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WE(自律管理型労働制)と労働契約法の法案要綱批判 服部信一郎(大阪労連副議長)(民主法律268号・2007年2月)

服部信一郎(大阪労連副議長)

はじめに

 政府・厚生労働省は、財界に言われるままに、理念も道理も失って、日本版ホワイトカー・エグゼンプション制(労基法改正による「自己管理型労働制」の新設)の通常国会での成立を諦めずに画策している。昨年12月27日の労働政策審議会第72回労働条件分科会で、「最終報告(答申)」が決定されたが、肝心な「対象労働者」や「要件」は、政令で定めるとし、批判を恐れて先送りされているにも係わらず、今年になって「年収要件900万円以上」など秘策が打ち出されたが、これも1月25日に労政審に諮問された法案要綱では「省令」で定めるとし、その内容が示されないため、提出されても論議自体できない欠陥法案となっている。
 労働者と家族ばかりか、国民からも「残業代ゼロ法案」と批判の声が高まり、マスコミも批判世論を組織していることから、厚労省は名称も、「自立的労働時間制度」「自由度の高い働き方」など、何度も名前を変えて誤魔化そうと躍起になっている。それは、アメリカ政府と日本財界から、「成立させよ」との至上命令が下っているために、対象労働者や要件を狭めて見せ、通常国会での成立を図ろうとする意図からである。政府・厚労省は窮地に追い込まれている。安倍首相は1月17日、「参議院選挙後に先送り」主旨を表明したが、厚労省と経団連は「法案要綱を国会に提出すること」を、要求し続けている。安倍首相は自民党「労働生活部会」からも痛烈な批判を受け、支持率が急落していることから悩みきっている。当分の間、こうした事態が続き、労政審労働条件分科会での法案要綱審議も対決が続く状況で、面白い情勢にある(1月31日現在)。エグゼンプション制を完全に葬ることも今後のたたかい如何で可能であり、連合など路線を越えて共同し奮闘したい。
 しかし、労働契約法制については、マスコミがまともに取り上げていない。この法案の国会提出は強行される可能性が高い。労働契約法案の内容を知らせ、これも提出を断念させる奮闘がもとめられている。
 ここでは、10ヶ月間余りの労働条件分科会の審議経過をおさえながら、「最終報告」と「法案要綱」を批判したい。

「自己管理型労働制」の法案要綱批判

1.発端は日米投資協議
 裁量労働における残業賃金支払いを「除外(エグゼンプション)」するという事項は、01年6月の日米首脳会談において設置された「投資イニシアチブ」の中に示されたものである。日本とアメリカが経済パートナーとして投資環境を「改善」していくためのひとつであった。すなわちアメリカ企業が参入しやすいように、日本の労働時間制度をアメリカ基準にしてしまおうとするものである。これは、経済財政諮問会議が報告した「少数組合の団交制限」も同様である。
 そして、エグゼンプション制は04年に閣議決定した「規制改革・民間開放推進三カ年計画」で米国の制度を参考に検討するとうたわれ、05年6月には経団連が「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言(事細かな要件も提案)」を発表した。
 「最終報告」後に、打ち出されている「年収900万円以上」や「限定業種などの設定」は、批判から逃れようとしてのことではあるが、発議の発端が発端だけに、アメリカ政府と日本財界の意向に忠実なエグゼンプション制の法律づくりであることに変わらない。
 
2.後藤田正純(自民党雇用・生活調査会事務局長)の発言
 週刊エコノミスト1月9日合併号に、後藤田正純氏のインタビュー記事が掲載された。次の内容である。市場万能主義を主張する時期は終わりを告げている、「経済界は、まだ金儲けが必要なのか」と問いかけたうえ、「今回の議論ばかりは、自民党や政治家が労働市場の規制緩和に反対しても、『抵抗勢力』になることはあり得ない。負担ばかりを強いられてきた国民はそうはみない。むしろ、経営者の論理を理解する層の方がマイノリティー」と述べている。エグゼンプション自身に批判を強めているのだが、ワーキングプア問題の深刻さと打開方向の模索が続くなかでの最悪法案づくりだけに、自民党サイドの「労働法制(労働生活部会)」事務局長の発言になっていると思われる。
 この間の全労連・大阪労連、民法協や連合など広範な反対運動が、「格差と貧困」をうち破るキャンペーンと合流し、NHKの2回にわたるワーキングプアなどが世論を高めていることが、後藤田正純氏発言にみられる大きな動きをつくっている。しかも、安倍内閣の支持率を3割台にまで急落させていることも、たたかいの展望を明るくさせている。

3.「最終報告」までの経過と軽薄な審議内容
(異常づくめの審議会)
 昨年2月8日、川崎二郎労働大臣(現在は労働ビッグバーン批判者)から労働政策審議会菅野和夫宛に、諮問されたことから、労働条件分科会で「今後の労働時間法制の在り方」について審議が開始された。12月27日の「最終報告(答申)」まで、わずか10ヶ月間、回数にして22回(労働契約法が先行し、その回数も含む)、10月5日の第64回審議会からは異例の月3回ペースで開催された。審議委員は公・労・使7名づつ、使用者側筆頭は紀陸孝(経団連常務理事)、労働者側筆頭は長谷川祐子(連合労働局長)、公益委員会長は西村健一郎(京大教授)であった。いつも物議をかもすのは奥谷礼子使用者側委員、過労死の問題について「自己管理の問題、他人の責任にするのは問題」「労働組合が労働者を甘やかしている」と発言しても平気な人物。
 審議会運営が最初から異常につぐ異常なものであった。会長は単なる司会者で、提案と質疑回答はすべて審議官や労働基準局長など官僚がやりこなすもので、最後まで他の審議会とは全く異なったものであった。6月27日の第59回から8月31日の第60回まで、2ヶ月間審議会は開催されなかった。その理由は、松井審議官(当時)の審議手順に、労使が爆発し、審議中断宣言が両者から出されてからである。爆発して発言した内容は、「ほとんどの論議の遡上に上っていなかった有期雇用、休暇、割り増しがいきなり出てきた。しかもかなり細かい内容だ」であった。後でも述べるが、現行法を改善する方向での提起はことごとく反対する立場(新自由主義イデオロギー)が現れた形である。再会にあたっては、松井審議官を更迭したうえ、再会したのが8月31日の第60回であった。
 「最終報告」へは、4月11日の第54回審議会で「検討の視点」が出され、6月13日の第58回審議会で中間取りまとめ案として「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」早くも出された。異常さのひとつは、規制改革・民間開放推進会議が7月21日に「労働契約法制及び労働時間法制の在り方に関する意見」を出し、エグゼンプション制設定は既定の事実と言わんばかりの詳細な概念を公表したことである。審議中に、内閣府が審議結論を出したのである。そして、9月11日の第61回審議会で「在り方」を「検討」に変え、徐々に報告に向けた進行となった。11月10日の第67回審議会では「今後の労働時間法制について検討すべき具体的論点」に発展し、12月8日の第61回審議会で「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)案」が出された。そして、12月27日の予備日であった審議会で「最終報告」とし、労働大臣に答申した。最後まで、労働者側は反対し、一部の使用者側も拙速論議に異例の発言があったのにも係わらず、西村会長は「政令内容は斟酌して論議を進めます」と、強引な形で論議終了を告げ、事務局が答申する趣旨記載した文章を委員に配布して、終えた。

(使用者側が割増率、健康配慮義務に徹底反対)
 昨年1月27日に川崎大臣に報告された「今後の労働時間制度に関する研究会報告書」を土台にしないことを再三、労働者側がもとめ、一応の審議会確認となったものが、第53回審議会で「労働時間法制について」の文書で、書き込まれて提案された。しかし、この頃は、残業時間の規制や休暇制度の拡充など、「健康配慮義務」課題が提起されたうえで、「自立的労働時間制度」が潜り込ましていたが、「最終報告」では、使用者側の強い反対で、これらは削除された。残業規制を図るための「割り増し賃金率」50%が6月27日の第59回審議会では提案されていたものが、「最終報告」から削除(両論併記型に)されている。
 11月10日の第67回審議会で、健康・福祉確保措置として、「週当たり40時間を超える在社時間等がおおむね月80時間程度を超えた対象労働者から申出があった場合には、医師による面接指導を行うこと」は、残っているが、「申出があった場合には」と、実際には申出できない職場環境でのもとで、意味をもたないものである。経営者側は今日の過労死事件でも賠償請求などを敵対的(リスクとして)に捉えていることから、「健康配慮」を義務づけられる事に最後まで抵抗していたことが、印象深い。法案要綱でも「4週間を通じて4日以上の休暇」を義務づけているが、今でも、休日出勤が横行しており歯止めにならないばかりか、連日24時間働かせることも可能な要件でしかない。

(対象労働者、要件の論議の変遷)
 中心問題は「対象労働者」と「要件」。「対象労働者」は、「中間報告」では「労働時間の配分の指示を受けることがない者」「業務の追加の指示があった場合は調整ができる者」とされていたが、「最終報告」では「業務や労働時間配分の決定に関し使用者が具体的な指示をしないこととする者」と、どちらもひどい設定ではあるが、いっそう曖昧な言い回しになった。「年収要件」では、「自立的に働き方を決定できると評価されるに足る一定水準以上の額である者」が、「管理監督者の一歩手前に位置する者」と変わり、命令で定めるとした。管理監督者の概念やイメージも審議会では曖昧にし、当初明記されていた「製造業を適用対象にしない」も消えて終えている。経営者側代表委員の中にも「働き方と関係ない年収要件が入っており賛成できない」という意見さえ、最終日にあった。
 対象労働者や要件は全く意味をもたない。経団連はもともと「400万円以上、対象業務は700万円以上」、「業務遂行の手段や方法、その時間配分等を労働者の裁量にゆだねることができる労働者」と提案している内容に、添った調整話である。残業代が出ない上司が時間外労働している職場で、一般労働者が残業代を請求できる筈がない。
 労働者側委員が「自律的労働と言うなら、なぜ裁量労働制やフレックス制があるのに、エグゼンプション(残業代不払い)なのか」を再三、使用者側委員に問いかけたが、全く返答できないままだった。ここにも、対象労働者や要件が具体的に示されない本質がある。厚労省は「労働者が創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方」は、単純に、経団連が主張する「労働時間規制の撤廃」の骨格でしかない。
 
4.労働者はエグゼンプションなんか要求していない
 審議会のはじめ頃は、分科会のたびに「資料」が提供され、労働時間の実態や経営者の意向が検討された。9月29日の第63回審議会では「ホワイトカラー労働者の働き方について」と題する資料が配付されている。それによると、ホワイトカラー労働者数は平成16年現在、2,954万人、全体の55.2%。人事担当部署に、「労働時間規制を受けない働き方の導入を望むか」の問いに、「望む」が43.9%(裁量労働制導入済み企業)、30.0%(裁量労働未導入企業)であった。いずれも複数回答方式であり、経営者自身もそんなに熱望するものでないことが示されている。同じ質問を、労働者にも聞いた結果が報告されている。一般労働者ではわずか8.1%、企画業務型裁量労働者でも24.9%しか「望まず」、「年次有給休暇の容易な取得」と答えた率の方が上回っている。労働者は望まず、経営者もそう積極的でないエグゼンプションの姿を、厚労省データー自身で示した格好だ。

5.「最終報告」と法案要綱の大問題点
(歯止め基準にならない年収要件) 
 エグゼンプション制の対象者は一日8時間、週40時間の法規制が適用されず、残業代も支払われない。現在の管理職のような処遇が、「管理職一歩手前の人」にまで広がり、間違いなく賃金は抑制される。厚労省案は、対象者の要件を設けた。厚労省が想定するのは年収800万~900万円以上。企業側の求めた400万円以上より対象は狭まるが、法規定でなく政省令で決めるとし、導入したあとで年収水準を拡大するのは容易である。  
使用者側委員でのニアンスが大企業と中小企業で違いがあったが、この範囲の水準だと中小企業ではほとんどが管理職以上になる。同じ年収レベルで考えられない問題がすでに浮上しており、経営者団体間でも意見を違えている。大企業でも「自由度の高い働き方にふさわしい制度」という文言に従い、ほかの条件と合わせると、裁量権の大きな上級技術者や一部の専門家などに限られるが、しかし、企業側では、スタッフ職などにも幅広く適用したいと期待する経営者も多く存在しており、「要件」が決められないまま、法案化作業に入る異常な事態を招いていた。こうした思惑のちがいもあり、法案要綱でも「適切な水準を検討した上で厚生労働省令で定める」とし、逃げた。
(違法な労働実態を合法化する論理)
 現在、30代の4人に1人は週60時間以上働き、過労で労災認定された人も、労基署にサービス残業の是正勧告を受けて不払い残業代(100万円以上)を支払った企業とも、過去最多(対象労働者16万8000人で合計約232億円)である。過労で脳・心臓疾患になったと労災認定された人は、330人にのぼる。労災認定は管理職が多く、エグゼンプション制はその温床を広げることは間違いな。
 「集中的に働き、まとめて休む」ことで長時間労働はむしろ抑制できると、経団連は主張するが、真っ赤なウソである。アメリカには、労働時間を制限する法律がなく、週40時間を超えれば1.5倍の割増賃金を払う条項があるだけ。仕事の成果次第で思い切った報酬を出す「成果主義」が定着している。エグゼンプション制の趣旨も、時間で評価しにくい仕事で「成果を出せるよう好きなだけ働く」考え方であり、対象も①週455ドル(約5万4千円)以上の報酬があること、②部下が2人以上いる管理職で、採用、解雇の権限を持つ人―に限られる。日本型エグゼンプションは、あまりにもズサンな規定で制度化に入っている。全くの休みが取れないことは、現状だけでも十分に立証できる。
 全労働省労組は、約1700人の労働基準監督官を対象に昨年11月、アンケートを行ったが、その結果は、60%がエグゼンプション制の導入反対であった。「労基法違反の残業が摘発できなくなる」「労働時間を確認できず過労死の認定が難しくなる」との意見であった。
 非正規雇用の増加で正社員は減り、正規社員の負担が高まっているが、企業側は労働者保護や法律遵守の意識は極めて低い状況にある。長時間労働も、仕事量の多さが原因だけに労働時間規制の撤廃が解決させるものでなく、もっと長時間過密労働を招くものである。違法な労働時間管理の実態に合うよう法律を変え、サービス残業も合法化しようとするのはもっての他である。労働者が不安に駆られる制度を導入して、企業にもプラスとなるだろうか、ここを考えるべきである。経団連は、経済団体の体をなさなくなって来たとの指摘があるが、まさに新自由主義のイデオロギーで頭の回路を潰してしまった守銭奴集団に成り下がった感がする。法令順守の徹底を誓うべきである。
 「企画業務型裁量労働制」の対象業務を中小企業に大幅に緩和する問題があるが、紙面上割愛する。

「労働契約法」の法案要綱批判

 日経新聞が、「就業規則に労働契約としての法的効力を持たせることで全従業員の労働契約をまとめて変更できるようになる。経営の機動性を増すため経済界が導入を求めていた」と書いたように、「労働者の同意が前提」との装いの労働契約法案は、経営者が一方的に決定できる就業規則をもって、賃下げや雇用期間など広域にわたる労働契約がさじ加減ひとつで出来る法律案である。

1.「労働契約法案要綱」=「不利益変更合法化法」
 大きな変更点は、「違法な解雇の金銭解消制度」、「整理解雇の規制」が、当初あった「報告素案」や「最終報告」から削除されたことである。金銭解決制度はたたかいの成果でる。しかし、経団連が強くもとめ、これまでも提案された経緯があることから、今後も注意を払っておく必要がある。整理解雇の4要件は、跡形無く削除されてしまっている。これは前回の労基法改正のときにも課題だったものである。厚労省からすれば、バランスとして労働者側が強く求めていることから、「素案」「最終報告(トーンダウンして)」に入っていたが、遂に削除されてしまった。
 そして、法案要綱に残り、中核となったのは経団連がのど元から欲しがっていた「就業規則による労働条件の変更」である。

2.「就業規則による内容の変更」は、次のように法案化された
 本文二の(これ自体、新たに文書で整理されて書き込まれた)
(一)で、労働者及び使用者は,その合意により,労働契約の内容である労働条件を変更することができるものとすること。
(二)で、使用者,労働者と合意することなく,就業規則を変更することにより,労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないものとすること。ただし,(三)による場合は,この限りではないものとすること。
(三)で、使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は,当該変更後の就業規則に定めるところによるものとすること。ただし,労働契約において,労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については三(一)に該当する場合を除き,この限りでないものとすること。
(四)で、就業規則の変更の手続に関しては,労働基準法第八九条及び第九〇条の定めるところによるものとすること。

3.就業規則変更と「判例法理」との関係は、装いだけ
 審議会ではたびたび「最高裁秋北バス事件判決」が登場した。判決要旨は「使用者が、あらたな就業規則の作成または変更によつて、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解すべきである」という原則を明らかにしたものである。そこを、「使用者,労働者と合意することなく,就業規則を変更することにより,労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないものとする」とした。そして、合理性の判断要素として、①労働者の不利益変更の程度、②労働条件変更の必要性、③変更後の就業規則内容の相当性、④労働組合などとの交渉の状況などがあげた。
 しかし、この4要件以外にも、「代償措置」「緩和経過措置」なども、実際には労使や裁判所の判断になっていることなど考えれば、狭い捉え方で危険である。「労働者と合意することなく」と明確であるが、労働者の合意は本当の意味でどう保障されるか、何も規定されないままである。経営者が一方的に決定できる就業規則変更をもって、労働契約内容を変更(改悪しか考えられない)することが出来るようにする狙い自身、許せない。

4.こんな労働契約法が成立すると、どんな事態になるか
  就業規則は労働基準法89条で定められている。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、監督署に届けなければならない(監督署は5年経れば廃棄処分している)。届け出に当たっては、労働者の「意見」を聞き、書面を添付することになっている。しかし、審議会でも、労働者代表の「民主的選出」が大論議となった。「素案」には、抽象的であったが「民主的選出」に係わった提案があったが、削除されての立法化となった。未組織労働者が8割を越える状況にあるが、全体でみれば、「民主的選出(選挙など)」は保障されず、経営者が管理職に「君、ハンコ押しといて」で、済ましているケースが圧倒的。従業員組合があるところでも、「変更内容」が組合員に周知されないまま、ハンコを押してしまっている現状がある。この就業規則で、賃金・労働時間・雇用形態・転籍や出向など、経営者が思いのまま、不利益変更ができる定めをすると、考えるだけでゾーとする。
  職場に、たたかう労働組合がある場合も問題である。団体交渉を経て、協約化できた事項と就業規則との関係が、提案されていない。審議会でも、労働基準課長は答えられずに終わっている。就業規則を根拠に、労働契約を変更できるなら、団結権を侵害するものである。労働組合を潰す意図が秘められていると見るべきである。
  「周知」が条件になっているが、この点も、使用者側がしつこく削除をもとめた経過があった。すなわち就業規則が「周知」されていない、労働者に就業規則を知らせていない現状があることからである。「周知」がなされていないにも係わらず、不利益変更を行おうとする訳であるから、「周知」を外したいと考えたからである。

(民主法律268号・2007年2月)

2007/02/01