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「団体定期保険110番」に相談が殺到 弁護士 岩城 穣(民主法律時報297号・1996年12月)

弁護士 岩城 穣

1 11月15日、過労死弁護団全国連絡会議は、全国17ケ所で「団体定期保険110番」電話相談を行った。事前のマスコミ報道のほか、前日にニュースステーションが取り上けたこともあって、全国で電話か殺到した。大阪では過労死問題連絡会が2本の専用回線で行ったところ、午前10時の開始前から電話が鳴りやまず、1日で相談件数は122件に達した(うち団体定期保険の問題が85件、過労死・労災関係が10件、その他が18件)。恐らくこの数倍は掛かっていたが繋からなかったと思われる。相談内容は、例えば「会社は4800万円も受け取っているのに、死亡退職金はわずか430万円だった」「会社に死亡診断書を数通提出させられ、保険金が会社に支払われたようだが、保険会社も保険金額も教えてもらえない」など、深刻な実態が明らかになった。

2 この結果を受け、連絡会は、この間題についての説明会を行うことにし、電話相談してきた人々に再度案内も出して、改めて12月11日午後4時から6時まで、「たかつガーデン」で「団体提起保険についての説明会」を開催した。
 当日は約40名が参加し、この問題を早くから取り上げてきた名古屋の水野幹男弁護士と、現在裁判を行っている当事者の方にお話をしてもらったうえで、活発な質疑応答がなされた。その後希望者には個別相談も行った。

3 団体定期保険には「Aグループ保険」と「Bグループ保険」と言われるものがあるが、主として問題となっているのは「Aグループ保険」である。これは、会社等の法人が役員や従業員を被保険者として保険会社と契約を結び、被保険者が死亡すると法人に保険金が支払われるというもので、現在4杜のうち3社はこの保険に加入していると言われている。
 生命保険の大原則として、被保険者の同意が商法の大原則であるが(商法674条1項本文)、この団体定期保険の場合、労働協約や就業規則・社内規定、口頭による説明、労働組合や従業員代表に対する通知などがあれば 「同意」 があったというルーズな扱いがされており、被保険者である労働者は加入の有無や保険金額さえ知らない場合か多い。そして保険金請求には被保険者の死亡診断書が必要であるが、会社は適当な理由をつけて遺族から交付させたり、遺族の同意があると嘘を言って病院から交付を受けたりして、多額の保険金を受け取っている実態があるのである。

4 この間題は前述の水野幹男弁護士が、過労死の労災訴訟に取り組む中で明らかになってきたもので、同弁護士が数年前から問題提起し続けてきたものである。会社が受け取った保険金を遺族か引渡し請求できる根拠については、様々な理論構成が試みられているか、いずれにせよ会社が保険金を丸取りすることの社会的な不当性は明らかであり、企業の「過労死太り」が許されて良いはずはない。本年4月26日には、青森地裁弘前支部で初めて遺族への全額支給を命じる判決が出ており(判例時報1571号132頁)、和解や調停で解決する例も多く出てきている。
  大阪過労死問題連絡会では、今後この問題を重要な柱として位置づけ、調査や会社との交渉、調停、訴訟などを槍極的に行っていく予定である。
(民主法律時報297号・1996年12月)

1996/12/01