過労死問題について知る

HOME > 過労死問題について知る > 勝利事例・取り組み等の紹介 > 大島秀敏さんの過労死裁判支援の取り組みと、労働保険審査会における逆転裁決 大島秀...

大島秀敏さんの過労死裁判支援の取り組みと、労働保険審査会における逆転裁決 大島秀敏さんの過労死裁判を支援する会 小笠原 勝(民主法律260号・2005年2月)

大島秀敏さんの過労死裁判を支援する会 小笠原 勝

一 大島過労死裁判とは
 東大阪市にある澤村製作所で24年間働いてきた大島秀敏さんが、平成10年5月26日、会社内で『くも膜下出血』で倒れ、平成10年6月17日に死亡。
 大島秀敏さんは、早朝7時過ぎに出勤し、午後9時に退勤するのが日常の勤務時間であった。亡くなる前の4カ月間の時間外労働時間をタイムカードで計算すると、月平均80時間以上という長時間の時間外労働であった。

二 労災申請、行政訴訟・民事訴訟の経過
 1999年11月19日 秀敏さんの奥さん、大島照代さんが、東大阪労働基準監督署に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の請求。
 2000年4月14日 不支給決定。
      6月8日 大阪労働者災害補償保険審査官に対し審査請求。
 2001年3月28日 審査請求を棄却。
      5月30日 労働保険審査会に再審査請求。
 2002年12月2日 照代さんと3人の娘さんが、大阪地方裁判所に東大阪労働基準監督署長を被告とする「労災不支給決定取り消し訴訟」(行政訴訟)、株式会社澤村製作所・代表取締役澤村長武に対する「損害賠償請求訴訟」(民事訴訟)を提訴。

三 大島過労死裁判の支援の経過
 (1)大阪労働健康安全センターからの要請
  ◇2002年10月頃、大阪労働健康安全センター事務局長の北口修造氏より、「会社が東大阪市御厨南に所在するので(被災者も東大阪市在住)東大阪労連で体制を取って、支援をお願いしたい。」と要請。東大阪労連は、この裁判支援は未組織労働者の劣悪な労働条件の改善、働く権利を守る闘いと位置付け、支援体制を結成し、この裁判勝利に向けて全力をあげて支援に取り組むことを意思統一した。

 (2)「支援する会」結成の準備
  ◇「支援の会」結成に向けて「打ち合わせ会議」1回、準備会3回開催。

 (3)「大島秀敏さんの過労死裁判を支援する会」の結成と取り組み
  ◇2003年2月12日、東大阪労連と地域の働く仲間で、『大島秀敏さんの過労死裁判を支援する会』を結成。「労災不支給決定取り消し裁判」「損害賠償請求裁判」の二つの裁判闘争と『大島秀敏さんの過労死裁判を支援する会』への加入の訴えなどの支援を強めてきた。
  ◇東大阪市内に働く労働者のいのちと健康を守るために、労働条件の改善、働くルールの確立、過重労働による健康障害防止などの運動を合わせて進める。

四 東大阪労連における支援の位置づけ
◇第一は、日本の歪んだ労働実態をただす意義です。
 東大阪のような、労働組合もない、中小零細企業では、すさまじいまでの長時間労働、サービス残業がまかり通っています。春闘と言っても元気が出ない、サービス残業、休日出勤はいやだけれども、会社がつぶれるよりまし、今更、失業して行くところがないから条件が悪いけれども働くといった状況が続いています。こんな状態をどこかで断ち切らなくてはならない。「サービス残業は犯罪」を常識にしていくたたかい。また、過労死を出すような会社は社会的に批判を受け孤立する、そんな社会をつくっていくたたかいが、この大島さんの過労死裁判を支援する第1の意義です。

  ◇第二は、使用者責任を明らかにするたたかいです。
 東大阪労連は労働相談を通じ、今、いくつかの争議をたたかっています。それらの会社では、残業代の支払いを要求すれば会社が証拠を出せというのです。本来、何時間働いたかを掌握するのは使用者の責任であり、何時間働いた、残業代支払えと言ったときに、働いていない、残業代を支払わないというのであれば、その証拠をこそ会社が立証すべきです。残業の時間の掌握はもちろん、労働者が心身の健康を損なうことがないよう注意することは、あたりまえの使用者責任なんだとい常識をつくっていくたたかいです。

  ◇第三は、この大島過労死裁判のたたかいは、大島さん自身も未組織で、中心になる単組がない、そんな中で、地域労連が中心になって裁判を支援するケースとなります。この裁判を通じ、東大阪労連が真に東大阪地域の未組織労働者の「守護神」になっていくたたかいだと考えます。働く仲間の会の組合員も、120名を越えています。しかし、100名以下の零細企業での労働組合の組織率は1%に満たない状況です。東大阪26万の勤労者の大半が100名以下の工場で働く未組織であることを考えると私たちが始めた仕事は、まだ緒についたばかりです。東大阪の未組織労働者を組織する壮大なたたかいの中で、未組織労働者に東大阪労連が一つの権威をうちたてていくたたかいとして、この大島過労死裁判を位置づけています。

五 具体的な支援の取り組みの内容
 (1)支援の訴え
      ・「支援の会」への加入(団体・個人)
      ・リーフの作成(1万部)
      ・労組、民主団体への訴え
 (2)宣伝行動
      ・ビラ作成(3万枚:支援の訴えと労災問題、労働相談)
      ・駅頭宣伝、地域全戸配布
      ・新聞折り込み(民主団体の機関紙など)
 (3)裁判傍聴
      ・傍聴席を満席にし、原告を激励する。
 (4)地域から原告への激励→東大阪労連などの取り組みへの参加

六 再審査請求に対する労働保険審査会の逆転勝利裁決
  ◇2005年1月6日付け「労災不支給決定取り消し」の決定
    《主文》
  「東大阪労働基準監督署長が平成12年4月14日付で再審査請求人に対してした労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分は、これを取り消す。」
との画期的な裁決。
   ほぼタイムカードにそった長時間労働と、強い精神的ストレスがあったことを認定し、会社関係者の主張を排斥。
  ◇平成17年1月17日大阪地方裁判所において行政訴訟の進行協議があり、労働保険審査会の決定が出されたので、行政訴訟は取り下げることになった。
  ◇民事訴訟については、1月20日の進行協議で、和解の可能性も含めて、当面は協議を続けていくことになった。

七 今後の裁判予定と支援行動
 (1)「支援の会・第3回総会」 3月4日(金)午後7時 ペアーレ東大阪
 (2)「損害賠償請求裁判」進行協議 3月16日(水)午後1時30分 412号法廷
    ◇裁判所への署名の準備

(民主法律260号・2005年2月)

2005/02/01