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過労死事件におけるセコム警備記録の証拠保全決定のご報告 弁護士 中島宏治(民主法律時報344号・2001年1月)

弁護士 中島宏治

1 はじめに
ある過労死事件に関して、被災者の長時間にわたる勤務時間を立証するため、訴え提起前の証拠保全手続によりセコム株式会社の保管する警備記録を提出するよう申し立てた事件で、2000年12月11日、大阪地方裁判所堺支部にて被災者側の申立を認める決定が出ましたのでご報告します。

2 事案の概要
 本件は、美容室「U」に勤務していた36才(当時)び男性美容師Aさんの過労死の事件です。
 Aさんは、死亡時まで相手方会社が経営する美容院「U」F店(スタッフ約10名)の店長でした。スタイリスト歴は約17年です。
 「U」は同店の他、C店、K店並びに1999年9月1日にオープンしたI店があり、各店の営業受付時間は午前10次から午後7時まで、毎週月曜日と火曜日が定休日でした。しかし、実際には最終受付の客のカットやパーマが終了するのは通常午後9時前後でした。午後9時以降は、スタッフの技術についてのレッスン指導が深夜1時から2時頃まで続くのが通常でした。また、F店のビルの上には会社の寮があり、他店のスタッフが深夜帰宅する前に同店に立ち寄ってAさんからレッスンを受けることもありました。
 Aさんは、休日もまともにとることなく、業務日は午前9時過ぎ(金曜日は午前8時過ぎ)から翌日に至るまで、明らかに過重な業務に従事していました。
 そのため、Aさんは、死亡前日の1999年11月7日夜、勤務を終えて新入社員の歓迎会を終えた後、同8日午前3時頃帰宅し、同5時頃堺市の自宅にて死亡しました。
 Aさんの妻は、2000年9月13日堺労働基準監督署へ労災申請を行い、現在審理中です。会社に対する民事損害賠償訴訟は未だ提起していません。
 本証拠保全申立は、右民事訴訟に先立ち、Aさんの勤務時間を立証するため、第三者であるセコム株式会社が所持する警備記録を裁判所に提出するよう求めたものです(証拠方法は文書提出命令です)。

三 決定の内容
 本決定(大阪地方裁判所堺支部平成12年 第933号証拠保全申立事件2000年12月2日決定)主文の内容は次のとおりです。
 「1 本件につき、申立外セコム株式会社は、第三項の証拠取調べ期日において、相手方経営にかかる美容室「U」I店(大阪府堺市○○)における警備記録が記載された電磁的記録を紙面に打ち出した書類を当裁判所に提出せよ。
2 右書類を書証として取り調べる。
3 右証拠調べ期日を平成12年12月18日午後4時と指定する。」
(※午後4時は午後2時30分の誤りであったため更正決定がなされました)

四 本決定の特色と意義
 本件申立を認めた決定の特色と意義は次の諸点であります。
① 警備会社が所持する警備記録について、文書提出命令により提出させることが可能となりました(文書提出命令の例外の要件にあたらないとする判断)。警備会社の所持する警備記録について文書提出命令が発せられたのはおそらく前例がないと思われます。
② 本件は、訴え提起前の証拠保全手続により、警備会社の所持する警備記録に対し提出命令を認めたものです。よって、訴訟の準備段階において申立人が証拠を入手することができるようになります。
③ 過労死の事件においては、会社が協力しない場合、本人が死亡している上、従業員が会社をおそれるあまり勤務時間に関する証言が得られにいため、本人の勤務時間に関する証拠が収集できないことが多々あります。
 そのような場合に、本件のように警備会社に対する警備記録の提出命令を得ることができれば、立証困難な事案でも道が開けるものと思われます。

五 おわりに
 本件は、相談を聞いたときにはあまりの過酷な勤務状態であったため、信じられない気持ちでした。
 しかし、実際に文書提出命令によって得られた警備記録を見ますと、本当に聞いたとおりの結果が出ていました。通常で夜12時から午前1時前後、遅いときには午前4時すぎまでセットがオンになっていないときも何度かありました(ただし、警備記録はI店についてしかなく、Aさんが勤務していたF店の記録ではありません)。
 あれだけテレビで「カリスマ美容師」と騒がれた美容師の世界の光と影を感じざるをえません。本警備記録を最大限活用しながら、是非とも労災認定を勝ち取りたいと考えています。(なお、弁護団は松丸正、西晃、中島安治の3名です。)
 (民主法律時報344号・2001年1月)

2001/01/01