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「鷹匠」店長の過労自殺は、会社の責任―京都地方裁判所で、寺西過労自殺事件の全面勝訴判決下る― 弁護士 村山晃(民主法律時報395号・2005年4月)

弁護士 村山 晃

1 会社の過労自殺の責任を断罪
  過労自殺に追い込んだ責任が会社にあるとして、妻と子どもらが損害賠償請求を訴えていた寺西さんの事件で、3月25日、京都地方裁判所は、寺西さんの請求を全面的に認める画期的な判決を下しました。
  この事件は、先に、労働基準監督署で、過労自殺を労災認定させるという、これも画期的な勝利を収めています。かつては監督署の労災認定の門戸が狭く、認定をさせるための裁判を余儀なくされていました。しかし、寺西さんの件では、監督署レベルで労災認定させ、地裁レベルで会社の責任を認める判決を出させることができたのです。これは、過労死や過労自殺をめぐるこの間の闘いが、それだけ前進してきたことを示す何よりの証左です。
  判決の意義は、
  第1に、店長という一定の「裁量性」があるとされる立場にあるものについて、過重な長時間労働の実態とストレス要因を正確に認定し、それが健康破壊につながったことを認めたことです。
  第2に、生前に医師の確定診断がないなかで、うつ病の病態を正確に把握し、当該疾病に罹患している事実、それと業務との関係、及び自殺との関係を明快に認定したことです。
  第3に、会社の責任について「経営改善をはかることを優先して、彰(被災者)の業務などを軽減させる措置を取っていない」「彰の異常な精神状態を知り得たはずであったのに、何らこれに対する措置を取っていない」として、明快に会社の責任を認めたことです。経営を優先させ、健康を顧みない会社を厳しく断罪したのです。
  第4に、過失相殺をまったくしなかったことです。本件の自殺は、本人や家族の責任ではなく、すべて会社に責任があることを明確に認めたもので、時として、自殺の原因を、本人の性格に求める考え方を厳しく断罪しました。

2 店長の「裁量」では軽減できない過重な長時間労働を認定
  会社は、高島屋京都店に「鷹匠」というそば屋をはじめいくつかの飲食店を京都市内に持つ外食産業を営む会社です。今は無くなっていますが、しばらく前まで、三条川端東入ルに、立派な表構えの、やはり「鷹匠」と言う名前の和食レストランがありました。亡くなった彰さんは、ここの店長をしていたのです。そして、ここでの店長としての仕事のさせられ方が、裁判の大きな争点となったのです。
  この件では、幸い、店長もタイムカードをつけていました。その結果、1日の平均労働時間が、12時間に及んでいること、休日が1ヶ月2日程度しかないこと、などが、客観的な資料から裏付けられています。
 しかし、会社は、そのことを前提としながらも、店長というのは、自分で労働時間の管理ができる仕事であり、休もうと思えば休日も取れた。時間中でも休みが取れるし、特に、店が暇な時間帯にはゆっくり休むこともできる。外出も自由にできる、と主張しました。そして現に、彰さんもそうしていた、と言い、それに添う証人も出してきたのです。
  この点について、裁判所は、彰さんが自由に休憩を取っていたと言う会社側の証言を「一方的」「伝聞」として退けたうえ、彰さんの仕事ぶりについて、「従業員の監督とあわせて、自ら率先して業務に従事していたとの勤務態度に照らせば、タイムカード上の勤務時間中はほとんど業務への従事にあてられていたと言える」と認定しました。
  そして、焦点の「店長の裁量」については、彰さんの死亡後に店長になった人が「自ら業務に従事することよりも従業員の指揮監督を重視して三条店店長業務を行っていたにもかかわらず、勤務時間は平均して12時間程度であったことからすれば、店長の裁量でもって勤務時間の軽減を容易にはかることができたとは言えない」と判断したのです。
  この店長は、会社を代表する証人でしたが、「自分は1日12時間仕事したが、平気であった」と言いたかったようです。いみじくも長時間労働の実態を自白したのです。
  実際、店長は、いくら長時間労働をさせてもコストがかかりません。その結果、業務上のいろんなしわ寄せがくるのです。そして、そのすべてを真面目に受けとめ真剣に対応する性格が反映すると典型的な働き過ぎが生み出されるのです。
  裁判所は、こうした長時間過加重労働に加えて、彰さんが、「三条店の売上減少により、これを回復するため種々努力を重ねることを要求された」ことを指摘し、「社長は、彰に対して、売り上げの回復を求め続けていたことに照らせば、彰は、被告(会社)により過重な労働を強いられていたというべきである」と判断したのです。そして、これも大きなストレス要因であると指摘しました。
  そして、もう一つのストレス要因として、「社長は、彰の異動を決めて、彰の意に反して実行するべく強く説得した」ことを指摘しています。

3 自殺の原因はうつ病、その原因は、すべて業務
  うつ病の罹患と自殺の原因について、判決は、過重な長時間労働の持続、業績回復の要求にもかかわらず効果が出ない、などのストレス要因が積み重なってうつ病に罹患した後、不本意な異動の内示を受け、強く説得されたことがきっかけになって、自殺に至ったものである、と判断しました。
  自殺の原因について、判決理由は、「うつ病によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態にて、衝動的に自殺を図ったと認めるのが相当である」としています。
  監督署では、うつ病による過労自殺であるという認定がされていますが、今回、会社は、そこについても徹底的に争ってきました。彰さんは、生前には、この病気について、医師にはかかりましたが、きちんとした診断を受け治療を受けてきませんでした。
  監督署で、労災の認定を求めるなかで、春日診療所の遠山先生に鑑定的な意見を作成してもらいました。そして、裁判になって、そこで出された事実関係をふまえて再度意見書を作成し、証言にも出ていただきました。激しい会社側弁護士の反対尋問を跳ね返しての遠山先生の医師としての証言が、全面的に生かされて、今回の判決に実を結びました。専門家の協力、とりわけその分野で先進を行く、理解ある専門家の協力が決定的な力を発揮した事案でした。

4 会社の責任を白日の下に
  この事件は、労災認定をされた後、会社の責任を追及する裁判です。過労死にしろ、過労自殺にしろ、会社が、労働者をどのように働かせたか、に一番の問題点があります。今回も、「経営を優先させ、労働者の業務軽減に無頓着であった」ことが、過労自殺を生んだとして、会社の責任が認められたのです。また、裁判所は、彰さんが発していた異状のシグナルにも会社が無頓着であったことも認定しています。
  過重な長時間労働をしている事実があり、異状を訴えている事実があるのに、何の改善措置も取らなかった、だから会社の責任である―裁判所の判断は極めて明快です。
  彰さんが自殺する数日前、彰さんが業務中に階段から転落して大けがをする事件が発生しました。転落事故そのものも初めてのことです。会社は、そのこと自体で、先ず異状を感ずるべきです。そして、入院した翌日、社長が見舞いに行った直後に、彰さんは突如退院を申し出て、無理矢理退院して、仕事に復帰しているのです。それも極めて異常なことです。社長は、見舞いに行って「ゆっくり休むように言った」と主張します。しかし、事実は、その直後に退院を申し出ているのです。
  この点について、裁判所は、次のように判断しました。
  「社長は、彰の業務処理につき代替措置を何ら講じていないのであるから、彰としては早期に退院せざるを得ない状況にあったと言うべきである」。
  大けがをしても、とても休める状況にはなく、それだけ彰さんが追いつめられていたことを強制退院の事実が示しています。

5 すべて会社の責任・過失相殺はしない
  「過失相殺はありません」裁判官が判決の主文を言い渡した後、判決要旨として、こう告げた時、「パーフェクトだ」と確信できました。会社相手の労災事件では、常に「自分の健康管理責任」とか「自分の素因」とか言われて過失相殺問題がついて回ります。私たちは、常にこの闘いにいどんできました。「すべて会社の責任である」とした判決が、まさに画期的である大きな理由です。自殺は、自ら命を絶つ行為ですから、どうしても本人の責任が問題とされます。この点について判決は、「(業務に起因する)うつ病により正常な判断能力等が著しく阻害された状態にて行われたもの」であるから本人に責任は無いと、明快に判断を下したのです。

6 むすびに
  こうして、1審判決は、慰謝料の金額について問題を残したものの、全面勝訴判決でした。会社は控訴してきましたので、闘いは大阪高裁に移ります。私たちは、何としても、この判決の勝利の水準を守りきらねばなりません。
  また、過労死事件はいつもそうなのですが、裁判で勝利をしても亡くなった人は戻ってきません。気持ちが本当に晴れることはありません。でも、無念を晴らすことはできます。自殺と言えば、本人の責任と思われがちですが、過労死と何ら変わることはないのです。また、今回は、より明白に本人には何の責任もなく、すべて会社の責任であることが明らかとなりました。そのことを社会的に明らかにできたのは、本当に良かったと思います。
  私たちには、大阪高裁での闘いと合わせて、この判決を武器にして、過労死・過労自殺を生み出すものを根絶する闘いも待っています。闘いは続きます。
(弁護団は、村山、佐藤克昭、浅野則明〈以上京都〉及び岩城穣〈大阪〉)
(民主法律時報395号・2005年4月)

2005/04/01