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武富士事件続報 武富士が未払い残業代の全額を支払い謝罪! 弁護士 河村 学(民主法律時報369号・2003年2月)

弁護士 河 村 学

一、株式会社武富士において、意図的なサービス残業の強要が行われていたこと、これに対して武富士の元従業員二名が、二○○一年七月一○日、天満労働基準監督署に労働基準法違反の告発をなしたこと、この告発を受けて労働局が捜査をすすめ、二○○三年一月九日には武富士本社等に捜索・差押を行ったこと等については前号で報告した。今回はその続報として、同元従業員二名が武富士に対して提訴していた残業代等請求訴訟において、同年二月二○日、和解が成立したので報告する。

二、和解の中心的内容は、
 ①請求していた残業代等のほぼ満額の支払い、
 ②残業未払についての謝罪、
 ③適正な労働時間管理・賃金支払の宣言その他(公表できない内容もある)
である。 和解の水準としては、多少不満は残るが、当事者としてはそれなりに経済的満足を得たし、武富士がサービス残業を行っていたことを事実上認めた内容となっていることから、最終的に和解を行うこととなった。
 今回の和解で特に苦慮したのは、まず、武富士に対する刑事手続の進行への影響と、社会的反響の点である。弁護団としては、本事件をサービス残業をなくすための一つの画期となる重要な事件として位置づけてきたし、また、労働局の担当者もそのような意気込みで捜査を行ってきたと思うが、和解によりその流れに水を差すことにならないかという点を何度も議論した。 ただ、全面勝訴的和解を行って武富士にけじめをつけさせ、また、この結果を広範に知らせることによって、他の大企業を含む使用者に、残業をサービスで行わせることができる時代が終わったことを理解させる意味で重要であろうとの判断もあり、和解に踏み切った。もちろん、本和解は、刑事手続とは全く別に民事上の問題解決として行われたものであり、弁護団は引き続き武富士の刑事処罰を求めていくし、労働局への働きかけも強めるつもりである(武富士側からは、和解条項を詰める際に、まず元従業員らの告訴取下げを要求し、最終盤になると「宥恕」という言葉を入れることも要求してきたが、いずれも拒否した)。

三、もう一つの問題は、残業時間の立証という民事裁判上の問題である。前号でも書いたとおり、残業時間の立証について、裁判所は、日々の就労時間の個別の立証を求めている。しかし、タイムカード等での労働時間管理が適正に行われていない企業において、労働者側がこのような立証を完全に行うことはまず不可能といってよい。武富士もそのような企業の一つであり、恒常的にサービス残業を行わせておきながら、本社から残業時間を指定し、各従業員自ら出勤簿にその指定時間を記入させるという手の込んだことを行ってきたのである。そこで、どうしても判決までいったときのリスクを考慮せざるを得ず、この点も今回の和解に大きく影響している。
 しかしながら、この点での裁判所の態度はどう考えてもおかしいと思う。適正な時間管理をせず犯罪行為の隠蔽をうまくやっている企業の方が、仮にその犯罪が発覚した場合にも、民事上は得をするという結果を追認することになるからだ。適正な時間管理を行っていなかったことのリスクは企業が負担すべきであり、少なくとも実際の労働時間についての蓋然的な立証を労働者側で行うことができた場合には、日々の就労時間についてより短かったことを使用者が立証する責任を負うと解すべきであると思われる。
 本事件は証拠関係的にもおもしろい事案だったので、個人的には判決をとりたい気持ちがあり、この点は心残りである。

四、本和解の影響は大きく、武富士は他の従業員に対する残業代未払分の支払いについても前向きな姿勢を見せつつある(但しその徹底という点で問題が残る可能性も含んでいる)。元従業員二名の問題提起が、武富士を動かし、社会を動かしつつあるように思える。
            (弁護団 松本七哉、杉島幸生、河村学)
( 民主法律時報)

2003/02/01