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「過労自殺救済元年」過労死110番報告 弁護士 下川和男(民主法律時報338号・2000年7月)

弁護士 下川 和男

 毎年父の日の前日に開催している過労死一一〇番、今年も六月一七日(土)午前一〇時から午後三時まで「過労死・過労自殺一一〇番」として民法協事務所で開催された。
 昨年七月労働省が自殺に関する判断指針を示して以降今年に入って、電通事件(大島事件)の最高裁判決(三月二四日、判例時報一七〇七号、是非一読をおすすめします。)、広島オタフクソース(木谷事件)の第一審判決があり、いずれも過労自殺についての企業責任を認めるものでした。また労基署・審査官段階では「業務外」とされていた川崎製鉄水島製鉄所(渡邊事件)、日立造船(下中事件)が労働保険審査会において「業務上」との認定がありました。マスコミの関心も高く、判決などいずれも一面で大きく報道されました。
 これまで、自殺については労災による救済の扉がなかなか開かなかったのですが、ここにきて大きく前進を見ています。大阪過労死問題連絡会の松丸正弁護士は、二〇〇〇年は「過労自殺救済元年」と位置づけようと発言しています。

新人ガイダンス
 大阪過労死問題連絡会では、三年前から弁護士登録したての弁護士を対象として、「新人ガイダンス」を開催するようになりました。今年も五月九日、大阪弁護士会において行いました。労災申請手続きなどの一般的な準備をはじめ、過労死・過労自殺相談をどうやるのかなどについて、松丸正弁護士、岩城穣弁護士、大橋恭子弁護士が熱っぽく語られました。五二期の弁護士だけでなく、五一期・五〇期からの参加もあり、過労死・過労自殺事件に取り組む弁護士の広がりを感じました。すでに、五二期の人も一一〇番の相談を経験され、また具体的事件を担当してもらっています。

過労自殺シンポジウム
 六月一四日、大阪弁護士会六階で行われました。電通事件の代理人川人博弁護士、川鉄渡邊事件の代理人清水善郎弁護士、遺族の渡邊さん、広島オタフクソース事件の遺族木谷さんをパネラーとして、過労自殺の企業責任についてパネルディスカッションが行われました。会場は九〇名を超える参加者でいっぱいになり(会場は六階の半分を使用)、この問題の関心の高さを感じさせました。

過労死・過労自殺一一○番
 相談を受ける弁護士の側でも過労自殺救済元年と位置づけ、過労死・過労自殺事件を取り組む弁護士の広がりを見せる中、一方過労自殺の労災認定及び企業責任を認める報道を受け、今年の一一〇番は昨年とはまた違った雰囲気であった。
 午前一〇時から午後三時までの相談件数は、三七件で、そのうち労災補償相談が一七件(そのうち死亡案件が一五件、死亡案件のうち自殺によるものは九件)、働き過ぎ予防相談が一五件、その他が五件でした。全国的に見ると、相談件数は二〇六件、そのうち労災補償相談が八九件(そのうち死亡案件が六九件、死亡案件のうち自殺によるものは三五件)で、自殺事件についての相談は大阪が一番多かった。  昨年の一一〇番でも、自殺案件の相談はあったが、相談者が今後どうしたいかについて不明であるケースも多く電話相談だけで終わってしまうことが多かった。しかし今年の場合、「労災申請したい」「会社の責任を追及したい」とはっきりとした意思表示が見られ、すでに一一〇番で相談のあった案件については、複数の弁護士が労災申請及び企業責任追及に向けて準備を始めている。
 自殺だけでなく、脳・心臓疾患などによる死亡のケースの相談もあり、長時間労働は一向になくなっていないという印象を受けた。  電話相談の内容をいくつか紹介する。
・自殺、車両機器メーカー、二八歳、月の残業が七〇時間
・自殺、損保会社(損害調査担当)、三〇歳、夜一〇時まで残業
・自殺、五三歳、電力会社・システム担当として二〇〇〇年問題に対応
・自殺、薬剤師、院外薬局となって急激に仕事が増える
・自殺、建設現場責任者、二四歳。 ・くも膜下出血、営業所統廃合の担当、各地の営業所へ出張が多い
・心筋梗塞、タクシー運転手 ・脳梗塞 建設現場 ・心臓疾患、乗馬クラブの営業担当

(「民主法律時報」No.338より転載) 

2000/07/01