過労死対策 職場の点検を粘り強く【信濃毎日新聞】
働き過ぎから重病になったり、命を落とす人が後を絶たない。過労死の増加はいわば、今の産業社会が訴える“変調”のサインである。各職場で点検と改善が迫られる。
数字一つ一つが重い。厚生労働省の二〇〇二年度のまとめによると、過労が原因で脳・心臓疾患の労災認定を受けた人は三百十七人に及ぶ。前年度の二・二倍だ。
このうち過労死は二・八倍に急増し、百六十人である。残された家族のやりきれなさ、周囲にとっての痛恨はいかばかりかと思う。
過労から発症したうつ病などの精神障害や、未遂を含む自殺に関しても労災認定が増えている。
疲労の感じ方や蓄積には個人差がある。労災認定の基準が一昨年暮れに緩和され、発症の六カ月前までさかのぼって勤務実態を調べるようになったのは前進だ。今回、申請・認定とも大きく伸びた背景である。
大事な働き手を失えば家族は家計や精神面で途方に暮れてしまう。公的補償の安全網を広げるのはうなずける。一層の充実が求められる。
過労死問題を扱う弁護団はこの点で、労働時間が長くなくとも高い緊張感の続く仕事では労災を配慮するよう主張している。労働の「質」がさまざま変化する時代だけに、多角的に論議を深めたい。
いかに救済の道を整えても、肝心の職場環境が旧態依然ではまずい。現状は人件費の抑制、人員削減、成果主義の賃金制度導入といった経営方針が強まる中で、特定の部署に負担がかかりがちな側面を否めない。
今回の労災認定を見ると、業種別では運輸関係、卸・小売業、製造業の順に多い。職種別では管理職が最多、年代別では五十代と四十代が六割以上を占め、専ら男性だ。
生産拠点の海外移転、消費不振などを受け、企業の中間層が苦慮し、長時間や不規則な労働を余儀なくされている構図がうかがえる。
デフレ経済下でリストラの波はなお高い。自分の評価が下がらないかと気にするあまり、無理を承知で働く人が少なからずいる。いわゆるサービス残業がなくならない理由の一つである。
慢性的な疲労や体調不良を言い出しにくい雰囲気があるとしたら、回り回って生産力を低下させ、結局は企業の足を引っ張る。環境改善を急がなくてはならない。
過労で倒れる人のいる半面、職を失ったままの人は多い。人材活用のありようを見直すときである。
2003/06/14