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2002年権利討論集会第4分科会報告 弁護士 井上耕史(民主法律時報357号・2002年2月)

2002年権利討論集会開かれる

全体会報告

 2月16~17日、宝塚グランドホテルで2002年権利討論集会が開催されました。他団体の集会等と日程的に重なったせいか、参加申し込みが例年に比べて少なく、興業主の責任が問われるのではと心配したのですが、それでも183名(うち宿泊は95名)の方にご参加いただき、密度の濃い討論がなされました。
 全体会では、二宮厚美神戸大教授に、「21世紀の新福祉国家ビジョンと労働運動の課題‥‥新自由主義への対抗戦略」と題して基調講演をしていただきました。二宮先生は、徹底した新自由主義批判の論客で、最近では全国各地の集会でひっぱりだこの経済学者であるとともに、大阪学童保育連絡協議会の会長を長らく務めておられた実践家でもあります。今回、二宮先生に講演をお願いしたのは、小泉人気と結びついた宗教にも似た新自由主義イデオロギーへの徹底した批判が必要であると考えたからです。
 二宮先生は、多国籍資本の野放図な活動と能天気な新自由主義政策が日本経済を破滅の縁にまで追いつめているとし、これに対抗すべき労働連動の柱として、①企業横断的な運動、②ジェンダー視点の重視、③教育・医療・福祉とこれを支える地方自治の充実を据えるべきであることを強調されました。労働運動は、目の前の課題だけでなく、社会保険(たとえば健保三割負担問題)、保育・教育、高齢者福祉など、あらゆる戦線に目配りしなければならないということです。講演は参加者に大好評で、お陰様で二宮先生の著書「現代資本主義と新自由主義の暴走」(新日本出版社)も会場販売分は完売御礼となりました。
 また、今年は初の試みとして、従来の「裁判闘争分科会」をなくし、地民5部と大阪地労委の分析については全体会で報告いたしました。幹事会での議論によるものですが、これに対しては「寅さん」 みたいなものをなくしてよかったのか、との意見も寄せられました。これは試行錯誤を繰り返しながら改善を図っていきたいと思います。
 分科会は、①リストラ解雇、②労働条件不利益変更、③倒産、④長時間労働と過労死、⑤非正規雇用という、日本労働弁護団風のテーマ別分科会で、いずれも、新自由主義・市場原理主義の中で脅威にさらされている労働者の権利をどう守り、発展させるのかという観点から活発な議論が展開されました。
 また、懇親会はもちろんのこと、二次会も、事務局長部屋の犠牲と、小林会長、大江幹事長ほかのご寄付により、深夜まで大いに盛り上がり、懇親を深めることができました。
     (事務局長 城塚健之)

第4分科会
 いのちと健康を守るために

 第1日日は、過労死・過労自殺予防をテーマに、下川和男弁護士から昨年6月に設立された労働基準オンブズマンの活動(刑事告訴・告発、違反事実の通告)について、現職の監督官の方から労働基準監督行政の現状と問題点(証拠収集の困難、労使一体となった証拠隠しなど)について報告がされました。
 討論では、告訴・告発では高度の立証が要求され労基署の腰が重くなりがちであるのに対し、違反事実の通告であれば厳密な立証は不要で比較的迅速な行政指導が期待できることから、通告を積極的に活用すべきとの意見や、法制度の異なる公務員の問題についても今後研究していく必要があるとの意見が出されました。また、同僚の過労死事件を通じて労働組合を結成し、労働条件改善をすすめているとの報告がありました。
 第2日日は労災認定をテーマに、岩城穣弁護士から、脳・心臓疾患の新認定基準の意義と問題点、労災予防について、現職の審査官の方から、新認定基準における労働時間の重要性、労働時間の記録、被災者の日常生活を把握する必要性について報告されました。
 討論では、係争中の事案についても業務上認定の可能性が十分あること、労働者が残業手当にたよって長時間労働を続けている現状があること、まず職場労働者に新認定基準についての理解をひろげてゆくことが重要であることなどが指摘されました。
 遺族、労働者の話からは、事態の深刻さと、過労死・過労自殺問題の根の深さを感じずにはいられませんでしたが、活発な討論を通じて今後の前進への一歩を踏み出した分科会になったと思います。
  (弁護士 井上耕史)
民主法律時報357号・2002年2月)

2002/02/01