。Iさんの夫は、子会社に出向になり、なれない仕事でノルマに終われ多忙な毎日でした。一昨年二月、自宅で倒れ意識が戻らないまま亡くなっており、過労死申請中(その後却下)その上息子まで・・・と心配しての相談でした。アトピーの息子さんは、仕事がきついとアトピーが出て体を掻くのでシーツに血がつくようなこともあると。友達と遊びにいくこともほとんどなく、家では寝ているだけのような息子は「青春していない」とIさんは言いきりますが、息子さんは、若いしはりきって働いているので、矛盾も感じていない。母親の心配の声が届かないと。かってに訴えることもできない、どうしてやることもできないと母親の心配
は募っています。労基局へ家族からの訴えにいくことを勧めていますが、息子のことがわかると困るのでそこまでの決心がつかない、と現在にいたっています。
 
 子育て世代の夫たちもまた、家庭にいることを許さない労働実態におかれています。週一回の保育園のお迎えすら上司に呼ばれ「ほかの人より働きが悪い」と言われた32歳の夫は、設計事務所勤務です。普段の帰宅が夜11時から翌1時頃。忙しいという時は夜中4時帰宅、徹夜もあるがすべて裁量労働に。「病気や心の病にならないかと強い不安を感じています」と妻の証言です。
 車のディーラーをしている37歳の男性は、朝9時からのミーティングが、前日の成績が悪いと昼までの長いミーティングになり、帰宅はほとんど11時頃。休みのなかった月もあり、そんな働き方が原因で妻とは別居になってしまった、と言います。
 子育てにほとんどかかわれない子育て世代の夫たち。「年中、母子家庭です」と思わず言ってしまうほどの妻たち。
 
 「少子化」が叫ばれ、「この国が危ない」とか「誰が社会を支えていくのか」と言った議論がされていますが、「人間らしく生き、働くこと」抜きに「子どもを産み、育てたい」という当たり前の願いは「わずらわしい」ものになりかねません。
 長時間労働は、結婚・出産で働く女性を職場からはじきだしているのも現実です。新婦人の女性の自立と少子化アンケート(06/9・10月・20~30代715名)でも70%が結婚・出産でいったん職場を離れていました。そしてその次には、M字型雇用の深い谷間からの再就職の困難さが待ち構えているのです。
 「残業代だってつかないよ」「24時間働くのもあなたの自由」「それで死んだって知らないよ」なんて怖い法律がまちかまえていたりするのです。
 働くことも結婚・出産・子育ても自然体で、そしてそのことに女性も男性もあたりまえにかかわっていくことが、どうしてこんなにむつかしいのでしょう。その根っこに迫り「幸せになるため働いているのだから」と問いかけ、声をあげなければ。

(民主法律268号・2007年2月)

2007/02/01