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過労死対策/対等な労使関係を機軸に【神戸新聞】

 過労などにより、脳や心臓の病気で倒れたり死亡したりして労災認定を受けた人は昨年度一年間で三百十七人おり、うち過労死は百六十人に上ることが、厚生労働省のまとめでわかった。前年度に比べ、二倍から三倍近い増加となった。

 認定数が増えた最大の要因は、一昨年十二月に認定基準が緩和されたことだ。

 新基準は、過労によるものかどうかの判定を発症前の一週間程度から六カ月まで拡大し、蓄積疲労による死亡も対象にした。直前の一カ月で百時間というふうに、残業時間との因果関係を具体的に示し、認定判断をしやすくした。

 病で倒れても、公的補償によって残された家族が救われる余地が広がったことは大きな前進である。

 だが、認定数が多いということは、それだけ倒れるまで働かされる職場環境が多く残されているということであり、その改善こそが急務であろう。

 兵庫県内の弁護士グループが今春、労働基準監督署に告発したケースは、その典型例といえる。

 急性心不全で死亡した被害者の男性は、朝礼のためいつも三十分早い出社を命じられ、帰宅は毎晩十一時すぎ。土曜出勤が常態化し、代休もなかった。週四十時間労働を超える六十六時間の勤務を強いられ、残業の割増賃金も支払われていなかった。

 厚労省の昨年末の集計によると、一社当たり百万円を超えるサービス残業は判明分だけで六百社、総額八十一億円に上る。

 過労死一一〇番全国ネットが行っている電話相談でも、過労死や自殺に悩む家族から、長時間の時間外勤務や不規則労働が引き金になったとする訴えが絶えない。

 厚労省は、サービス残業防止のため企業に時間管理の徹底を求める通達を出した。その浸透が急がれるが、あまり行き渡ったとは言い難い。

 長い不況による人減らしや個人の能力・成果を軸にした賃金制度の改変が、労働者を萎縮させ、サービス残業にも強く出れない要因となっているとの指摘がある。企業内の民主化が問われているといえよう。

 昨年度の精神障害による労災認定は百人の大台に達し、自殺認定が四十三人と過去最高になったことは、重大な警告として受け止める必要がある。リストラによる人減らしや配置換えなどに原因があるとすれば、精神面のケアなど広い意味での人事管理が問われる。

 労使が、対等で、風通しのいい関係を築く。問題の解決にはそれしかない。

2003/06/17