過労自殺シンポジュウム報告 弁護士 大橋恭子(民主法律時報332号・2000年1月)
弁護士 大橋 恭子
去る、11月18日、弁護士会館にて、過労自殺シンポジュウムが開催された。
案内が遅れたため、どの程度の人に集まってもらえるか心配していたのだが、会場が丁度埋まる35人程の方に参加いただいた。
家族の会の方をはじめ、連絡会の弁護士、連絡会の弁護士に依顧をされている遺族の方、マスコミ関係者、中には、新聞記事を見て、初めて参加して下さった方も数名おられ、このテーマに対する関心の高さを実感した。
今秋、労働省が過労自殺の認定基準を発表したことに併せてのシンポジュウムだったことから、まずは、角野とく子弁護士に新認定基準について解説をしていただいた。
松丸正弁護士による補充コメントの後、下中事件、寺西事件について、遺族の方からの事件紹介が続いた。
下中事件の概要は、京都の大手造船会社のエンジニアが、厳しい納期の中で、新技術開発の責任をほぼ一人で背おい、長時間勤務を続けられた結果死亡された事案で、当日は、娘さんが、報告をされた。
事実経緯について、正確に「事実」を伝えるという姿勢で、淡々と話しをされていた娘さんが、会社側の人間が、労基署対して、明らかに虚偽の事実を伝え、また、労基署もその内容を鵜呑みにした結果、労災ではないとの判断となってしまったことについて、語気をすこし強めて、非難されたのほ印象的であった。
会社というのは、組織防衛のために「嘘」までつくのか、そのことが更に、遺族を傷つけ、いわば二次的被害を起こしていることに、あらためて、強い怒りを感じざる得なかった。
寺西事件の概要は、飲食店の店長が、経営者から、業績アップについて、日々、プレッシャーを与えられ、その要請に応ずるべく、長時間勤務を続けた結果亡くなられた事案で、奥さんがお話をされた。
会社が、大切な家族を失い、その事実だけでも心に大きな傷をおった遺族に、容赦ない対応をしたことが報告され、この種のケースに共通する問題の根深さを感じた。
その後、会場から、新認定基準への質問や、既に、事件を弁護士に依頼されている方が、事案の紹介をされた。また、これから相談しようとされている遺族の方の、事案紹介もあった。
このように、シンポジュウムの後半で遺族の方のお話が続く中、会場全体がある種の一体惑に近いものに包まれた感じがした。
亡くなられた方の、職業や、年齢、それまでの経緯は、当然、事案ごとに違うものの、残された遺族の、受けた心の傷、抱えるつらさに共通する部分があるからなのであろう。
シンポジュウムにおいての遺族の方の交流の場という意味合いの大きさを実感した。
今後も、シンポジュウム開催に関わってゆきたいと考えている。
(民主法律時報332号・2000年1月)
2000/01/01