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団体生命保険110番に相談殺到 弁護士 池田直樹(民主法律時報300号・1997年3月)

弁護士 池田直樹

 さる3月1日、全国一斉の第2回団体生命保険110番が開催され、大阪では120件の相談があった。昨年11月にも23件の相談があったので、改めてこの間題の広がりを痛感した。
 相談で問題となっているものの多くは、会社が従業員を被保険者として生命保険契約に加入し、従業員の死亡や重度障害の際の受取人に会社が指定されるいわゆる会社契約の他人の生命の保険(商法674条) である。団体定期生命保険のみならず、会社受取の通常の定期生命保険など多様な保険が関与している。さらには、会社保有の車両で自損事故を起こしたが、搭乗者保険を会社が受耽り、被害者に渡さないなど、生命保険や損害保険など保険の類型を越えて、「会社が保険金を受け取って従業員に渡さない」というさまざまなパターンが相談事例に含まれている。
 したがってもはやこの110番は単なる団体生命保険問題というより、従業員の企業への従属性を悪用した、いわば「労使間の保険金疑惑110番」に発展してきている。

 団体生命保険問題は、そもそも名古屋の水野弁護士らのグループが過労死問題を取り組むなかで、サービス残業を繰り返して死亡しても労災と認められない一方で、会社側は多額の保険金を遺族の知らないところで受け取るという事実に対する怒りと疑問から端を発した。我々を含めて多くの弁護士の当初の反応は、「おかしいけれど、会社が保険金を支払って保険契約上の受取人になっているのだから、どうしようもないのでは」というものだった。
 しかし、水野弁護士らは、「人の命で会社が黙って保険金を受け取るのはどう考えてもおかしい」という疑問を持ち続け、団体生命保険が戦前に従業員の福利厚生のために認可され、当初は従業員が受取人だったこと、日本のような団体生命保険契約は諸外国では禁止あるいは制限されていることなどを調べあげ、運動を続けてきたのである。

 110番の直前にはタイミングよく、会社が受け取った8000万円余の保険金のうち、7000万円余の遺族への支払を命じた平成9年2月25日山口地裁宇部支部判決が報道された。判決は遺族への会社の支払義務の根拠として、被保険者と会社との間に、もしもの場合は保険金の全部ないしは一部を遺族に支払う旨の黙示の合意があったと構成している。
 2月28日には全国一斉調停も提起され、大阪でも4件の調停を掟起した。保険会社への情報開示の請求も行っているケースも含まれている。この間題は、従業員および遺族の当然の知る権利の侵害という側面を持つとともに、使用者の優越性を利用した保険制度の濫用という側面をも持つ労働問題であることを是非ご理解いただきたいと思う。
(民主法律時報300号・1997年3月)

1997/03/01