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「自殺過労死110番」に40件もの相談寄せられる 弁護士 岩城 穣(民主法律時報306号・1997年11月)

弁護士 岩城 穣

1 去る10月18日、過労死弁護団全国連絡会議の主催による「自殺過労死110番」の電話相談が、全国13都道府県で一斉に行なわれました。これは、9月26日に出された電通事件の高裁判決を受けて行なわれたものです。
 自殺過労死110番は、電通事件一審判決直後の96年4月9日に第1回が行なわれたのに次いで、今回で2回目となります。
 電通事件とは、電通の24歳の青年社員が入社後1年5ケ月で自殺した社員(当時24歳)の両親が、会社に対し、社員が長時間労働を強いられたためにうつ病に陥り、その結果自殺に追い込まれたとして損害賠償請求した事案で、東京地裁は96年3月29日、社員の長時間労働による過労と自殺の間に相当因果関係と会社の安全配慮義務違反を認め、過失相殺なしの総額1億2600万円の損害賠償を会社に命じたましが、会社側が控訴。東京高裁は3割の過失相殺を行ったものの、相当因果関係を認め、総額8900万円の損害賠償を認容したものです。

二 大阪では大阪過労死問題連絡会の弁護士7名で相談を受けました(その他修習生、家族の会の事務局の人も参加)。
 大阪では松丸弁護士の紹介した事件(過労自殺で団体定期保険金請求、10月15日提訴)が直前に大きく報道されたこともあって関心は高く、当日の朝にテレビ3社が来て取材し、昼のニュースで紹介され、午前10時から午後3時までの相談受付時間中に42件(東京への報告は集計締切りの関係で35件)もの相談が寄せられ、全国では141件に達しました。
 内訳は、自殺が11件(死亡7件、未遂2件、予防2件)(全国59件)、過労死15件(死亡3件、障害3件、予防9件)、その他が9件でした。

三 大阪での特徴的な相談事案としては、次のようなものがありました。
・上場メーカー課長。かねてから上司に不正経理を指示され、転勤願いを出したが受け入れられず、職場で首つり自殺。
・大手企業新人社員。会社の慰安旅行の余興で屈辱的な出し物を強要されることを知り、それを苦に飛び降り自殺未遂。足を骨折し、入院1ケ月。結局自己都合退職に。
・メーカー勤務。上司や同僚が辞めて、仕事がすべて自分に回ってきた。「自分が行かなければ仕事にならない」と休日返上。過労がつのり、入水自殺。
・私鉄技術士。阪神大震災後半年で自殺。交通関係の技術者。労災申請中だが1年以上結論が出ていない。
・上場企業経理担当。上司の使い込みの隠ぺい工作を命じられ、思い悩んだ末に自殺。

四 自殺過労死は、相当数発生していると推測されるものの、通常の過労死の事案に比べて、遺族が周囲の人々から責められたり、社会的に隠しておきたいという複雑な気持ちがあり、労災申請に踏み切ることが難しいという特徴があります。また、前記の電通事件判決や神戸製鋼所事件判決(入社した年の12月にインドに2ケ月の出張を命じられた社員(当時24歳)が、ストレスによりうつ病ないしうつ状態になり、赴任から1ケ月半後に宿泊していたホテルの自室窓から投身自殺した事案で、神戸地裁は96年4月26日、加古川労基署長の不支給決定を取り消した)によって展望が切り開かれつつあるものの、まだ脳・心臓の認定基準に相当する明確な認定基準が設けられておらず、これまで業務上認定例はごくわずかしかありません。
 今後、粘り強い労災申請の取り組みや労働者の立場にたった認定基準の制定を求める運動が強く求められます。
(民主法律時報306号・1997年11月)

1997/11/01