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「過労死」初の刑事裁判--土川事件 弁護士 田中俊(民主法律時報338号・2000年8月)

弁護士 田中 俊

 土川過労死事件とは、広告宣伝紙編集会社(いわゆる編集プロダクションと呼ばれる会社)ジアースに勤めていた二三歳の女性デザイナーの土川由子さんが、一九九八年四月七日、過労死した事件について、右会社とその社長に対し、深夜労働や休日出勤などによる過重労働が死亡の原因として、会社及び社長の安全配慮義務違反等を理由に総額約一億円の損害賠償請求を求めて、現在大阪地方裁判所で争っている事件です(弁護団-松丸正・岩城穣・岡本満喜子・田中俊)。詳しくは民法協第四四回総会特集号(民主法律二三八号)を見てください。

 土川過労死事件は、若い女性社員が亡くなったこと、業種の特殊性などから、広くマスコミからも関心を集め、提訴(由子さんの命日である一九九九年四月七日)にあたっては新聞・テレビ等が大きく報道しました。その報道を受けて、天満労働基準監督署がジアースを内偵し、一九九九年一〇月七日、大阪地方検察庁に書類送検しました。容疑は、労働基準法に違反して、労使間協定を結ばずに、土川由子さんと同じ女性デザイナーのSさんを一九九七年一月から三月までの間に四八日について合計約一二〇時間の時間外労働をさせ、三週間休日を与えずに働かせたこと及び労働安全衛生法に違反して、土川由子さんとSさんに対する健康診断を実施していなかったことです。なお、会社は、時間外・休日・深夜労働については、全く残業手当を支払っていませんでした。また、健康診断については、土川由子さんが、死亡する四カ月前に直接社長に対し、健康診断をして欲しいと直訴したのにも関わらず、実施されませんでした。

 この事件では、二〇〇〇年一月に略式手続きによって、ジアースと社長に対し、それぞれ罰金四〇万円が言い渡されたのですが、ジアースと社長は、正式裁判を請求し、過労死に関連した事件としては異例の公判が、二〇〇〇年四月一八日、大阪簡易裁判所で開かれました。しかし、簡裁では「内容に複雑な点があり、簡裁よりも地裁での審理が相当」として、大阪地方裁判所に移送されました。

 八月二日、ジアース社長に対し被告人質問が行なわれました。起訴事実及び冒頭陳述には、土川由子さんの死亡の事実には全く触れられてなかったのですが、被告人質問では、土川さんの死亡について触れられ、土川由子さんに健康診断を受けさせなかったことについて、かなりの時間を割いて主尋問及び反対尋問がなされました。  その中で、ジアース社長は、健康診断については、やろうと思ってはいたこと、またやってなかったのは二年間であり、それ以前はやっていたと弁解に終始しました。また、残業についても、フレックス制、年棒制をとっているので、問題は無いと思っていたと証言しました。結局、最後まで率直な反省の言葉は聞けず、かえって、本裁判を申し立てた理由は、この業界の特殊性を考慮してほしかったからだと開き直りました。

 八月九日、判決公判が開かれ、求刑どおり、会社と社長に対し、それぞれ罰金四〇万円が言い渡されました。その中で、上垣猛裁判官は、「法規を守らなかったことを真に反省しているかは疑問で、刑事責任は軽視できない。」と指摘しました。なお、この裁判の結果については、テレビ、新聞も大きく報道し、この事件に関するマスコミの関心の高さを物語っていました。

 この結果について、民事の弁護団団長の松丸弁護士は、「結果として労基署が、積極的に動き、刑事でも会社及び経営者が弾劾されたことは、評価しうる。しかし、できるならば、過労死事件における刑事責任についても、労基署ではなく遺族及び弁護士の方から、追求するようにしていくのが、今後の課題である。」と言っています。  なお、弁護団としては、刑事記録を取り寄せて、民事のほうでも書証として提出する予定です。
                      (なお、土川過労死事件のホームページは、こちらです。)

(「民主法律時報」No.339より転載)

2000/08/01