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過労死新認定基準の不十分さを問う 労災不支給決定取消訴訟提起  ― ガス管溶接工為実事件 弁護士 有村とく子(民主法律時報365号・2002年10月)

弁護士 有村とく子

  1. 1.事件概要
     事件の概要については、民主法律時報 号においても、報告したとおりですので、簡単にご紹介します。
    被災者の為実茂夫氏は、大阪市内の建設会社において、ガス管溶接の仕事をしていましたが、阪神大震災の後、ガス管取り替え工事で仕事が急増し多忙を極めるようになりました。ガス管は道路に埋設されているため、工事は夜間になされることが多く、また、通行止めの期間を最短にするために、昼夜の連続工事も多く、昼夜昼という三連勤となることもありました。勤務日程は、工程の進捗状況や天候に左右され、休みの予定がしょっちゅう変更になったり、連続勤務が多い上に予定の変更が多く、勤務は大変不規則な状態でした。作業そのものも、ガス漏れがあってはいけないという緊張感にくわえて、溶接に高圧の電気を使うため感電の危険があり、溶接面を研磨するために使用するグラインダーで怪我をする危険や、地中作業で苦しい姿勢の中作業をするという負担なども重なって、作業はきわめて過重なものでありました。
    そうした負担が蓄積する中、グラインダー作業で飛散した鉄粉が眼に入る怪我を負い、痛みのために睡眠不足のまま、勤務についたところ、現場で脳梗塞を発症し、数日後に亡くなられたという事案です。
  2. 2.事件経過
     本件については、平成一〇年六月、会社を相手とした民事賠償訴訟と労災申請を同時に行いました。
    労災の関係では、大阪中央労働基準監督署が平成一二年三月、業務外として不支給決定をしたため、審査請求をしました。その後、平成一三年一二月にご承知のとおり、過労死の認定基準が変わりましたが、大阪労働局審査官は、平成一四年三月、審査請求を棄却しました。
    民事訴訟の関係では、大阪地方裁判所第一五民事部が、脳梗塞発症と過重な業務との因果関係を認め、会社に一定の賠償を命じました。但し、会社側は私病によるものとして控訴し、当方も寄与度ないし過失による減額割合が大きかったために、控訴し、現在控訴審継続中であります。
    このように、労災では業務と脳梗塞発症との因果関係が否定され、民事訴訟では肯定されるという異なる結論が出されたわけです。
    そこで、労災については、不支給処分の取り消しを求め、平成一四年一〇月九日、大阪地方裁判所に取り消し訴訟を提起しました。
  3. 3.労災における判断の問題点
     このように、行政判断と裁判所の判決とで結論が食い違った最大の理由は、民事訴訟においては、被災者為実さんの業務の過重性について、時間外労働の時間数だけに拘泥せず、作業そのものの過重性、夜勤が多いこと、勤務が不規則であること、連続勤務が多かったことなど、以前と発症前の繁忙時との勤務時間の比較などを行い、実質的に過重性を判断したのに対し、労災においては、時間外労働の総量を単純に評価し、認定基準に達しないとして、極めて形式的に判断した点にあると言えるでしょう。
    新認定基準が打ち出されたことによって、確かに、過労死事案について救済の幅が広がると共に、より客観的な基準が示されることで、理解しやすくなった面はあります。それは評価すべき点ではありますが、本件のように、実質的に見れば、過重な業務と脳梗塞発症との因果関係が認められてしかるべきであるにもかかわらず、形式的な基準に縛られ、救済の枠から不当に除外されてしまうという事例が起こってくるという重大な問題点が、本件によって、浮き彫りになったと言えると思います。
    本件行政訴訟は、まさに、この新認定基準の不十分さを問う訴訟と言えるものであり、何としても勝訴判決を勝ち取らねばならないと考えています。
(弁護団は、岩城穣、原野早知子、村瀬謙一、有村とく子)
(民主法律時報365号・2002年10月)

 

2002/10/01