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99権利討論集会第2分科会報告 弁護士 下川和男(民主法律時報321号・1999年2月)

99権利討論集会
260人の参加で成功

記念講演
1 今年はこれまでの1泊2日形式を1日方式に改めたため、記念講演は午前中に行われることとなった。「労働と生活をめぐる戦後システムの変換と日本型福祉国家戦略」と題して法政大学講師の木下武男先生に講演いただいた。雪で新幹線が遅れるというハプニングもあり、東京から講師の先生をお願いする場合には、午前中の講演は講師の方も大変かもしれない。
2 木下先生は、昨年の記念講演をお願いした後藤道夫先生と同じく、「講座現代日本」(大月書店)の執筆者のお一人である。
 日本の資本が外圧によって急速な多国籍企業化を迫られ、これまでの企業社会的統合を放棄してより競争力を強めることを迫られていると言う基本分析は後藤教授らと共通である。経営側自体が、企業的統合の基盤である年功序列型処遇システムを廃棄しようとしている。これは経営にとっても、これまでの日本の企業社会を支えてきた、「虎の子」の統合基盤を失うことであり、新たな階級編成のチャンスである。「大きな困難と微かな可能性」と木下先生は表現される。経営が狙っているのは、19世紀型の野蛮な労働市場であり、アメリカ型の労働市場モデルである。これに対し、我々は、「1968年の価値」(反管理・フェミニズム)をもった「日本型新福祉国家」を対抗戦略とすべきとされる。そして、経営側からの具体的な年功序列廃止・能力主義導入の提案が直ちにこれまでの年功序列システムの差別性を廃棄する対案として受け容れ対象になるのではないことは当然とされたうえで、「終身雇用制の擁護から、横断的労働市場の規制へ」を論じておられた。
3 年功序列型賃金システムが、日本型能力主義と「野合」することによって極めて差別的な雇用システムを作りだしてきたことはその通りである。また、年功序列型賃金システムが、男性・と正社員を対象として、その全人格を企業に帰属させるシステム働いてきたこともその通りである。
 このシステムが崩壊することは一面では画期的であるが、現実に進もうとしている方向は、労働者の総パート化、総派遣化、大幅な人減らしと昇進ストップである。アメリカでの「自由競争」、弱肉強食の労働市場システムは、それでもかろうじて、強力な差別禁止の法システムがその歯止めとして働いている。雇用差別禁止が全くといっていいほど機能していない日本でアメリカ型システムが導入されれば、歯止めなき労働者の搾取となるだろう。その歯止めをどう作るのか?現実に日本の労働運動と革新運動の中核を担ってきたのは、年功序列賃金システムが比較的差別の少ない形で機能してきた公務員職場であったことを見れば、年功序列賃金システムの崩壊が労働者の力の増大につながるどころか、結果としては労働運動それ自体の崩壊をもたらしかねないのではないか?
 私は、この場合、実効的な差別禁止のシステムが何より重要になると考えているが、「戦後システム」の崩壊後の運動の担い手は誰になるのか?それは、一時喧伝されたいわゆる「周辺部分」ではなく、やはり、組織され訓練された労働者層ではないのだろうか。今後の労働組合のあり方とも関連しており、今後一層具体的な運動の局面に応じて議論の必要なテーマであると思う。
     (弁護士 長岡麻寿恵)

第2分科会 「命と健康を守るために」
 第2分科会は、参加者こそは10名と少なかったものの、現役の労働基準監督官であるTさんの報告を基に充実した討論がなされました。
 Tさんからは、現在のリストラ状況のなかで労働環境の悪化が進み、過労死の労災認定は前進しているものの、過労死事案は減っていない。改正労基法は、長時間労働の歯止めとはならず、厳格な制度運用・法解釈で労働時間の後退・悪化を防いでいくことが重要であることなどが報告されました。
 また、労働者保護法は、労働基準監督機関による監督を予定しており監督官には刑事訴訟法に基づく強制処分権も付与しているが、監督機関による監督・取り締まりには限界があり労基法の明文に反する場合でなければ問題としえないこと、監督署の指導方針が労働条件確保より労災防止にシフトしていること、通達による現場への締めつけ、監督官の採用・養成上の問題点などについても話がなされました。
 続いて、これまで過労死・過労自殺については、労災認定・民事賠償の側面の追及が中心であったが、それだけでは企業の長時間労働体質は改善されない、企業にとってもっともショックが大きいのは刑事責任の追及であり、労基法違反を根拠とした刑事責任の追及が大切である。過労死弁護団や支援団体の努力により社会問題化した過労死・過労自殺であるが、一向になくなる兆しがみえない、企業に「長時間労働は結局高くつく」との認識を持たせなければならず、行政、民事、刑事の三面からの責任追及が不可欠であるとの問題提起がなされました。
 この他にも職場環境改善のための「産業医」の活用や法改正(労働安全衛生法)のとりくみの必要性などにも議論がすすみ、小人数ながらも充実した議論がつづきました。
 詳細は、後日、報告集で明かにします。
      (弁護士 下川和男)
(民主法律時報321号・1999年2月)

1999/02/01