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富士通テン(株)青木浩一過労死事件──「Q&A過労死・過労自殺110番」片手に父奮闘 弁護士 下川和男(民主法律249号・2002年2月)

弁護士 下川和男

一 「業務上認定は、済んでいます。」
  平成13年4月12日、私は、はじめて青木敏浩さんに会った。青木敏浩さんの長男青木浩一さんは、平成12年4月7日に会社のトイレでなくなっているところを発見された。前日深夜に倒れ、発見されたのは午前10時過ぎであった。4月7日の始業開始後しばらく発見されなかった。父敏浩さんは、トイレで倒れている息子がなかなか発見されなかったことに大いに腹を立て、会社に抗議し、自らの手で労災申請し、労働基準監督署に足繁く通い、息子の同僚に話を聞き、そして平成13年3月16日、労災認定を勝ちとったのである。息子の過労死のことで相談をしたいという申し出があったので、てっきり労災申請の相談だと思っていた私は、短期間に労災認定を勝ちとった父の熱意と努力に驚いた。父青木敏浩さん曰く、「(大阪過労死問題連絡会が出版した『Q&A過労死・過労自殺110番』の通りやったら(実践したら)、認定がとれました。いい本ですね」。

二 事案概要
 ① 当事者   死亡した青木敏浩さんの長男青木浩一さんは、昭和42年12月13日生まれ。平成4年4月1日、富士通テン(株)に入社した。富士通テン(株)は、神戸市内に本社を置く、カーオーディオ、ナビゲーションシステム機器などの電気・電子機器・部品の製造販売を業とする、従業員約2700名、資本金約53億円の株式会社である。青木浩一さんは、平成12年4月6日夜、富士通テン(株)B110号棟5階トイレ個室内で脳内出血を発症し、そこで倒れたが、救護されないまま放置され、翌4月7日午前10時15分発見されたが、すでに死亡していた。享年32歳であった。
 ② 被災者の業務内容
  被災者青木浩一さんは(以下、「被災者」という。)、富士通テン(株)入社以来、CDデッキの制御回路設計業務に従事してきた。平成8年12月からは、第一精機技術部CDプロジェクトに所属し、CDデッキの新機種の設計、量産品の品質改善やコストダウンのために設計業務に携わってきた。CDデッキは、富士通テン(株)の主要商品であり、その設計業務は富士通テン(株)にとって重要な業務といえる。
 ③ 被災者の業務実態
  富士通テン(株)の就業規則によれば、所定労働時間は、午前8時30分から午後5時15分まで(休憩45分)、拘束8時間45分、実働8時間となっているが、被災者入社当初より、終業時間が午後9時を超える残業が恒常化していた。平成11年夏ころ、中国で現地生産していた自動車用CDデッキに多くの不良が発生したため、その対策を被災者が担当していた。そのため、被災者は、平成11年夏以降の終業時間は、早い日でも午後10時前後であり、通常は、午後11時過ぎという長時間労働となっていた。
  平成12年1月度の所定外労働時間  88・4時間
       2月度の所定外労働時間 117・4時間
       3月度の所定外労働時間 107・7時間
  また、発症前の勤務時間(拘束労働時間)については
  平成12年3月
   23日(木) 一四:三六
   24日(金) 一三:三七
   25日(土) 一四:三五
   26日(日) 休日
   27日(月)  九:二三
   28日(火) 一四:三四
   29日(水)  九:三四
   30日(木) 一四:四一
   31日(金) 一三:三二
    1日(土) 休日
    2日(日) 休日
    3日(月)  九:三七
    4日(火) 一四:三〇
    5日(水) 一三:三六

  富士通テン(株)では、IDカードによる出勤時間をチェックするシステムがあるにも関わらず、実際にはIDカードによる退勤時間のチェックを行っていなかった。また残業時間も自主申告となっており、正確な労働時間を把握されていなかった。会社トイレ内で倒れ、始業時間が2時間近く経過した後ようやく倒れている被災者を発見したという異常な事態の中で、請求人である父は、会社に対する憤りの中で、粘り強く労災認定にむけての取り組みを行い、同僚からの聴き取り、資料提供などを受けて、被災者の座員業時間、拘束労働時間を明らかにしていた。
 ④ 労災認定   被災者が死亡した直後から、請求人である父は、会社と交渉を重ね、資料提出を求め労災申請を行い、平成13年3月16日、神戸西労働基準監督署長により「業務上」の決定がなされた。

3 損害賠償請求にむけて……証拠保全を通じて
  「業務上」認定後、相談に来られた被災者の父青木敏浩さんからは、会社に対する損害賠償請求を依頼された。会社としては「過労死」とは認められず、被災者自身の健康に対する配慮が欠けていたという主張がなされたことから、損害賠償請求訴訟提訴前に会社に存する資料を手に入れるべく神戸地方裁判所に証拠保全を申し立てた。証拠保全手続の席上でも富士通テン(株)は、執拗に書類の存在が明らかでない、存在しない、提出しないなどと繰り返していた。証拠保全を通じて入手した時間外労働協定(いわゆる三六協定)には、労使の協定で年間900時間の時間外労働を認めるものとなっていることが明らかとなった。厚生労働省告示によっても年間360時間を上限としているにもかかわらず。こうした三六協定が労働基準監督署に平気で提出されていること自体異様なことだと考えられる。   現在、兵庫労働局に対して、給付基礎日額にサービス残業代を含めるべきとして審査請求を行っている。また神戸地方裁判所に富士通テン(株)を被告とする損害賠償請求訴訟を提訴している(代理人松丸正弁護士、大橋恭子弁護士、下川和男)。

(民主法律249号)

2002/02/01