過労死に関する資料室

HOME > 過労死に関する資料室 > その他重要資料 > 脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会 第6回議事録 01/04/16

脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会 第6回議事録 01/04/16

第6回「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」議事録

日時 平成13年4月16日(月)
   18:00~       
場所 労働基準局会議室     

○座長
 第6回「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」を開催する。
 検討に入る前に事務局から提出資料について確認・説明をお願いする。

○事務局
 提出資料について確認・説明。

○座長
 検討に入る。
 まず、第4回及び第5回の専門検討会の議事録について確認したい。

○参集者
 議事録承認。

○座長
 次に「3 就労態様等による過重性の評価」のドラフト案について検討するので事務局に朗読をお願いする。

○事務局
 項番1、2について朗読

○座長
 総論的なところについて、意見をいただきたい。基本的には長期間にわたる負荷要因を評価するということで、その負荷要因によって疲労の蓄積が生じるか否かを医学的に判断しようとするものである。まず、労働時間を考えて、それに修飾する因子を併せて考えていく。さらに、仕事以外の因子についても考えたい。この部分が今回の検討の基本となるところであり、非常に重要なところである。

○参集者
 1頁の10行目に「一般的な日常生活における負荷」という表現があるが、これは昭和36年の認定基準においては災害と捉えられ、昭和62年の認定基準では過重負荷というように変わったものである。そのため、前からのつながりを考えると、「身体的及び精神的負荷」と具体的に記述した方がいいのではないかと思う。

○座長
 では、「身体的及び精神的負荷」と記述することとしたい。
 図1は、アメリカの NIOSH のストレスモデルとして提示されていて、精神障害の報告書にも、この概要が図として採用されている。精神障害の場合は、職場のストレス負荷要因と職場外のストレス負荷要因だけであるが、精神障害の場合に比べて、詳しく説明してある部分が2点ある。1点目は、精神障害の場合、個人要因、緩和要因という表現だけであったが、具体的にその内容を書いたというところである。ストレス反応、疲労の蓄積もまったく同じである。もう1点は、個人要因(2)のところである。精神障害の場合は問題にならなかったが、脳・心臓疾患の場合には、かなり重要になってくるので、個人要因(2)として新たに加えた。

○参集者
 1頁の2のストレスについてであるが、非常に受け止められ方、あるいは使われ方の幅が広い言葉であることから、限定した表現にした方がいいと思う。このような意味でストレスという用語を使ったということを書き加えた方が、混乱が少ないと思う。

○座長
 ストレス負荷要因、ストレス反応と用語は区別して使われているが、ストレスあるいはストレインと疲労とは、どのように区別したらいいのか。

○参集者
 区別は難しく、単なるストレス反応ではなく、疲労の蓄積状態を最後の病態としている。

○参集者
 図1について、「ストレス反応、疲労の蓄積」を心理的反応と生理的反応の2つに分けているが、行動的反応は入らないのか。

○参集者
 行動的反応は、個人要因(2)に入れている。脳・心臓疾患の発症という側から考えると、こちらの方が適切と思う。

○事務局
 ストレス反応から個人要因(2)に矢印が付いているが、これでいいのか。

○座長
 その辺の考え方はまだ見解が統一されていない。例えば、飲酒、喫煙、肥満にしても、ストレスによって二次的にそういう行動を起こしてしまったという考え方もあり、実際、半分くらいの調査では、ストレスのかかっている人はアルコール量が多いという結果が出ている。それが原因なのか結果なのかということは分かっていないが、飲酒、喫煙、肥満がストレスによってくるものである可能性も否定できないということで黒で矢印を引いてある。全部が全部という意味ではないので、誤解を受けるようであるのなら点線にしてもいい。

○参集者
 1頁の下から7行目の「長期間の持続によって、生体機能は疲弊し」というところで、「疲労が蓄積し生体機能が疲弊する」ということまではかなりのエビデンスがあると思うが、「加齢などによる血管病変の通常の進行を著しく超えた不可逆的な変化」、例えば、動脈硬化を著しく促進させるという意味合いではないかと思うが、この三段論法のエビデンスは、まだないのではないか。この辺は表現を変えるか、あるいは適切な論文を引用することが大変重要である。

○座長
 それでは、引用論文を載せるか、「可能性がある」という表現にすることとしたい。

○参集者
 これは、本当にその可能性があることが分かっていなければ、分かっていないと書いた方がいい。

○参集者
 「著しく超えた不可逆的な変化を生じる」のか、その可能性があるということなのか、医学的にはよく分からないのか、訴訟になったときにはかなり大きな問題となることから、明確にする必要がある。
 もう1つは、「通常の進行を著しく超えた」の「著しく」が付くのか否かも法律的な観点からすると論点となり得る。不可逆的な変化が生じてもそれが著しくなくては業務との因果関係はないと考えられる。その点から、因果関係の認められやすさというのは異なってくる。そこのところは議論の余地があると思うので、検討いただきたい。

○座長
 その点は、後日検討することとしたい。

○参集者
 長期間の持続によってという場合に、例えば10年それが続けば不可逆的となるということを言っても、それほど違和感なく受け取られると思うが、6か月とか1年というのが、不可逆的な変化を引き起こすのか。長期間のレベルについても、不可逆的な変化という場合は問題になるのではないかと思う。

○座長
 人によって期間が違うということが言えるのではないか。医学的にはっきりした期間はいえないが、少なくとも、1週間をいうのではないというような意味の期間である。

○参集者
 図1は、職場のストレス負荷要因が出発点としてあって、一直線に進行するように思えるが、このストレス負荷要因というのはずっとかかっていると理解した方がいいのか。

○座長
 そうである。病態として途中でこういうことが起きて、そして発症するという意味であり、NIOSHのモデルは基本的にこのパターンを取っている。

○参集者
 図1の出発点は、職場のストレス負荷要因と疾病というよりは、むしろ脳・心臓疾患にした方がいいのではないかと思う。

○座長
 脳・心臓疾患との関連に限定することとしたい。

○参集者
 今回の検討では、対象疾病を現行の脳・心臓疾患とするのか。それ以外に枠を広げるのかという議論があったが、その点はどうなのか。

○座長
 今回の検討会は、脳・心臓疾患に限るという方向でいいのではないかと思う。ただ、脳・心臓疾患の中で広く考えるか、疾病列挙として考えるかは、検討する必要があると考えている。対象疾病のところでまたご議論していただきたい。
 では引き続き、2頁の3の(1)について、朗読をお願いする。

○事務局
 項番3の(1)について朗読

○座長
 労働時間についてまとめたところである。意見をいただきたい。
 2頁の下から2行目の「10人の月60時間以上」には、「残業」という言葉が抜けている。

○参集者
 Hayashiら、Iwasakiらの引用文献について、サンプル数がこの程度でこのように結論付けるのに十分なのか。

○座長
 この程度のサンプル数ではあるが、十分に計画されたものであり、その結果、はっきりした有意差が出たということであれば、証拠として採用していいのではないかと思う。

○参集者
 一般論として述べるときには、こういう論文があるが、まだ今後検討する必要のある領域であるというような指摘が必要なのではないか。

○参集者
 基本的に疫学論文はすべてそうした考え方である。

○参集者
 その疫学論文の総論的な了解事項を書き加えてはどうか。

○座長
 国際的には、この3つの論文はかなり高く評価され、よく引用されている。きちんと対象を置いて、有意差検定も行い、有意差が出ていれば、サンプル数が少なくてもはっきりしていると考えていいと思う。

○参集者
 国際的にも高く評価され、その理由はきちんとした業績であるというようなことも、記述した方がいい。また、査読制度のないような雑誌に載っている論文ときちんと区別しなければならないと思う。

○参集者
 表の3の中に出ている論文も、そのレベルは非常に差がある。その中の結論の正確性も相当ばらつきがある。
 ただ、この3つ、Sokejimaらは British Medical Journal であり、Iwasakiらは Industrial Health 、HayashiらはJ Occup Env Medicineであり、それなりの雑誌である。

○参集者
 内容的に、睡眠時間で判断するとなっているが、就労時間は記録があり、客観的な判断ができるが、睡眠時間となると、その証言は家族によるしかなく、睡眠時間にあまり力点を置くと、客観的でないデータに判断の力点を置くことになると思う。

○座長
 判断は就労時間などで判断するが、医学的に何時間労働を行うとどうだとはいえない。
 睡眠時間については、精神障害の検討においても生理的に必要な睡眠は5時間となっており、大体現在の医学における定説になっていることから、それを根拠にしたものである。したがって、実際には睡眠時間から就労時間を換算して判断するというものである。
 いずれにしても、この記述は、客観的な事実を集めた800余の論文から出てきた客観的なデータを論じているところであり、この報告書はあくまでも科学的なことを述べている。

○参集者
 4頁の8行目のところに、過労死についての相談事例というのがある。これは就労時間についてもまったく根拠のあるものではなく、遺族などの一方的な陳述によるデータである。

○座長
 確かにそのとおりだと思う。表現として、「家族の陳述による」を入れてもいい。

○参集者
 Sokejimaらの論文で、一番高いオッズ比は高コレステロール血症であるが、労働時間に着目したら、こういうオッズ比になるということか。

○座長
 そうである。

○参集者
 そうすると、これが引用されてこういう説明があるということは、今までもリスクファクターの優先順位で高脂血症等があり、そこに長時間労働があっても、優先順位からいうとリスクファクターだけで5番目だからそれは認めないというのが従来の考え方であった。今回は共存の因子として労働のファクターがあれば、他の因子との兼ね合いは考えるが、従来よりも重視し、判定していくという考え方になるのか。

○座長
 基本的にその辺のところをどうするかは、リスクファクターのところで論議したいと思う。

○参集者
 非常に有意差が出ているこの論文であっても、高コレステロール血症とほとんど同じ程度のオッズ比である。臨床の現場で多くの人を診ていると高コレステロール血症はやはり重要である。

○座長
 高コレステロール血症があり、糖尿病であって、煙草を吸い、太っているなど多くのファクターが揃うとリスクは17倍くらいになる。それに対して、ストレインとかストレスの相対リスクは1.5倍である。それをどう考えるかということは、またリスクファクターのところで論議したいと思う。

○参集者
 この論文は、レトロスペクティブで、ケース・コントロールなのか。

○座長
 そうである。レトロスペクティブではあるが、手法的にはきちんとしているということで、国際的には認められている論文ということである。

○参集者
 この場合、ケース・コントロール・スタディであるとすると、「労働時間でオッズ比を出す」に当たって、今のコレステロール等は除外してあるのか。

○座長
 コントロールはしてないと思われる。

○参集者
 そうであると問題である。一般的にケース・コントロール・スタディを行う場合、主要なファクター以外は除外するわけである。この論文で除外されているか否かで、全然違ってくる。

○座長
 この論文では行われていなかったと思うが、労働時間に注目した論文ということで挙げている。

○参集者
 このことは、法律的な面からすると、因果関係の判断において裁判などで非常に微妙な問題になる。もう一度リスクファクターのところで議論するということであれば、是非やっていただきたい。そうでないと、ここだけが一人歩きする可能性が非常に高い。それともう1点、4頁8行目からの「過労死について」であるが、これは過労死ではないのかとする相談事例ではないのか。「過労死について」ということであると、過労死であることが前提であるようなニュアンスがある。

○座長
 その辺の表現は考えたい。過労死研究に関する論文では、必ず引用されていることから付け加えたものである。いずれにしても、この項は科学的な論拠に基づいて、1日の睡眠時間5時間から換算して、労働時間が週65時間以上であれば、それだけで認めてもいいのではないかというニュアンスで書いてある。非常に軽いものは対象とはならず、その中間は他の修飾因子を考えて判定していくという趣旨である。
 それでは、次の朗読をお願いする。

○事務局
 項番3の(2)~(4)について朗読

○座長
 総論に対して、各論的に種々の要因について記述している。科学的な根拠のある場合は数字を出し、そうでない場合はこういうことを考慮すべきではとして述べている。

○参集者
 9頁から10頁の気圧のところに、「潜水夫、潜函工法による高気圧従事者」とあるが、実際にこの職種に一番頻度が多いものは脊髄麻痺であるが、空気塞栓として、一部は脳にくる。

○座長
 ここでは、心理的負荷等という意味合いで扱うことを考えている。

○参集者
 7頁の(4)の出張の多い業務について、出張する際に、飛行機に乗っていれば、何もしなくていいわけであり、ただ出張が多ければ、それで過労になるかというと、必ずしもそうでもない面があると思う。

○座長
 出張中の休養や睡眠が十分に取れていたかとか、あるいは疲労の回復ができる条件であったかとかを考慮して判定してほしいということを述べている。裁判でも出張頻回ということを取り挙げていることから、十分に休養が取れるような出張であったか否かを考慮してほしいということで挙げたものである。ただ、判断に当たってのウエイト等は行政の判断ということになると思う。

○参集者
 しかしながら、行政も医学的知見を判断の根拠とすることから、一般的にただポジティブに評価するというだけではなくて、マイナスの面もあるのではないかという指摘もあった方がいいのではないかと思う。

○参集者
 脳・心臓疾患を生じやすい職業として、バス・タクシーの運転手、その他の交通業務従事者を挙げているが、脳血管障害などのリスクファクターが多い場合に、脱水があって、血液粘度が上昇することが、発症のトリガーとなりやすい。交通従事者が、飲水を制限するということで、脱水でヘマトクリットが上昇しているというようなことがあれば、科学的な根拠はないが、そういう職業の人に発症が多い1つの誘因ではないかと思う。

○座長
 そのとおりだと思う。その調査は世界各国で行われており、業種によるものは必ず出てくる。ただ、機序としては分かっていないことが多い。こういう業務を考慮して、最終的な判断をしてほしいという要望である。
 では、次の朗読をお願いする。

○事務局
 項番4、5について朗読

○座長
 就労態様等による過重性の評価の締めくくりになるが、評価期間は、前回の検討会で示した表に基づき、医学的、科学的にいいであろうという評価を行った。先ほど触れたところであるが、基本的な考え方として、労働時間が一定以上であれば業務上と認め、労働時間が一定以下であれば業務外とする。その中間に関しては、修飾因子の就労態様等や職業外のストレス、リスクファクターなどを考慮して判断するという手法を提案している。

○参集者
 評価期間について、最高裁の判例等で、3か月から3.5か月ぐらいのものが多いが、それは、現行の認定基準が1週間を中心に考えていたことから、遺族等から3か月ぐらいの期間に係る資料が提出されることにより、その期間が比較的多くなっていると思う。
 そのような状況と思われるが、3か月ないし6か月を対象とするということで、従来裁判所で敗訴していたようなところも、評価できるという意味では適当であると思われる。
 また、最後の11頁から12頁にかけてのところで、過重性の評価の基本的な考え方を提示しているが、睡眠時間というところで取っていくのか、それとも勤務時間で取っていくのかという問題がある。裁判を考えると、遺族の側は睡眠時間5時間というところを証明すればいいということになる。ところが、行政の側からすると、被災労働者の睡眠時間は調べようがないわけで、労働時間から見ていかざるを得ない。睡眠時間を目安に取るよりは、勤務時間を目安に取った方がいいのではないかと思う。

○座長
 医学的には睡眠時間ということでいかないと、はっきりしたことは言えないことから、この記述の後にそれに相当する労働時間を付け加え、それを基第6回「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」議事録準にすることでいいか。

○参集者
 12頁にある基礎疾患の重症度とか、業務以外のストレス負荷等があれば、業務外との判断に傾くのか。

○座長
 そうである。最後の一滴は業務外ということは合意できると思うが、最後ではなくある程度の負荷の判断をどうするのかということは難しい。図には「基礎疾患」ということだけしか挙げていないが、これは最後の「業務外」のところで議論したいと思う。
 最終的には、具体的な進め方のところに、長期間を評価し、その次に短期間を評価するというように記述することとしたい。

○参集者
 これは研究者による見解であるが、行政側に就労時間をきちんと守るようにもっと指導すべきではないかと入れてもよいと思う。

○座長
 それは「最後のまとめ」で書くように考えている。必ず就労時間を守り、予防的な努力を事業主に、あるいは労働者自身に努力してほしいと言いたい。事業主だけではなく、労働者の自主努力を入れたいと考えている。それから、産業医の活用についても、要望として盛り込みたいと考えている。

○参集者
 精神的緊張を伴う業務について、就労時間だけでは測れない。特に心筋梗塞等は管理職と非管理職とを比べると、管理職が多いということは明らかであり、管理職、医師などは心理的緊張を伴う業務として過重性の評価ラインを引けるのか。この中からは読み取れない。

○座長
 これからは読めない。こういう業務の人は過重性のあることが多いから、十分調査してほしいというニュアンスである。
 今日の議論はここまでとし、本日の議論等を踏まえ整理することとしたい。
 以上をもって、本日の検討会を終了する。

照会先:労働基準局 労災補償部補償課 職業病認定対策室職業病認定業務第一係
    (内線5570)

2001/04/16