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95権利討論集会第2分科会報告 弁護士 岩城 穣(民主法律時報282号・1995年4月)

権利討論集会、震災に負けずに開催

 2月18日、19日の両日に渡って恒例の権利討論集会が開催され、震災わずか1カ月後にも関わらず、215名が参加した。
 会場は、池田市郊外の不死王閣。幸い震災による建物被害は軽微で、無事開催にこぎ着けた。
 本年度の記念講演は、欲張って家族論の専門家である木田淳子さん(大阪教育大学)と、日本労働弁護団前幹事長の鵜飼良昭弁護士の2先生にお願いした。両講演が、関連あるものとして現代の日本の労働者の抱える問題を挟り出すこととなるのか、疑問の向きも寄せられたが、企業の論理からの自立、性的分業の見直しという点で両講演はしっかり噛み合ったものとなった。
 木田講演「競争社会、企業社会と家族」では、大人の長時間労働の一方で、子どもたちにも過密な教育スケジュール、成績競争によるストレスの蓄積、いじめの横行といった事態が一層進行している現代の家族の状況が、まず紹介をされた。また、4、50代の有配偶者転勤者の4人に1人が単身赴任となっている実態は、家族は一緒に暮らしてこそ家族であるということが当然である欧米では考えられない事態であり、その背景には企業の論理に対する文化の弱さがあることを指摘された。そしてこのような事態を変革するためには、個を尊重する文化を築くとともに、家族文化の未成熟州さに思いを致すべきであるとされた。すなわち現在の性別分業のもとでは、男は、定年退職によって企業をはなれるや、地域になじめず、趣味も持たず、ひたすら妻の後を負って「わしも連れていってくれ」という「わしも族」となってしまう非人間的事態を招来し、女も家事や教育などの家庭責任を一身に背負わされて、育児ノイローゼ、子どもに対する過期待、過干渉の事態を引き起こしていると指摘される。家族の役割を見据えて、日本にふさわしい生活文化の確立を訴えて講演を終わられた。
 鵜飼講演「雇用調整ホットラインからみえてくるもの」では、日本労働弁護団がこの間実施してきた雇用調整ホットラインに、中高年ホワイトカラーからの相談が殺到し、いかに労働者の権利が空洞化しているかをいくつかの実例を挙げて報告された。相談に応じるなかで、労働弁護士の原点、今企業社会のなで働く人たちのひとりひとりの置かれた状況、そこでどういう権利侵害を受け、どういう痛みを感じ、立ち上がろうとしているか、その悩みのなかに自らも身を起きサポートしていくかが問われているとされた。これまで企業戦士は、企業イコール自分の人生、企業人間になることが家族の幸せにつながると思ってきたが、それでは駄目だ、自立していかなくてはという思いが生まれ始めていることを訴えられた。そして三本柱の活動、すなわち第一に働くためのルールづくり、そのルールは労働者の「保護」だけではなくて、労働者が自立し企業と対等に渡り合えるもの、第二に気軽に裁判提訴しようという市民的労働裁判、第三に労働相談ネットワークの形成を強調された。時間が足りなくて、予め準備されていた項Hは随分はしょらざるを得なかったが、労働弁護士としいの熱情と気迫は圧倒的なものであった。
      (弁護士 坂田宗彦)
 
第2分科会
 「いのちと健康を守るために」

一、1日目(2月18日)は、過労死の労災認定闘争を中心に、労災補償の関係について報告と討論が行われた。
 まず最初に、松丸弁護士から、本年2月4日に行われた「阪神大震災労災補償110番」における相談事例と基本的な考え方について報告が行われ、質疑がなされた。労働省は基本的に広く救済する方向であるので、積極的に労災申請をしようとの提起がなされた。
 次に、本年2月1日から発令された、過労死の労災認定の新基準について西弁護士から、脇山弁護士の報告書(『民主法律』223号41頁)と西弁護士のレジュメに基づいて報告がなされた。議論を通じて、新基準は、旧基準に対する世論や裁判での厳しい批判に対して法務省がしぶしぶ譲歩したものであり、内容的にも抜本的改正とはほど遠いものであるが、いくつか積極的な点は含まれており、今後それらを武器・ステップとして認定闘争を飛躍的に強化し、認定の前進と将来の抜本的改正につなげていく必要があることが確認された。
 その他、平岡過労死裁判の原告であった平岡チエ子さんから、昨年11月17日の完全勝利和解について報告がなされ、また結成1周年を迎えた大阪労働安全センターの活動について、同センター事務局次長の小倉さんから報告が行われた。
2、2日目(2月19日)は、主として労働安全衛生関係について報告と討論が行われた。
 まず最初に、府障教の谷川、柏木両氏より、職場における労働安全衛生体制確立のための取り組み及び向井裁判について、報告書(民主法律59頁)による報告がなされ、それを受けて討論がなされた。これまで教員の労働安全の問題については、学校保健法によって生徒の権利の派生的なものとして扱われてきたこと、教員の中には、いまだに「生徒のためなら」という滅私奉公的な考えが根強く、自らの健康や権利の主張を帰る雰囲気があることから、取り組みが遅れてきたが、「自分の健康に責任を持たずして、どうして仲間や子供たちの健康を守れるのか」という故向井先生の言葉を大切にしながら取り組みを進めているとのことであった。
 討論の中で、労働安全衛生問題で先進的な到達点を切り開いている化学一般の参加者から、化学の職場と比較しての興味ある指摘があった。
 最後に、「労災保険Q&A」(民主法律69頁)の出題と参加者による回答、松丸弁護士による解説が行われた。クイズ形式での学習は初めての試みであったが、なかなかの盛り上がりであった。
(参加者20名)
      (弁護士 岩城 穣)
(民主法律時報282号・1995年4月)

1995/04/01