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従業員の生命の保険110番について 弁護士 池田直樹(民主法律時報318号・1998年11月)

弁護士 池田 直樹

1、なぜ従業員の生命の保険が問題なのか
 和歌山保険金詐欺被疑事件を契機に、保険金をめぐる不正への関心が高まっています。ことに、報道によれば、右事件において休眠会社を舞台として従業員の知らない間に保険金がかけられ、保険金が支払われていたということであり、団体生命保険全国弁護団が従来問題にしてきた団体生命保険問題と同様の構造的な問題がそこには潜んでいます。
 つまり、会社には、掛け金は損金処理できること、万が一の場合、従業員の命と引き換えに保険金を受領できることのメリットがあります。他方、保険会社としても販売競争の中で、会社が保険金を本来の弔慰金目的等に充当しない場合が多いことを黙認しながら販売しているため、被保険者が知らないままに保険加入し、保険金が支払われる危険性が構造的に生じるのです。
 このような事件を防ぐためには、保険会社の多重保険のチェック体制を充実させるだけでは足りません。何よりも知らない間に保険をかけられたり、保険金を支払われたりする被保険者の権利擁護が必要です。しかし、保険会社は現在も被保険者や遺族から法人契約の生命保険や損害保険についての問い合わせを「契約者でない」「守秘義務がある」と拒否しています。
 このように、従業員の生命の保険問題は、一方では労使関係上の非対等性を利用した使用者の権利の濫用と従業員の生命の軽視の問題であり、他方で保険会社の販売至上主義の問題なのです。

2、110番の結果について
 報道が期待したほどされなかったこともあって、午前中は数件の相談しかなかったのですが、お昼のNHKニュースの後はひっきりなしの電話で、合計47件の相談がありました。
 中には、大家に勝手に保険をかけられていたことが保険会社からの通知で判明して怖くなったという借家人や、身代わり受診で保険金を受け取っているという告発もありました。
 典型的な相談としては、会社で1億円の役員保険に入っていたが、第一級の高度障害となって支払が会社になされたものの、本人には全く渡らず、本人は障害での退職を余儀なくされたというものがありました。死亡事案にも増して高度障害事案では、保険の矛盾がより明らかになります。
 他にも入院給付金をすべて会社が受け取って本人に渡さない事例、一旦遺族に支払われた保険金を会社が取りに来て強引に回収していった事案、保険加入について会社が明らかにしない事案など従来からの典型的相談が多数あります。
 判例上は従業員と会社との間に保険金相当額を弔慰金等として支払う旨の合意を認定して従業員の遺族に請求権を認める事例が続いていますが、一方で逆流現象も強まっているように思われ、市民法的発想の裁判官には、会社が契約していたのだから仕方がないではないかという発想も強いようです。和歌山事件に見られるような保険制度の構造的問題点を、労働法的視覚から分析することが求められています。保険法学者だけでなく、労働法学者による取組みを弁護団としては強く望んでいるところです。
(民主法律時報318号・1998年11月)

1998/11/01