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怒りの刑事告訴 弁護士 高橋 徹(民主法律時報343号・2000年12月)

弁護士 高橋  徹

 民法協ニュース一〇月号「新人奮戦記」の中で、タクシー運転手の過労死事件についてご報告したのですが、記憶にございますでしょうか。
 大阪府茨木市のタクシー会社「茨木高槻交通」のタクシー運転手が、昨年三月、勤務中に急性心筋梗塞を発症して死亡しました。右過労死事件については、現在、労災申請中です。
 今回あらためてご報告するのは、その続編ともいうべき刑事版です。去る一一月一六日、被災者の二人のご子息は、「(被災者の)心筋梗塞死は、使用者として労働者の健康を守るための注意義務を被告訴人(会社社長)が怠ったため、生じたもの」として、業務上過失致死罪で大阪地方検察庁に刑事告訴しました。検察庁では、特捜部が対応することになるとのことです。
 過労死の問題が取り上げられるようになってから久しくなりますが、未だに過労死事件が後を絶たず、残された遺族の悲しみは消えません。過労死を理由とした刑事告訴は、全国でも初めてです。
 民事裁判においては、すでに今年三月の電通過労自殺事件最高裁判決において、使用者には業務の量等を適切に調整するための措置をとるべき注意義務があることが明らかにされています。
 今回の刑事告訴は、使用者の負う労働者の生命・身体の健康に配慮すべき注意義務が、単に民事責任において問題となるばかりでなく、刑事責任においても問題となるものであるとして、使用者の責任の重大性を訴えるものです。
 ものの本によりますと、業務上過失致死罪における業務とは、社会生活上の地位に基づき、反復係属して行う事務で、かつ他人の生命・身体に危害を加えるおそれのあるものとされています。
 タクシー運転手の業務は、長時間労働、深夜労働、継続的精神的緊張、運転席という狭く固定された作業環境、歩合給制度による労働強化といった特質を兼ね備えるものであり、過労死の温床といっていいほど労働条件は劣悪です。タクシー会社の社長は、労働者の生命・身体の健康を図るべき地位にあり、運転日報やタコグラフ、出入庫管理記録等を通じて、日頃から労働者の業務量を管理し適切に是正すべきものであり、まさに過労死を発症して労働者の生命に対する危害を加えるおそれのあるものです。
 本件過労死事件の被災者は、隔日交替制勤務の中で、二四時間を超える乗務に従事し、発症前三五日間連続乗務、発症前の三ヶ月間でたった三日間の休日という超長時間過密労働に従事していました。これを年間ベースで計算すると、労働時間は約四五〇〇時間にも及びます。
 会社社長が業務上の注意義務に違反したことは明らかです。  検察庁は、迅速な捜査を遂げた上、速やかに起訴すべきです。使用者も、「民事責任のみならず刑事責任も問われる」となれば、過重な業務を野放しにするということはできないはずです。
 本件過労死を理由とする刑事告訴が、過労死が後を絶たない現状を打開する一石となることを願ってやみません。

2000/12/01