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ゼネコン部長の自殺についての業務上請求と団体定期保険金請求 弁護士 松丸 正(民主法律233号・1998年2月)

弁護士 松丸 正

1 事件概要
 大阪市内の中堅ゼネコン会社の部長が、95年7月に49才で自殺した。
 この社員は阪神大震災後、被災地の再開発業務の担当責 任者となり、休日も殆どとることもなく、連日深夜に及ぶ被災地での業務に従事していた。
 95年5月に自宅で自殺を図ったが未遂となり、入院後再び勤務に戻ったか、同年7月に業務をしていた現地事務所の近くにある神戸市内の阪神電車踏切から電車にとびこんで自殺している。

2 労災請求
 右自殺は業務上として、97年5月に大阪西労基署長に対し、遺族補償給付の請求を遺族(妻)がしている。
 ① 従前の業務(設計等)と全く異なる被災地での開発業務への従事によるストレス
② 休みも少なく連日夜遅くまでの過重労働によるストレス
③ 被災地の住民の要求と会社としての任務の矛盾
④ 課長から部長に昇進したことの責任の竜みと、それを サポートする体制かないことによるストレスから、心因反応を発症したものと位置づけている。

3 団体定期保険の請求
 右労災請求の準備をするなかで、会社がAグループの団体定期保険金計3695万円を受領していることが判明した。これについては調停申立をしたが、会社は一切支払いに応じなかったため、4に述べる保険金請求と同時に提訴している。

4 契約後1年以内の自殺についての保険金請求
会社は右自殺の1年以内に計1700万円のAグループの団体定期保険に加入(あるいは増額)していたが、契約1年以内の自殺として保険金は会社に支払われていない。
 商法680条1項2号並びに保険約款は、契約日から1年以内に被保険者が自殺したときは保険金を支払わないと定めている。
 しかし、商法法並びに右約款における自殺とは、被保険者が故意をもって自らその生命を絶つ場合のみを指すものであり、精神病その他の原因により、精神障害中の動作によって自己の生命を絶つような場合はこれに該当せず、判例もその立場をとっている。
 本件の自殺は、業務上のストレスによる心因反応の1つの症状としてなされたものであり、精神障害中の動作によって自己の生命を絶ったものに該るものである。従って、保険支払いの免責事由に該当せず、生命保険会社には支払義務あるとして、保険会社、並びに会社に対し保険金請求権の確認訴訟を3の提訴と同時に97年10月15日大阪地方裁判所に提訴した。

5 補足
  自殺の遺族は、社会的な偏見も根強いこともあって、その事実を隠そうと息をひそめて生活している現状がある。
 夫の死が仕事のためとの確信があっても、かつての過労死の遺族でも同様だったように、労災請求という一歩を踏み出すことにためらっている。
  労働省の認定基準を被災者遺族の救済の方向(別紙過労死弁護団意見書参照)で早期に定めるとともに、遺族がその一歩を踏み出せるよう、仕事と自殺についての社会的な認識を広めていくことが望まれよう。
  なお、本件の弁護団は村田浩治弁護士と私である。
(民主法律233号・2000年2月)

1998/02/01