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2006権利討論集会・第5分科会報告 弁護士 佐藤真奈美(民主法律266号・2006年7月)

弁護士 佐藤真奈美

第1 1日目
1 第5分科会の第1日目は,「職場におけるハラスメントをなくすために」というテーマで,報告・討論を行った。職場におけるハラスメントを巡っては,かねてからセクシュアル・ハラスメントの問題は指摘されているが,本分科会では,それに止まらず様々な形で問題となっているハラスメントについての報告・議論がされた。
 1日目の参加者は,労働組合,モラル・ハラスメント裁判の原告,過労死事件の遺族,弁護士等,のべ27名であった。

2 職場におけるモラル・ハラスメントの事例報告
 まず,モラル・ハラスメント裁判の事例報告がなされた。この裁判は,職場におけるモラル・ハラスメント被害を中心に,13名が損害賠償等を求め大阪地裁に提訴している事件である。弁護団(佐藤)より事件の概要・経過等について報告した後,原告の一人から,在職中のモラル・ハラスメントの実態や提訴に至った経緯などについて報告がなされた。原告からは,職場で常に脅えながらいなければならなかったことなど,被害実態についてリアルに話がなされた。
 次に,大阪労働相談センター事務局次長杉山悦男氏より,相談センターに寄せられた職場のいじめや嫌がらせ事例について報告をいただいた。報告によると,労働相談の中でも職場のいじめや嫌がらせについての相談が増えつつある模様であった。

3 職場におけるモラル・ハラスメントについての諸外国での法規制
 事例報告に引き続いて,滋賀大学の大和田敢太教授より,ヨーロッパを中心とした諸外国でのモラル・ハラスメント規制についてご説明いただいた。諸外国では,事例の積み重ねを経て,刑事罰を含め様々な法規制がなされており,このような流れを受けて,日本でも近い将来に同様の法制度が制定されるであろうとのことであった。

4 討論
 討論では,「モラル・ハラスメント」という言葉自体についてまだ聞き慣れず,どのような事実がモラル・ハラスメントとなるのかといった議論がなされた。また,まだ新しい問題であることから,相談手法や裁判例がまだ確立されておらず,相談を聞く側(組合など)の対応の難しさも指摘された。
 議論を通し,モラル・ハラスメントの問題性,解決の必要性について,もっと世間で認識されるようにしていくことの重要性が浮き彫りになったように思う。諸外国でも,事例の積み重ねにより法制度が整備されてきており,日本でも,埋もれているであろう被害を掘り起こし,解決を図っていくことが,労働者が健康に働き続ける上で重要になってくるといえよう。

5 各事件の事例報告
第一目の討論の最後に,各参加者が取り組んでいる事件についての報告・議論を行った。

第2 2日目
1 2日目は,アスベスト問題をテーマに,報告・討論が行われた。参加者は,のべ21名であった。

2 大阪じん肺アスベスト弁護団,泉南地域の石綿被害と市民の会からの報告
まず,大阪じん肺アスベスト弁護団の中平史弁護士,奥田慎吾弁護士より,パワーポイントを用いて,この間に泉南地域で行われたアスベスト被害の相談会の結果,労災申請の状況,2006年2月3日に成立した「アスベスト新法」の内容と問題点等について,報告がなされた。相談件数の多さ,被害の深刻さ,「アスベスト新法」の問題性などについて,新しい問題で馴染みの薄い参加者でもよく理解できる分かりやすい報告であった。
続いて,泉南地域の石綿被害と市民の会の世話人代表である柚岡一禎氏より,泉南地域のアスベスト被害の実態について,歴史経過もふまえたお話をいただいた。クボタのような大会社が存在する訳ではなく,被害者らの被害救済の困難性などについて詳しくお話をいただき,市民の会が結成されるに至った経緯についてもご説明いただいた。

3 討論
引き続いて討論が行われた。この間テレビで放映されたビデオも見ながら,既に建築された建物の多くにアスベストが使用されていること,その解体の際に周辺住民がアスベスト被害に遭うことも考えられることから,労災に止まらず「公害」として位置づけた被害救済が図られることの重要性などが指摘された。

第3 まとめ
 今回の第5分科会では,比較的新しい問題として指摘されているモラル・ハラスメントの問題と,新法制定などによりその救済が問題になると考えられるアスベスト被害の問題を,テーマとして採り上げた。このような問題についても,相談する側が迅速かつ適切に対応できるよう,様々な分野での協力・援助体制を整えていくことが重要だと感じた。 

(民主法律266号・2006年7月)

2006/07/01