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おおさか労働相談センターにおける「サービス残業の相談について」=ダントツの賃金・残業問題の相談= 杉山悦男(おおさか労働相談センター相談員)(民主法律254号・2004年2月)

おおさか労働相談センター相談員 杉山悦男

一 私が、おおさか労働相談センターの仕事に就いたのが02年9月1日ですが、その1ヵ月半後の10月17日、突然一人の青年がセンターを訪ねてきました。
  井島忍君、29才です。彼の職場は関西電力の子会社の関西テックという電気工事業の職場です。勤続は6年2ヵ月。しかし、その年の5月末で退職したとのことでした。
  退職の理由は、過度の残業で体調を壊したためでした。偏頭痛があり、肩や腰の痛みがひどく、時々めまいもしていた、しかし退職してからは偏頭痛やめまいは無くなったと言っていました。
  職場では、一ヵ月の残業時間は平均で100時間位で、多い時は200時間を超えるが、残業代は30時間の打ち切りで、それ以外はサービス残業で、サービス残業代は2年間で約300万円にもなるということです。
  労働組合があり、一応残業減らせ、三六協定守れとは言っているが改善されないので、「私は人事部長に未払い残業代を求める裁判をしたい」と宣言して退職しました。裁判費用も200万円用意していますという周到さです。
  「職場には、タイムカードはなく自己申告制です、残業代請求をしたいと思っていますが、むしろ職場にタイムカードを導入させ、勤務状態なども改善させたいと思っているんです」と。
  裁判に必要な出・退勤時間表も、自己申告で記録したものと、自分の手帳にも時間と仕事の内容を記録したものがありますと、用意万端での相談でした。ただ、私としては退職せずに職場の仲間とともに闘ってほしかったと思ったが、体調のことを考えると無理からぬかとも思いました。
  あまりに用意がいいので、聞いてみるとインターネットで高橋映見さんの残業代請求訴訟を知り、彼女とは何度かメールでのやりとりもしたということで合点がいきました。
  (注:高橋映美さんは、大阪過労死家族の会に入って過労死裁判の原告の人たちと一緒に闘っていましたが、私も過労死裁判支援に携わっていたので高橋さんの裁判は勝利判決の日も傍聴していました)
  早速その日の夜に、あべの総合法律事務所を一緒に訪ねて、岩城弁護士と入所したばかりという佐藤真奈美弁護士と話し合い、裁判の準備をすることになりました。この裁判は現在も係争中です。このような明快で優良(?)な相談者は滅多にありませんが、センターでの仕事を始めてすぐだったので、こんないい相談者が来て大変ラッキーでした。
 サービス残業の相談として、あまりにも明快で特徴的でしたので最初に紹介した次第です。

二 さて、おおさか労働相談センターにおける、最近1年間の労働相談件数は(2003年1月~12月)1560件にのぼり過去最高になっています。
  その中でも「賃金・残業代等未払い(退職金も含む)」問題の相談は、349件でダントツです。(2番目が解雇で276件)ただ349件中、サービス残業に関して何件あったかは単独の統計をとっていないので定かではありませんが、かなりの件数があることは間違いありません。
  特にサービス残業はメールでの相談が多いのが特徴です。これは、簡単に聞いてみることができることと、仕事で帰宅が遅くなっても深夜でも明け方でもメール送信しておけばよいからと思われます。
  メール相談の場合は、一方通行なので相談者の意思次第ですから、会社名が分からないのは仕方ないとしても、職種もわからないのが半数位あります。
 ※職種の分かっている相談から、内容を紹介しますと、
 1 コンピュータ関係の会社(奥さんからの相談)
  主人は30歳でシステムエンジニアをしていて、毎日残業で帰宅は夜12時頃になる。夕食後も(夜食後?)午前2時、3時迄自宅で仕事をしている。土曜、日曜は一応休日にはなっているが、毎週どちらかは出勤している。あと一日の休日の日も自宅で仕事をしている。という働き蜂そのものの生活で身体が心配なんで、私が無理しないように言っても、心配するなというだけです。残業代は決まった額以上は支給されず、あとはサービス残業になっている。労基署に調査にはいってもらうにはどうすればよいか。
 2 大手消費者金融会社の支店長
  武富士の残業代未払い問題には注目していた。うちでは、支店長は管理監督者とみなされ残業代はゼロ。しかし、人事権やその他の決定権はない。一日の拘束時間は平均11時間になる。しかも支店長の出勤簿は、出勤時の押印のみで退社時間の記入はしないという決まりになっている。あまりにも劣悪な労働環境のために近々退職しようと思う。この場合会社に未払いの残業代を請求できるでしょうか。幸いに部下の出退時間は管理簿に記入しているので、それから私の実際の労働時間はある程度把握できています。
3 金属関係の製作所……20才・名前「違法な会社撲滅推進者」
  基本の勤務時間は、8時15分~17時。
  タイムカードはなく、勤怠簿という紙に手書きする。正直に時間を書くと上司からチェックされ書き直すよう強制される。残業は上司から強制され、23時までしても3時間しかつかない。一ヵ月100時間をオーバーしている人もいる。
  このように監督署の調査に対しても証拠が残らないようにしており、かなり悪質だ。
  他の部署でもさまざまな偽りをさせられているようだ。このようなことは労働基準法違反という犯罪なのにいいのか、不信感がつのります。
 4 家具製作所‥‥34才の女性
  残業が当たり前になっていて、以前に社内の人が労基署へ通報したのか、調査が入って残業の見直しをするよう言われたそうだ。
  ところが、その後会社がしたことは、タイムカードを強制的に20時に打刻して、それ以降は残業させていないように見せかけており、残業に対しての何ら解決法を考えていない。これは違法行為に当たるのではないか。
 5 コンビニ……勤続6.6年の30才の男性
  店長代理をしているが、時給が733円のまま5年間変らない。月200~230時間の労働時間になるが、手当は8000円のみ。24時間営業のため、深夜にトラブルがあった場合店長ではなく私が呼び出される。店では他店との掛け持ち店長がいるだけで、会社の人との面識が全くない。店長は時給の決定権は持っていません。店長に時給のことで聞いてみたが、求人広告に昇給ありと記されていないので上げる必要がないというのが会社の考えのようです。また、労災・社会保険・有休等なにもない。
 6 デザイン会社……従業員4人、21才
  10時から18時の勤務時間は一応決められているが、残業を毎日四時間以上しており、月一回は土曜日の出勤をしているが、給料は15万円だけ。
 7 ガソリンスタンド……勤続六年、26才
  正月以外無休で、開店時間は7時~22時
  労働時間は殆ど一日12~14時間になり、残業代は20時間までしかつかず、オーバー分はサービス残業になっている。会社は業績が悪いので人件費を圧縮している。
  身体の方も以前は腰痛があり、今は足が痛い、辞めたいが辞めさせてくれない。

 ※職種不明での相談事例も若干紹介します。
 1 正社員の女性の人、勤続5ヵ月
  契約書もないまま社員になったのがいけないのかも知れませんが、当初は年俸300万円で月均等払いの25万円、残業は月30時間で残業手当はもらったことはなく、サービス残業になっています。
  最近になって社の社労士の方に契約内容の確認書というのを見せられた。それによると「三〇時間の残業代が出ていないのだから、月25万円のうち基本給は20万円で残業代月30時間分が5万円ということで年俸300万円ということでいいのではないか」との提示があった。それに異議を唱え、8時間労働に対する支払いが300万であって、残業代も含まれているということにして欲しくないと伝えたのですが、それならあなたは残業はボランティアでやっているのか、ボランティアでないなら、月30時間の残業代を含めた時間分に対するペイが今の給与になるのではないのですか、と言われた。そういうものなのでしょうか。お教え下さい。
 2 正社員で勤続10年以上、30才代の男性の妻から
  主人の会社の定時は、9時~17時半です。それにも関わらず平均20時に終わります。最近になって日に日に残業は増える一方ですが、残業代は一円たりともついた月はありません。主人だけボーナスをカットされ以前の半分になりました。主人は今年いっぱいで辞めるといっています。会社のために頑張ってきた主人に、このような仕打ちは酷すぎると思います。どうしたらよいでしょうか。サービス残業を無くす事ができるでしょうか。

三 こうしたサービス残業の相談に対して、相談者がセンターを訪問して来られた場合は事情をさらに詳しく聞けますので、地域労組に加入してもらい、団体交渉で解決しているものもあります。
  武富士の場合もセンターに相談に来られて、組合加入してもらい団体交渉をもつなかで、労働相談懇談会(センター・地域労組・弁護士が合同で定期的に開いている)での討論で、残業代請求の裁判も早くやる必要があるということになって、35で三五億円の支払いを勝ちとるという大きな勝利解決につながっていきました。

(民主法律254号・2004年2月)

2004/02/01