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「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入反対/法律家7団体共同シンポジウム開催 弁護士 中平 史(民主法律時報416号・2007年2月)

弁護士 中平 史

【約700名の参加者で会場は一杯に】
 去る2月9日、約700名が参加してエル・シアターで連合大阪法曹団・大阪労働弁護団・民主法律協会・大阪社会文化法律センター・自由法曹団大阪支部・青年法律化協会大阪支部・日本労働弁護団大阪支部の法律家7団体共催の法案導入に反対するシンポジウムが開催されました。

【労政審・労働者代表委員から情勢報告】
 シンポは、「通常国会上程は見送られたが参院選後には再び登場する。問題点を学んで本格的な廃案に。」との蔵重信博連合大阪法曹団代表幹事の開会あいさつで始まりました。
 まず、労働政策審議会労働条件分科会の労働者代表委員、田島恵一自治労全国一般評議会幹事から情勢報告がありました。
 審議会は「エグゼンプションありき」で出発、主眼は①解雇の金銭解決と②エグゼンプション導入の2点のみ、法案で5分の4以上の多数決が導入要件とされている「労使委員会」は労使対等ではない、特に労働組合がない場合の不平等は著しい、年間104日以上の休日が確保されるから過労死の心配なしと厚労省は説明するが現行規制すら守られていない、現行の「管理監督者」ですら自由度はない、使用者側委員は「年収」や「相当な地位」の要件は不要と主張、審議会でのアメリカ現地調査では訴訟回避のため労働時間が明示されていないと知り驚いたなどとの報告がありました。
 また、割増賃金制につき、企業への残業抑止力となる割増率は52.2%なのに週80時間以上の場合にやっと割増率を50%以上とする法案は極めて不十分との指摘もされました。

【「ホワイトカラー・イグゼンプション-10の設問と解答」】
 続いて、西谷敏大阪市大教授による講演「ホワイトカラー・イグゼンプション-10の設問と解答」がありました。
1.ホワイトカラー・イグゼンプションとは何か?:一定範囲の労働者につき労働時間規制を適用除外すること。1日8時間・週40時間規制は外され36協定も時間外割増賃金も不適用。
2.誰に適用されるか:法案要件中決め手は「年収が相当程度高い者」。年収900万円以上に適用とは厚労省が勝手に言っているだけ、日経連の主張は400万円。施行規則で決めるとされているが決定機関は労働政策審議会。
 3.誰が何のために推進してきたのか:日本経団連が不払い残業合法化のために。
 4.労働者に何をもたらすか?:労働量まで自由に決められる労働者は多くはいない。労働時間短縮はない。これは経済同友会も認めている。
 5.年収要件をどうみるか?モデルのアメリカの制度では、労働時間が週40時間以上になると50%以上の割増賃金を支払義務付けされるので年収要件がモノを言う。日本とは発想が全く違う。
 6.労使委員会決議と個人同意は歯止めになるか?:労使委員会は一応労使同数。だが使用者側意見一致は簡単なのに対し労働側意見は分かれる。5分の4の賛成とは10人に8人の賛成。使用者側全員賛成だから労働側で5人中3人が反対しなければ決まってしまう。
 何割の個人同意を拒否することができるのか。
 7.休日保障は意味をもつか?:休日に「勝手な」出勤・在宅勤務横行。1年104日の休日保障は監督が非常に困難。1年中261日が経過しないと基準クリアーが判断できない。
 8.現行の合法的残業代不払い制度との関係は?:現行法上、①管理監督者に対する適用除外、②裁量労働のみなし労働時間制の2つの残業代未払い合法化制度がある。WE導入残念としつつ、①と②の適用範囲拡大で残業代不払い目標達成の可能性があり注視が必要。
 9.厚労省の政策のねじれ現象がなぜ生じたのか?:厚労省は「労働ビッグバン」促進と「格差是正」の両方を推進。ねじれ現象は「ビッグバン」政策の真の推進者が実は日経連とその代弁機関であることに起因。
10.労働時間短縮に向けての課題は?
    政府がやりたいことは参院選後に。時間外の上限規制を求めていく、労働組合が36協定を結ばない取組を進めていくなど。

【職場と過労死遺族からの訴え】
 労働審判相談センターの山崎秀樹さんからは、昨年4月の開設以来の百数十件の相談の中から、定時以降の時給を定時よりも低く設定して残業時間をごまかしている事例、手当欄が空欄なので質問したら「うちは残業代ないから気にせんといて。」と言われた事例などを紹介し、「今なら(苦情が)言える、でも導入されたら言えなくなる」と導入反対の呼びかけがありました。また、埼玉などの未組織労働者から今回のために応援メールが届いたことも紹介してくれました。
 全日本損害保険労働組合大阪地方協議会副議長の柏原秀人さんからは、損保業界では企業再編による労働強化が厳しく労基署からの指導があり不払い残業がなくなった結果、過密労働に拍車がかかり、PCのオン・オフで労働時間が管理され、「私的時間」と称する時間がその時間から引かれ、精神疾患罹患者が急増している実態が報告され、「いい集会に参加できた。法案に反対するだけでなくよい職場を。」と呼びかけがなされました。
 過労死家族の渡邉洋子さんからは、出産のため大阪へ帰省中に夫を過労のために亡くした経験から、「恐れていたことが起こってしまいました、でも死んでしまうとは」と既に法案先取り状態にあった夫の働き方から真面目で責任感がある人ほどノルマで追い詰められていってしまう恐ろしさを話してくれました。

【会場からも多数の発言】
 会場からも、過重労働のため車イス生活を余儀なくされ労災訴訟係争中の平川主計さんから「この法案の正体は車イスや死をもたらすものです」との訴え、全港湾のカクさんから8時間労働制運動からメーデーが生まれた歴史に習いこれを契機に運動を広げましょうとの呼びかけ、年間4000時間働かされた経験を持つ浅野啓さんから「今なら訴えることができます。でも、この法案が通ったら裁判ができなくなります。」との訴えがありました。

【今日の集会を第一歩に】
 「法律家7団体共同アピール」が採択された後、時間は労働条件の基礎、労働運動の原点です。今日の集会を私たちの労働法制を作る第一歩にしましょうとの小林勤民法協会長による閉会あいさつで今回のシンポは締めくくられました。

(民主法律時報416号・2007年2月)

2007/02/01