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三井生命・渡邉過労死事件で労災認定 弁護士増田 尚(民主法律254号・2004年2月)

弁護士 増田 尚

  事案の詳細は、すでに「民主法律」255号173ページ以下にて記したとおりであるが、さる2003年12月18日、高松労働基準監督署長は、渡邉一洋さんの過労死を業務上の災害であるとして、遺族給付金等の支給決定を通知した。2002年5月の申請から1年半あまり、ようやく一洋さんの墓前に朗報を届けることができた。
  一洋さんは、三井生命高松支社丸亀営業所長として、同営業所の職員を束ねながら、支社の提示する目標を達成するため、日夜、奮闘されてきた。個人顧客が帰宅してから訪問・勧誘をするため、営業職員の残業も余儀なくされており、職員の帰社・報告を受けて営業所長が点検するという業務スタイルから、一洋さんの労働時間が長時間に及んでいたであろうことは、想像に難くなかった。
  しかしながら、労働時間の証明は容易でなかった。三井生命は、労働時間を把握すべき使用者としての義務を怠り、まったく資料を残しておらず、さらに遺族からの協力要請にも応えずに、真相究明を妨げた。しかも、一洋さんが亡くなられた当時、妻は出産のため実家に戻っており、帰宅時間を直接に把握する者がおらず、労働時間の証明は困難をきわめた。
  そうした中、監督署も、丹念に営業職員など関係者への聴取を行っていたようである。詳細は、私たちには明らかにされていないが、4週100時間(労災認定基準)の時間外労働が存在したことを裏付けるに足りる供述を得ていたであろうと推測される。監督署のねばり強い調査活動には敬意を表したい。
  しかし、何よりも、こうした監督署の調査を促したのは、残されたわずかな資料から事実を積み重ね、情報提供を継続してきた遺族の努力である。一洋さんが残した携帯電話のメールや、電話の発信履歴などから、帰宅時間を推定した。遅い時間帯に、仕事に関連したメールを受発信していたり、営業職員に電話をかけるなど、相当時間残業をしている事実を確信させるには充分であった。私たちは、これらの資料を監督署に提出し、会社への事情聴取の参考にしてもらった。
  本件労災認定の教訓として、手帳などが残っていない、残業の記録がないからといってあきらめず、真相をつかみたいという当事者の熱意が監督署を動かし、労災認定をかちとる原動力となるということである。全国的にも、同様に立証困難の壁にぶつかっている事案も多いと想像するが、調査を続けることで事実は明らかにされていくとの希望を与えられたと考えている。
  それにしても、三井生命の非協力的な、あるいは妨害的な態度には、労働者の健康を管理すべき使用者としての責任感のかけらすら感じられないというほかない。現在、同社の安全配慮義務違反を追及する訴訟が継続中であるが、この訴訟においても、同社は、月間予定表などの基礎的なデータですら、プライバシーなどを口実にして提出を拒み、真相究明に協力しない。真摯に社会的責任を果たそうとするのであれば、そのような応訴態度を改め、率先して真相を明らかにすべきである。
  労災認定を得て、私たちは、さらに訴訟を通じて企業責任を問う活動をすすめていくことになる。
 (弁護団は、村田浩治弁護士と当職)
(民主法律254号・2004年2月)

2004/02/01