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脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会 第4回議事録 01/03/05

第4回「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」議事録

日時 平成13年3月5日(月)
   10:00~      
場所 物産ビル第2会議室   

○座長
 第4回「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」を開催する。
 今回より法律学者を参集者とすることとした。
 検討に入る前に事務局から提出資料について確認・説明をお願いする。

○事務局
 提出資料について確認、説明。

○座長
 検討に入る。医学文献の収集状況について事務局から説明をお願いする。

○事務局
 文献については、約850文献を超えている。すでに参集者にお渡ししている。

○座長
 次に議事録について確認したい。

○参集者全員
 議事録承認。

○座長
 検討に入る。
 「II 脳・心臓疾患の現状」についてのドラフト案について検討するので事務局に朗読をお願いする。

○事務局
 朗読。

○座長
 以上が「脳・心臓疾患の現状」ということである。全体的なことを述べている。頻度が非常に高いこととかストレスに関しての記述で、最終的には過労による脳・心臓疾患を強調して克服に努めてほしい、労働者の自助努力も促している、というまとめになっている。では、この部分について参集者からの意見をいただきたい。

○参集者
 記述の内容は、発症率、死亡率、年齢、性、経年変化等については一応記述し、発症時間、基礎疾患の状況についてはまだ記述がない。発症時間については、例えば心臓についてフラミンガム・スタディーというものも手元にかなり集まってきているので、追ってこの発症時間ならびに基礎疾患の状況についても追加したいと考えている。

○座長
 それがあると助かると思う。主な疾患について、わりあいといろいろな統計は出ているので、現状を知っていただく意味からも必要がある。臨床専門の参集者で、是非こういう統計を入れてほしいというのはないか。あったら、是非申し出いただきたい。

○参集者
 労働者の健康状態の図でいろいろな統計を引いているが、すべて厚生労働省の統計であるので、ほかに民間の統計などがあれば入れた方がよいのではないか。

○座長
 個々の疾病についての厚生労働省の統計は、そんなには間違っていないと思うが他にストレスに関する統計などがあれば入れていきたい。

○参集者
 今後付け加えて引用する場合には査読制度が施行されている雑誌に掲載されている論文に限って引用するということでよいか。

○座長
 基本的には、オーソライズされている雑誌に載ったものでやるのがいいと思う。そういう統計を広く載せることを基本にするということにしたい。
 これからどんどん追加していく可能性はあると思うが詳しい発症時間とか基礎疾患とかのデータを今後加えるということにしたいので、よろしくお願いしたい。
 次に「業務の過重性の評価」の部分のドラフト案の検討に入りたい。まず、事務局は朗読してください。

○事務局
 朗読

○座長
 今回の検討でいちばん重要なポイントになるところであるので、十分ご意見をいただきたいと思う。
 一部字句の修正をさせていただきたいと思う。「(1)過重負荷の考え方」の2行目の、「基礎的病態(血管病変等)の発生、進行、すなわち」の「すなわち」を「及び」にしていただきたい。
 「増悪」の言葉の使い方で、その下の行は「この血管病変等の発生、進行及び増悪には」と直していただければと思う。一定の進行していったものが、何かのきっかけによって急に悪くなることを増悪というわけであるから、進行と増悪とはまた別の考え方である。きちんと言葉の定義に基づいて区別した方がいいと思う。
 その次の段落の2行目、「徐々に血管病変等が増悪する」を「進行する」にした方がいいのではないかと思う。
 3頁の8行目「過重負荷により血管病変等が時に」としてあるが、「明らかに」に直してください。「明らかに自然経過を超えて」という意味である。以上が字句の訂正である。
 では、具体的な内容に関して参集者からのご意見をいただきたい。

○参集者
 3段落目のいまの2行下の「自然経過を超えて著しく進行を促進し増悪させ」のところは、「自然経過を超えて急激に」という言葉は入れないのか。従来は、この急激にという言葉は1週間との関連において強調されていたのだが。

○座長
 慢性的な期間を中心とする負荷の評価からすると、常に「著しく進行」でもいいと考える。医学的にも心臓の発作は少し前に負荷があって、しばらく経ってからワッと起きてくるのが常識と考えられるようになってきている。医学的には、長い間に血管病変が進行してきて、そこへ何か引き金になるようなことが起きた場合に発症するというふうに考えているわけであるが、引き金だけを考えるのではなくて、もっと前から除々に進行してきた過重負荷も重視するというのが今回の考え方であると考える。

○参集者
 慢性的な疲労も、過重負荷の1つの態様であると考えるということか。

○座長
 そういうことになる。むしろ、そのほうが重要ではないかという考え方になってきている。但し、慢性的な疲労は、仕事以外のいろいろなストレスもあることから、それを区別することが非常に難しい。

○参集者
 脳・心疾患の発症というものは頻度から見ても、発症前1週間以内の業務に関連した異常な出来事とか、そういうものが関連することが多いし、そのほうが一般的にも世間の了解を得られやすい。
 最高裁が示した判断は、従来はそれで切っていたけれども、そうではなくて長期にわたる過重、長時間労働、長い拘束時間というものも発症に関係があると考えていいのではないかという考えが示されたものである。したがって、従来の考え方がそのまま1つあって、新たにそういう考え方も十分に考慮しろという司法の判断が示されたのではないかと理解している。

○座長
 労災認定が直前のものだけという考え方に基づいているのだということであればそれでもいいと思うが、全体を医学的に考えた場合、直前だけで考えるというのはおかしいのではないかという考えもあると思う。臨床の参集者はどう考えるか。長年にわたって積み重なった基礎病変の進行があって、そこに引き金があってというのが医学的には最も妥当ではないかという考え方である。

○参集者
 慢性的な疲労が徐々に蓄積をして、それが何かのきっかけで引き金となって発症するというのが、裁判所が原告側の主張を聞いて国側が負けるケースの圧倒的多数の1つのパターンだろうと思う。したがって、このような考え方を踏まえて労災認定をやるべきだということであれば、従来の認定基準を単に変更するというよりも、かなり大きく変わると思う。昭和62年あるいは平成7年の考え方は、過重負荷というのは何か異常な出来事にかなり引っ張られた過重負荷で、徐々の蓄積ということについては、これを考慮の対象としていなかったのではないか。人間の生体というのは判例などを読んでいると、医学的にはそれはわからない領域であり、したがって、そこまでは言えない、ということで止めていたわけである。ところが原告側の主張は「いや、そうじゃない」と。やはり過重な負荷というのは、長い目で見るべき場合もあるので、長い期間での疲労の蓄積とか恒常的なストレスというものが疾病の増悪に大きく影響していると。最後は、引き金が問題になるのであるが、それだけを見るのはよくないというのが1つのパターンになっていたと思う。

○参集者
 臨床的な立場から言うと、脳血管障害というのは以前は「セレブロバスキュラ・アクシデント」(CVA)と言われていたが、そういう言葉は非常に米国では使われなくなってきた。それは発症の誘因を非常に重視するとセレブロバスキュラ・アクシデントということになるが、むしろアクシデントではなくて起こるべくして起きた結末であるということで、ストロークという言葉が臨床的には使われている。私自身が20年前にアメリカでレジデントをしたときに、CVAという言葉を使ったら教授に非常に怒られて、「これはアクシデントではなくて、起こるべくして起きた結末である」と言われた。CVAという言葉が使われなくなってきていることからも、医学的な発症としては慢性的な過重の部分がかなり重要で、むしろこちらの部分のほうが発症のメカニズムとしては重要ではないかと思う。

○座長
 循環器の参集者の考え方はどうか。心筋梗塞の場合はほとんど病変がなくて、ものすごい驚愕だけで心筋梗塞を起こす例はあるか。

○参集者
 全く病変がない人には非常に起きにくいが、ロサンジェルスの大地震とかこの前の阪神淡路大震災でも、起きた直後にすごく心筋梗塞は増えた。

○座長
 発症した人は、やはり自然のある程度の血管病変というのはあったと思う。

○参集者
 血管病変があって、それを放っておけば1カ月以内に起きる人が早まって起きて、そのあとは減るのである。そういう説も出ているが、本当にそうなのかはまだわからない。

○座長
 文献を読んだ感じでは、調査期間、イベント、ストレス、睡眠時間に関して調査をして、明らかに多かったという報告が全部で21あったわけであるが、その中で「直前ないし1日」というのが3つ報告があった。「1週間」というのが9つ。「1カ月~6カ月」の間の調査で、明らかに多かったのは7つあった。「1年以上」のが1つである。それだけの調査の報告があって、しかも1年6カ月以上のものの図表を見てみると、6カ月間をちゃんと調べればわかると書いてある。
 医学的にそういった文献をきちんと集めれば、大体感じとしては、急激な異常な出来事は、直前ないし1日くらい、残業など急激な過重負荷が急に加わって何か起こすのは、1週間ぐらいが妥当ではないかと思う。もっと長い基礎病変の形成は、6カ月くらいみればいいのではないかと、考えるがどうか。

○参集者
 いままでも、発症前1週間以内の業務が過重である場合には、それ以前の業務についても考慮すること、ということにはなっていた。必ずしも、1週間だけに限っていたわけではない。

○参集者
 自然経過というのは頑強な人の自然経過というか、加齢、エージングとしてみられる場合と、それが重篤な場合には、この角度がものすごく急峻になるわけでしょうし、軽症の場合は、その中間になると思う。そうすると、過重負荷というものを定量的に考えていくとすると、過重負荷に定量性を持たすということと、いまの角度、平均的労働者の定義という2点が最もむずかしい問題になると思う。
 一方、いまの産業医というものがどういうふうに労働者の健康管理に当たっていたのかという問題がある。あるいは、自己管理の問題がある。高血圧でも重症度を3段階に大きく分けたとして、その重症度に応じて自己管理をどういうふうにしていたのかと。それが例えば、産業医と本人がどういうふうにしたかというようなことは今回はあまり問題としていない。

○座長
 その辺は、あとで、参集者の意見を求めたいが、少なくとも産業医であるとか、事業主の過失は論じないということである。それから労働者が、「ちゃんと病院へ行け」と言われたのに自己管理しなかった、というのが重大な過失かどうかというのは判定がむずかしくなってくると思うが、ただ、それをあまり表面に出すと、いろいろ問題が出て来るので、自己の責任で治療しなかったというものを含めて、すべてそれは自然経過の中に考えましょう、というように基本的に考えている。すなわち、自分で治療しなかったので、血圧がどんどん高くなっていったというのは、それはもう自然経過である。

○参集者
 「自然経過」と「基礎疾患の促進及び増悪」「発症の誘因」と分けているが、これ自体は業務によっても起こるだろうし、業務外の要因によっても十分起こるわけである。したがって、業務外のものを全部自然経過に入れるというのは、かえって不自然ではなかろうかと思う。要するに、私的な理由でもって、隣人、奥さん、子どもと喧嘩するなどトラブルがたくさんあると、これはどんどん悪くなるかもしれない。これは急激な増悪に関係するわけで、それは別に自然経過ではなくて、要するに業務外の要因で増悪したということではないだかろうかと思う。

○座長
 それをイコール自然経過というふうに呼んで処理したらどうだろうかという考えなのであり、「自然経過」というのは業務外のすべてを含んでいるというふうに。それは自然の営みであるからということで、必要であれば、もちろん定義を変えればいいと思う。

○参集者
 いままでの労災保険における認定というのは、例えば事業場の中の災害とか、事業場の中で使われていた有害な物質によって起こるということであるから、あまり業務外の要因というものを特別に考える必要はなかったわけである。逸脱的な行為があったかどうかということだけで、考えればよかったのであるが、脳・心臓疾患については、業務外の要因もかなり大きく影響を及ぼすわけであるから、実際それがどういうものであるかということを本当は見ないとわからない。本当は業務外の要因で起こっている可能性もあるわけである。であるから、その点を把握するようなシステムを少し組み込んでおかないといけないだろうと思う。

○参集者
 重篤性であるが、つい最近国が敗訴した裁判記録を読む限りでは、いつ発症してもおかしくないような人であっても、業務の過重性があれば、それを認めているのである。であるから、いちばん問題なのは、労働者をどのように縛り、無理な働き方をさせたかということの認定が、発症にいちばん重要な関り合いを持つものとして考えていく、というのが司法の判断ではないかと思う。

○参集者
 「平均的労働者」に関連して基礎疾患の「重篤」というのと「軽症」「頑健」というのは一般的には言い易く、リスクファクターとしての高血圧症とか糖尿病は、割と治療の段階での重症度は決まっている。脳血管疾患の場合には、一度軽い脳梗塞を起こして、いま働いている人というのはいくらでもいるが、その人たちのリスクファクターは、またちょっと違う。やはり、脳梗塞を起こした人の後のリスクは、高血圧症が前よりもずっと関与が強くなる。
 であるから、一般的に平均的労働者というのはとりあえず作らなければいけないのでしょうが、これはかなり難しいところがあると思う。

○参集者
 心臓の場合、心筋梗塞や弁膜症で心不全がある。その方たちがみな社会復帰して職場に戻る、あるいはその心筋梗塞を押して職場に帰った。心筋梗塞の場合は重症度がいろいろあるが、それによって、いろんないまのリスクファクターの捉え方の重み付けが全部変わってくるわけである。そうすると、過重負荷というものも、変わってくる。そこで、「もう職場復帰しますか、どうですか」ということで医師の診断が入るわけである。職場復帰をしてしまった以上、そこで重篤な人の場合には、不適切であるという線切りがどこでできるかというのは、非常に難しくなって、逆にいうと、もう重過失の問題とか、自然経過は非常に広く含むということになると、重篤な人もほとんど平均的労働者の中にかなり幅広く入れていかないと、そこの線切りが非常に難しくなるのではないかと思う。やはり、平均的労働者としてどこかで基準を設けるというふうにするほうがよいのかどうか。

○座長
 これぐらいという基準は、個々の例で全部違うから、非常に難しいと思うが、全体的な考え方でいかざるを得ないのではないかと思っている。

○参集者
 業務の過重性というのは、割に客観的なデータが得られやすいと思うが、評価するときに、難しいのは疲労とかストレスというもので、それの客観化が難しい。従来認定基準では、「『長期間に亙る業務による負荷を受ける側の慢性的な疲労や過度のストレス』は、客観的な評価の方法がないから、積極的にこれを取り上げなかったということで、考慮されていなかったということではないのではないか。

○参集者
 重症とか重度とか軽症とかということを考慮しつつ、平均的労働者というのは何となく矛盾するような感じがしないわけでもないと思う。というのは、例えば、AさんならAさんにとって、2時間の残業というのは大変だった。その人にとってはそのために発症したと。それが1年間あるいは6カ月続けば発症する。しかし、発症しない人もいるわけである。そのときに2時間の残業というのを過重性があるというふうに判断するのかどうかである。いままでの裁判例を見ても、本当に重篤な人で、残業も何もなくて倒れたというような人を救済したケースというのはあまりない。したがって、平均的な労働者という形で、いかにも平均というふうにいうのは、かえって、それが認定の実務に大きな意味があるならともかく、そうでなければ、軽い人もいれば中度の人もいれば重度の人もいる、重度の人にとっても、ある労働の態様が非常に重くなるというようなことを片一方でいうのだったら、平均的労働者像というものを設定する意味はあまりないような気がする。

○事務局
 平均的労働者という概念が導入されているは判決もあるが、そういうケースはとかく重症でないということを言いたいがために、そういうことを持ってきている場合がある。実際に基礎疾患がそれほど重症でない人、だけど基礎疾患はそこそこあるというような人について、平均的労働者という概念を使った判決においては、一定の重症度は除くけれども、そうでなければ、実質本人基準説的な見方をしていて、例えば具体的に同僚労働者と比較するのではなくて、この人にとっては、実は発病しているから重かったんだ、過重だったんだというような議論展開が割に多いような印象を持っているが、判決の方向としてその辺はどうか。

○参集者
 こういう疾病の業務上の認定というのは、要するに業務によって起こったのか、業務外の要因が非常に作用していたのかということで、平均的労働者というか、日常業務をつつがなくこなせるだけの状態であったということは、業務外の要因はあまりなかったのだという1つの要因として言われているだけで、平均的労働者でもって判断するというのとは、ちょっと違うのではないかと思う。
 その人の病状というのは、本当に重篤ではなかったということを言いたいがために、日常生活をつつがなく、要するに普通の業務をこなせるだけの状態であったと。そういう人が倒れたというのは、やはり業務による要因が非常に大きく作用していたのだと言わんがためのものであって、平均的労働者を基準として判断すると、重たい人については駄目、軽い人についてはいいということではないような感じがする。
 やはり、ここまで来ると、労働者本人基準説というわけではないが、その労働者にとって、重かったかどうかということが考慮されているような感じはする。医学の立場も、その人にとって重たければ、その仕事はやめなさいというわけで、平均的に大丈夫だからやりなさい、とは絶対に言わないと思う。例えば重篤な症状を持っている人については、2時間の残業でも過重だと考えるのだったら、平均像を設定する意味というのは、あまりないのではなかろうか。そうすると、平均的労働者像というのは、あまり業務上の認定の問題では、意味がないということになるのか。

○座長
 過重性の部分は、基本的なことであるから、十分討議して、これからも是非討議していきたいと思う。

○座長
 以上をもって、本日の専門検討会を終了する。

照会先:労働基準局 労災補償部補償課 職業病認定対策室職業病認定業務第一係
    (内線5570)

2001/03/05