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過労死・サービス残業に寄せられる相談について 弁護士 佐藤真奈美(民主法律254号・2004年2月)

弁護士 佐藤真奈美

一 過労死・サービス残業110番への相談が急増している。昨年行った主な110番の相談件数を見ると、
①平成15年6月14日に行われた110番(全国一斉過労死110番に対応)へは84件、
②10月10日に行われた110番(労働基準オンブズマンが大阪で独自に開催)へは48件、
③11月22日に行われた110番(民主法律協会・日本労働弁護団大阪支部・大阪過労死問題連絡会・労働基準オンブズマン・大阪過労死を考える家族の会共催の全国一斉開催に対応)へは100件の相談が寄せられている(いずれも大阪窓口への相談件数)。私自身が参加したのは②、③の110番だけなのだが、いずれの相談日においても、一つの相談が終了したら置いたばかりの受話器の呼び出し音がすぐに鳴り出すという状態が続き、相談を聞くのが精一杯で相談内容を相談表にまとめ直す時間がないほどであった(そのため、実際の相談件数は前記相談数より多かったと推測される)。このように110番への相談数が急増したのは、特に昨年に入ってからであり、平成14年6月15日に行われた過労死・サービス残業110番(全国一斉過労死110番に対応)への相談数が55件であったことからも、その急増ぶりが窺える。
  このように相談件数が急増している背景には、まず、昨今のマスコミ報道の影響があると考えられる。著名な大企業に対し労基署から監督・是正がなされる、数十億円の未払い残業代が支払われるなどの報道が相次いでおり、これまで「仕方ない」「当たり前」とされていたサービス残業(ただ働き)は法律違反であると世間一般に知られるようになり、「それなら自分の会社も」という相談が増えているということである。
  しかし、相談急増化のより大きな背景として感じられるのは、長時間労働の実態が過酷化していることである。相談の中で労働実態を聞いていると、いわゆる過労死ラインをはるかに超える労働時間に及んでいる事例がほとんどで、「今日相談しないと本当に過労死してしまうのではないか」という勢いの相談が数多く寄せられている。

二 110番への相談のほとんどが、家族からの相談である。夫が毎日終電でしか帰って来れない、新入社員の娘は朝7時に出勤しているのに夜11時になっても帰って来ない、など、受話器の向こうから聞こえてくるのは「大事な人が死んでしまうのではないか」という家族からの悲痛な声であり、そのほとんどが「残業代を出してほしいのではない。とにかく早く帰ってきてくれればそれでいい」という相談である。
  そのような相談に対しては、
①サービス残業は法律違反であること、
②仮に三六協定が結ばれていたとしても通達で延長時間の限度が決められており、それを超える時間外労働は問題があるということ、
③過労死ラインをはるかに超えており、一刻も早く是正しないととても心配であること、
④組合と相談するなどし、労働基準監督署へ通告するなどの措置をとった方がいいこと、
等を伝えるのだが、結局根本的な解決にはつながりにくい。なぜなら、相談してくる家族が訴える「私から見ても過労死しそうで心配で、『給料のことはいいから早く帰ってきて』と言っても、夫は『みんながやっているのに帰れない』と言う」「リストラ後さんざん苦労してやっと見付けた職場。不満を言えば首を切られてしまうのがおち。労基署に通告するなどもってのほか」「一人が言っても変わるわけがない。組合はあるようだが、役に立たないと言っている」等のことばにあらわれているように、法律違反の実態を相談する場がないのである。また、家族が相談してきていることにあらわれているように、働いている本人は日々の仕事をこなすのが精一杯で、自分の労働実態を相談する時間などなく、ましてその改善に向けて動く余裕はないと考えられる。
  このような相談が多い中、最後に「職場の組合以外にも、労働者のために動いてくれる地域労組のような組織もある。ぜひ相談してほしい」と相談先を紹介し相談を終えることが多いのだが、その中でどれくらいの方が引き続き相談を継続し労働実態が改善されているかと思うと、相談後暗澹たる気持ちになることも多い。

三 大阪では、労働基準オンブズマンが結成されており、これまでも全国に先駆け、過労死・サービス残業110番後、相談の聴取だけに終わらせず、長時間労働を改善する活動に積極的に取り組んできている。上述した10月10日の110番も、司法書士・社労士が中心となって開催され、それをきっかけにサービス残業代返還訴訟が一斉提訴されるなど、幅広い分野の関係者の取り組みによる改善運動が始まっている。
  今後、従来のような活動をいっそう強める必要があるのはもちろんであるが、急増する110番相談に応えるべく、従来の活動枠を超えた活動が求められているといえる。様々な団体に110番相談の実態を知らせ、問題提起していきたい。

(民主法律254号・2004年2月)

2004/02/01