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大阪の労災民営化・民間開放反対協同運動―大阪労働局への要請行動の報告― 梶山代子(大阪労災職業病対策連絡会 会長)(民主法律時報380号・2004年1月)

大阪労災職業病対策連絡会 会長 梶山代子

一、労災民営化反対協同行動の経過について
 総合規制規制改革会議の「労災保険民営化・民間開放」答申の動きに対し、労働団体は、連合、全労連など労働組合のナショナルセンター、働くもののいのちと健康守る全国センターの反対アピールや抗議行動、京都・山梨センター等が労基局への要請を行い、労災保険民営化問題反対の活動と世論は広がっていった。
 大阪では11月の『第36回労災職業病一泊学校』での全労働大阪基準支部講師による労災民営化問題学習・特別アピール、大阪職対連ニュースや機関誌「労働と健康」での反対アピール、大阪過労死問題連絡会のホームページでの精力的な情宣活動が行なわれた。
 さらに、大阪職対連がよびかけ団体となって、大阪労連、全労働、大阪職対連、過労死問題連絡会の労災保険民営化・民間開放反対地域協同運動の話し合いの場が持たれた。会議では、今回の労災民営化・民間開放の狙いや背景について論議し、政府の「規制緩和」の動き・情勢に対置した腰をすえた大きな国民的な運動と運動体を作っていくことを確認し、当日の参加団体は本格的な反対の運動体の準備会として活動していくことを申合わせた。
 当面の運動・今後の運動を盛り上げていくための準備会の活動として、規制改革会議への抗議、厚生労働省への激励、年末の答申にストップをかける協同行動として大阪労働局への申し入れ活動を確認した。準備会の申し入れで、大阪労連、大阪職対連、大阪労働健康安全センター、民主法律協会、大阪過労死問題連絡会、大阪過労死を考える家族の会の連名で『労働者・遺族の重要な権利を脅かす労災保険の民営化・民間開放に反対し、労災補償制度の充実を求める要請』を12月17日に行なった。当日は全港湾関西地本も産別労組として独自に要請行動を行った。この様な団体の共同行動は、大阪が始めてであろう。

二、大阪労働局への要請内容について
1 大阪労働局への要請内容
 六団体は、働く者の人権・いのちと健康を守る立場から、
①規制改革会議の労災保険民営化案は根本的に制度の性格・目的が異なる保険に代替させようとするものである。労災補償制度は労働者保護の観点から現行通り国が実施すべきである。
②公平・公正な立場での労災保険の全面適用は、営利目的の民間保険会社の業務には困難であり、常に事業破綻の危険性を伴う。
③被災労働者や家族・遺族に業務上認定の立証責任が重く課せられる可能性が高くなる。
④民間保険会社の利益優先による弱者切捨てにつながる。
⑤労災保険行政と労働基準監督行政・安全衛生行政との緊密な連結が不可欠である。
ことを主な理由として反対していることを説明し、大阪労働局(長)として厚生労働省に対し、労災保険の民営化・民間開放は絶対に行わない・現行労災保険制度の不備について改善を図るなど、今回の要請趣旨を上申する様に申し入れた。

2 要請団体と労基局の意見交換要旨
 【大阪労働局の基本的見解】
 双方の規制改革会議の民営化・民間開放に対する見解の一致を前提に意見交換が行われた。
①総合規制改革の労災保険民営化について、本省は無論、大阪労働局・職 員は反対の立場である。
②労災補償制度は労基法上の補償を担保したもので自賠責保険とは性格が決定的に違う。自賠責保険と同列に論じるなど余りにも乱暴な議論である。
③仮に実施されれば、被災者の立証責任の負担増は無論のこと実際には被災者の救済は困難になるだろう。
④労災保険民営化・民間開放が実行されれば労働基準監督行政は骨抜きになる。総合規制改革会議案の土俵には載らないし民営化推進議論には組しない。
⑤今回の様な要請活動は、政府に対する(労働団体、被災者・遺族、法律関係団体等の)強い反対意思表明として大変意義のあるものだと認識する。要請趣旨は本省に伝えたい。
 【要請団体からの意見・質問事項】
 ―意見―
①規制改革会議の自賠責保険では、被災者や家族・遺族は不服申立ての審査請求が出来なくなる。そうなれば当然民事訴訟・裁判が頻発することになる。
②そもそも労基法、労災補償制度にもとづいた行政権の行使による認定審査と、私人間の自賠責保険による認定審査とは「認定作業」の場面が根本的に違うものである。
③規制改革会議は民営化案の理由に労災保険財政の黒字をあげているが、今回の案が審議される直前の2003年10月の厚生労働省の発表では労災かくし件数が過去最高であった。企業による労災かくしで被災者や遺族の受給権が奪われている。そもそも、長時間・過密労働、サービス労働の温床の最たる職場は金融・ 損保である。その様な産業・企業の扱う自賠責保険でまともな調査や審査・給付がされるのかと、被災者や過労死の家族は本末転倒の提案に、憤りと危惧をもっている。
 ―質問―
①財団法人労災保険情報センター(RIC)が現在行っている委託業務との関係はどうなるのか。
②労働基準法85条(災害補償)の「審査及び仲裁」で労基局の不服申し立てに対する「仲裁」はどの様になされるのか。
 以上の様な要請と意見交換を行い、現在の厚生労働省の労災補償事業と運営、日常の労災認定・補償など問題点も多く、これからも労災補償制度の改善のための率直な意見交換ができることを期待することを述べて要請行動を締めくくった。

三、今後の労災民営化反対運動について
1 政府の民営化・民間開放の動きに対する対抗運動は、首都圏、関西圏で広がりつつある。大阪では民営化反対実行委員会(仮称)準備会が労基局への申入れを第一歩に動き出した。今後、中小零細事業者も視野に入れた幅広い団体・個人による本格的な運動体を結成するための準備活動、分かりやすい労災民営化狙いや中身の宣伝(物)、学習会、シンポジュウム、著名人賛同アピール等に取組み、中身を知れば知る程「無茶苦茶でんな。なんでもかんでも民営化したらええというもんやない」の声が大きく広がることに確信をもって、運動を進めていきたい。
2 同時に、準備会でも議論されたことであるが、政府の審議経過を見ても明らかな様に、構造改革特区・官製市場改革WGがリードし打出された今回の労災・労働保険民営化・民間開放化案は、アメリカ型社会保障を目論んでいる。長年の政・官・財の癒着と腐敗に対する国民の批判で支えられている側面がある「行政改革」や規制緩和論、長期不況を「官から民へ」の移行・民間活力の推進・市場原理で解決できるかの様に主張する構造改革論を背景に、国民の安全や福祉や労働などを含む人権を犠牲にして、独占・大企業など産業界による国の権力と資源の独占的活用を、政府の機構を使って、系統的に進めてきたものであるということを押さえて反撃していく運動を進めていくことが必要ではないかと思う。
3 労働組合運動では、今回の労災民営化・民間開放は、①労働保険の民営化問題である②民間労働者の問題だけでなく、既に公務労働者の公務災害補償基金が特殊法人等合理化計画で、民営化の一つの類型型として業務形態・組織形態の「整備」が行われている流れの中での問題として考えていくことが重要だと考える。
 昨年末、金子一義行政改革担当大臣は、「総合規制改革会議は従来の経済的な規制から社会的、言葉を変えればイデオロギーの部分に立ち入ってきたもので進み具合が難しくなったきている。
 こういうものを乗り越えてさらに規制改革を進めていく。これができる様な来年4月以降の総合規制改革会議を考える局面にきている。そういう体制・骨格を考えて行きたい」と発言している。第三次答申の「現状認識と今後の課題」を「後継組織」にどう引継ごうとしてくるのか。私たちの運動もこれからが本番である。労災民営化反対の一致点で大きな統一戦線を組んで反撃していこう。

(民主法律時報380号・2004年1月)

2004/01/01