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過労自殺認定事例報告 弁護士 伴城 宏(民主法律251号・2002年8月)

弁護士 伴城 宏

 本件については、平成12年11月の過労死110番にて、被災者の遺族(妻)から相談を受けた。
 被災者は、大手繊維・化成品メーカー(正確には関連会社に出向中)の主任(被災時39歳)で、工場向け設備の設計・監理に携わっていた。被災者は、前任者が行方不明を起こして異動になったプロジェクトを引き継ぎ、そのプロジェクトのグループ長になった。被災者は初めてプロジェクトの責任者になったこと、当該プロジェクトが被災者の能力を超えていたことから、その重圧に苦しむようになり、直属の上司が遠方に居て相談もままならなかったこともあって、精神的に思い悩むようになった。被災者の妻の証言によれば、勤務時間は、平日は朝7時30分に家を出てほぼ毎日12時頃の帰宅であり、土日についても必ずどちらか一日は出勤している状態で、明らかな長時間労働であった。被災者は、被災の約3ヶ月前からうつ状態に陥ることが多くなり、会社に出勤せずに出奔したものの、翌日、家族の説得もあって戻ってくることがあった。そのころから被災者は、会社に対しグループ長やプロジェクトの担当を外すよう、要望を出すようになった。被災の直前の約1ヶ月間、被災者は私病にて入院したが、退院後はすぐに長時間勤務に陥り、精神的にも追いつめられるようになり、会社内にて自殺するに至った。

 被災者の妻は、自ら労災申請を行い、上記過労死110番の相談の後も、弁護士に委任するかについて悩んでいたが、相談を受けた三木弁護士のフォローもあって、松丸、三木、伴城弁護士の3名にて受任することとなった。本件は、被災者の妻からの事情聴取では長時間労働が認められたものの、労働時間についてはタイムカード等はなく、残業時間も自主申告であったため、客観的な資料が乏しかった。このため、会社に要求して資料の提出を受け、その資料を分析した上で、会社の建物最終退場者リスト、被災者のメールの送信日時、被災者の同僚の退勤時間、被災者の業務内容等から、被災者が相当の長時間労働を余儀なくされていたこと、また、その長時間労働が客観的資料からも裏付けられることを述べた意見書を提出した。そして、労基署側に業務日報、メールの全送受信記録の取り寄せ、同僚の退勤時間の調査、同僚から事情聴取等、更なる調査を要求した。
 当初、労基署は、近日中に医療協議会に意見を求める予定であり、話の様子からは労災認定に対して積極的な様子が見受けられなかったが、意見書の提出を受けて再調査を行った模様である。その結果、平成14年6月、過労自殺の認定を勝ち取るに至った。

 認定の根拠として労基署が最も重視したのは、長時間労働とのことであり、やはり過労死事件においては労働時間の把握が最重要であることを再認識させられた事件であった。本件は、タイムカードなどの客観的資料がなかったものの、最終退場者のリストに頻繁に被災者及び被災者の同僚の名前が見受けられ、時間もほとんどが午後11時以降であったこと、被災者のメールも深夜に送信されており、また、早朝出かける前に自宅のパソコンから書類を添付ファイルで送信しているなど、自宅での仕事も相当程度裏付けられたこと等が、認定の大きな根拠になったと考える。
 (弁護団 松丸 正、三木憲明、判城 宏)
(民主法律251号・2002年8月)

2002/08/01