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川口過労死事件 弁護士 池田直樹(民主法律211号・1992年2月)

弁護士 池田直樹

1 経過
87・10・29 川口弘氏、急性心不全で亡くなる。現場でレッカーのハンドルにもたれた姿勢で死亡。40歳。
88・4・23 過労死110番に川口さんが相談
  11・22 全国一斉申請の大阪唯一の事件として羽曳野労基署に申請。
      ただし、申請人の調査のため、半年間、保留してもらう。
89・6・23 第2回意見書、陳述書、報告書提出。
 12・15 第3回意見書提出。
90・12 署名運動提起。運輸一般に協力要請。
91・3・16 梅田クレーン訪問
  4・11 運輸一般の参加を得て労基署交渉、第4回意見書
  5・9   同上
  6・15 川口さんの過労死認定をかち取る会準備会
  6・末 田尻医師意見書提出
  7・12 労基局交渉、要請書提出
  7・31 川口さんの過労死認定をかち取る会結成総会
  8・1   労基署交渉、第5回意見書、現場調査申入れ
  10・5 監督署交渉、36協定違反に関する質問書提出
  11・6 監督署交渉
  12・13 業務上決定
2 事実関係
(1) 職務内容
 大型レッカーを美原の会社から現場に搬送し、現場作業を行った上で、帰社後、倉庫作業を行ったのち、帰宅。
 倉庫作業は、宵積(ブーム、鉄板など)と車の整備。特別手当は出る。
(2) 労働時間等
  死亡前6か月のタイムカード上の総労働時間(拘束) は、2300時間にのぼる。
 7月395時間、8月676時間、9月353時間、10月(29日まで)408時間。
 休日は6月が2日、7月が2日、8月が2日、9月が3日、10月は出張帰り(早朝)の明けの日を除いてゼロ。発症一週間で労働時間は104時間47分。
(3) 災害的事実
 10月25~26日にかけて徹夜の宵積作業、また死亡前夜には、ラフターのパンク修理を途中まで行うが、頭痛で中止して帰る。

3 争点(監督署の主張)
(1) 手持ち時間の評価
  監督署は 「あなた任せの仕事」で、手待時間が長い、という評価。
(2) 急性心不全の原因
 原因不明(心筋こうそく等の確定診断のつかないもの)の急性心不全は、本省にりん伺となる。
 川口氏は生前はとんど医師にかかっていない上、亡くなって発見され
 ているので、原因は不明。しかし、前晩からの激しい頭痛からすれば、くも膜下出血ではないか。
(3) 過重性の評価。比較の基準をどこにおくか。
(4) 災害的事実の有無。

4 課題と方針
(1) 過重性の判断基準については、同業他社との比較、同僚との比較、他の認定事例との比較をさせることが重要と考え、運輸一般が組織されている職場についての調査を行わせることができた。また、他の認定事例も極力提出し、この事案の労働時間の異常性を強調した。
(2) ラフターパンク修理の実態についても、運輸一般の方から生々しい発言があり、後に書面化して提出した。
(3) 病名の問題については田尻意見書によりくも膜下出血の疑いが強いことを強調し、採用された。そのことによりりん何を回避できた。

5 決定理由と勝因分析
 決定理由は、前日の1日の労働が特に過重な労働であることによる、という簡単なもので、特にラフターパンクの修理が過重な肉体労働であり、その時点で既に発症していた、というものであった。
 最終的な落とし所がパンク修理になることは予測はされたが、それ以前ないしは直前1週間の徹夜を含む超長時間労働に対する言及がなかっただけに、肩透かしをくらった感があり、認定までの3年(うち半年は当方の要請によるとしても)の年月も考えると決して素直に喜べる決定ではない。
 その分、もし運動がなかったら、これほどの事実関係のもとでも敗れた可能性は高く、行政の壁の厚さを痛感する。
 逆に勝因は、
第1に、労働実態の過酷さそのものを立証できたこと、
第2に、最後の1年の運動の盛り上がり、
第3に医学的な面で田尻意見書が有効だったことがあげられる。
 弁護団としては、やや中だるみがあったことは否定できないが、事実調査面から運動化、局も含めた交渉や監督署に対する様々な要請等やれることはほとんどやったという感はある。1の経過表で一目瞭然であるように、運動があるとないでは、弁護団の力の発揮も全然違ってくるものである。
 なお、このように長時間かかった原因に最後に触れると、
第1に、会社側が当初は資料面で一定協力したが、監督署の調査等に対して、非協力的で調査がなかなか進まなかったこと、
第2に医学的資料に乏しかったこと、
第3に長い間運動がなく、弁護団、監督署とも中だるみがあったこと
などがあげられよう。
 本件では調査の過程で、36協定未締結等の会社、行政責任の問題も明らかになっており、今後の課題はまだ残っている。
(民主法律211号 92権利討論集会特集号)

1992/02/01