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「管理職残業第ゼロ110番」(ホワイトカラーエグゼンプションは既に導入されている!)実施報告 弁護士 生越照幸(民主法律時報417号・2007年3月)

弁護士 生越照幸

1 はじめに
  多くの企業は、現在、管理職と「管理監督者」(労基法41条2号)を故意に混同することにより、管理職の肩書きの付いた労働者に対して、時間外労働における割増賃金の不払いを常態化させています。
  そして、上記のような違法状態は、労働時間規制の枠を潜脱しているという点において、ホワイトカラーエグゼンプション制度が導入された場合と同じ効果を発生させており、過重労働や過労死・過労自殺の温床となっています。
そこで、大阪過労死問題連絡会及び労働基準オンブズマンは、平成19年1月27日、時間外労働の割増賃金不払いに苦しむ管理職を対象として、管理職残業代ゼロ110番を実施しましたので、以下、ご報告致します。

2 相談の概要
  管理職残業代ゼロ110番によせられた相談件数は合計29件でした。業種別で見ると、飲食業4、製造業4、販売業3、医療機関3、運送業2、建設土木業2、金融業1、人材派遣業1、公務員1、印刷業1、教育機関1、コンピューター関係1、不明5であり、相談者の企業内の地位は、部長5、店長4、課長2、係長2、主任2、現場監督1、事務局長1、サブマネージャー1、不明11となっていました。
また、具体的な相談内容としては、以下のような相談が寄せられました。
(1) 医療機関勤務 事務局長 男性
  雇用契約書に残業代がゼロと明記されている。深夜労働や休日出勤もあるが、残業代は一切支払われてない。
(2) コンピューター関連会社勤務 部長 男性
  勤務時間は午前9時から翌日の0時ころまで。部長になってから割増賃金は一切支払われていない。
(3) 飲食店勤務 店長 男性
勤務時間は午前10時から午後11時半ころまで。わずかな管理職手当は出ているが、割増賃金は支払われていない。タイムカードは存在するものの、一定の時間でタイムカードを押すように会社から指導されている。
(4) 土木建設業 主任 男性
時間外労働は多い月だと80時間ほどある。割増賃金は一切支払われていない。 会社は、退職した人が裁判を起こした時だけ割増賃金を支払う。役職は主任だが、部下は全て下請けの労働者であり、管理職の内実は存在しない。
(5) 土木建築業 部長 男性
  1日5時間以上の残業をしているが割増賃金の支払いは一切ない。
(6) 教育機関 役職不明 男性
  勤務時間は午前8時50分から午後10~11時ころまで。タイムカードはなく、割増賃金の支払いも一切ない。職員の約3分の1が鬱の診断を受けている。
(7) 販売業 部長 男性
  ノルマが厳しく、昇級もない。タイムカードはあるものの、割増賃金は一切支払われていない。午後10時ころまで残業を行っている。
(8) 医療機関 役職不明 女性
  割増賃金は事前に届け出ないと支払われないことから、急患の処置のために残業を行っても割増賃金は支払われない。

3 感想
 今回の110番は、十分な準備期間がなかったにもかかわらず、29件もの相談が寄せられました。このような多数の相談が寄せられた背景には、長年にわたって労基法上の「管理監督者」と管理職が混同されてきた結果、極めて多くの管理職が割増賃金の支払いを受けていないという実態があるためと考えられます。
 その一方で、相談者の方の中で、弁護士に事件を依頼した相談者は1人にとどまりました(事件受任後、改任されました)。多くの相談者は、日々、長時間の時間外労働に苦しみながら、「これはおかしい」と疑問に思っているものの、在職中に割増賃金を請求すると、会社から様々な不利益を受けて現在の経済的基盤が失われることをおそれ、弁護士に対する事件の委任をためらっているのです。
 今回の110番によって、多くの管理職が時間外労働に苦しんでいる実態を把握することができました。しかし、問題は、いかにして管理職の救済を実現するか、その手段を早急に構築する必要があるといえるでしょう。

(民主法律時報417号・2007年3月)

2007/03/01