大阪過労死問題連絡会のこの1年の活動及び今後の展望 弁護士 池田直樹(民主法律206号・1990年3月)
弁護士 池田直樹
昨年2月の権利討論集会以来、この一年、過労死問題連絡会は、被災者・家族の救済と長時間・過密労働の働きすぎ社会の告発の二本の柱を中心に活動してきた。
まず、被災者・遺族救済の面では、一昨年の4月の過労死110番から申請に至った平岡さんの労災認定を5月にかちとることができた。
6月には全国過労死110番1周年ということで、再び電話相談を受け付けたところ、一日に全国で309件、大阪でも34件の相談があり、社会問題化した過労死問題の深刻な広がりを痛切に感じた次第である。
しかし、認定の方はその後、前進していない。Iさんの件は、最終盤を迎えて支援運動の方も盛り上がってはきているが、監督署の対応はかなり厳しい旨報告されている。
川口さんの件(レッカー運転手)は、今年6月から本格的な調査が始まったが、会社の移転などもあって監督署の調査がまだ終わっていない。これまた、超長時間労働の事件であるが(死亡前6カ月の拘束労働時間は2305時間、直前1週間に限っても104時間47分)、監督署は労働密度、すなわちレッカー作業の手待ち時間も点検しようとしている。
Nさん(保線工事関係の監督)の件は、平岡さんの決定が出る直前に、業務外の決定が出て、審査請求中。きわめて苛酷な労働条件で監督署担当官自身がそのことを認めていながら、外になったことで、遺族・弁護団とも、怒りを新たにしており、行政訴訟も検討中。
その他事件の状況は、別表(略)のとおりである。
次に、働きすぎ社会の告発や過労死の予防の運動の面では、昨年4月に連絡会として「過労死110番」を出版し、また全国弁護団の「過労死」も共同執筆した。いずれも全国で版を重ね、1万部前後売れている。
さらに、11月にシンポ「さよなら働きスギ蜂」を開催し、経済学の立場からの長時間労働の実態、原因、克服の展望、実体験に基づく諸外国との比較、豊かさについての哲学の相違、労働者の意識や家庭の問題、具体的な時間短縮の取組みの経験など多角的な討議を深めることができた。すでに原稿化はほぼ終了しており、何らかの形で出版を検討している。
今年は以上のような運動をさらに発展させるため、次の点に重点を置きたいと考えている。
第1に、以上の運動で一部組合を除き、組合の健康問題や時間短縮への取組みの不十分さを痛感したので、是非、医師とも連携しながら、各組合にも呼び掛けて、健康講座などの学習運動を広げていきたいと考えている。
第2に、過労死110番運動をさらに過労・長時間労働110番という監視運動に発展させなければならない。そして本来、組合と行政の課題であるこのような運動にわれわれが取り組むことの問題性も問い掛けていく必要がある。
(別表)事件一覧 各会員が個別に取り組んでいるものは含まず。
平岡事件 現在会社の責任追求訴訟を検討中。
川口事件 88年11月申請。署の調査中。
読売TV事件 審査請求中。
N事件 89年5月業務外。審査逮捕求中。保線現場監督。
K事件 89年11月申請。大手食品技術者。
H事件 89年11月申請。二四時間外食産業副店長。若年。
Y事件 警備員。業務外となり、審査請求中。
T事件 地方営業所長。再審査請求中。
S事件 消防署所長。基金審査会で審査中。
N事件 運転手。組合支援のもと、申請中。
(民主法律206号・1990年3月)
1990/03/01