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1996年権利討論集会 第2分科会「いのちと健康を守るために」の報告 弁護士 岩城 穣(民主法律時報291号・1996年3月)

弁護士 岩城 穣

1 この分科会は、例年は1日目に過労死労災認定闘争を中心とした交流、2日目は健康・安全問題を取り上げてきたが、今回はやや趣向を変えて、1日目は、模擬裁判の形式で、長時間労働、長時間組合活動と家庭責任について問題提起を行い、参加者全員が陪審員として意見交換をする企画を行った。
〔模擬裁判の設定〕
 夫は月に60時間以上も残業するうえ、組合の執行委員を務め、平日の帰宅は深夜になる。土日も外出が多く、家事や子育てをほとんど手伝わない。不規則な食事と運動不足のために、コレステロール値が高い、心電図異常などの健康障害が見られる。一方、妻は、パートの仕事と家事・育児に追われながら、夫の健康を心配し、十分な休息や精密検査の受診を求めてきたが、夫は多忙や組合活動の意義を主張してこれに応じようとしない。
 そこで、妻は、自ら原告となり、夫を被告として、「残業及び組合活動の停止、精密検査の受診」を求めて提訴した。
 原告代理人による訴状の要旨説明の後、被告本人、原告本人の尋問、その後証人尋問が行われた。
 北口証人は、化学一般での活動の作風や自らの工夫の紹介も交えつつ、「請負的活動になってはいないか。家庭に対する夫として、父としての責任を果たしているか」と問いかけた。また、赤津弁護士の扮する原告本人の訴えは極めて切実で、参加者の心に迫るものがあった。
 その後陪審員(参加者)らが、それぞれ意見表明。特に現実に夫を過労で失った遺族たちは、「夫のことを心配していたが、会社には夫自身も家族も勝てなかった。組合活動の大切さはわかるが、家族に支援される組合活動になってほしい」などと切々と訴えた。
 また労働組合の参加者からは、「自分は再婚だが、最初の妻を亡くしてから考え方が変わった。用事がないときはすぐに帰るようにするなど、気持ちの持ち方が大きい。最終的には家族あっての自分であり、何のために生きているのかという大きな問題につながっている」「組合活動については、『オレがやらないと』という気負いを少し抑え、思い切って他の人に任せ、その人のやり方に不満があっても文句を言わないなどの心掛けが必要だ」などの率直な意見も述べられた。
 最後に、討論のまとめを兼ねて、森岡孝二教授が証人席についたが、森岡証人は、自らの家庭に対する反省も述べながら、残業時間の上限規制の必要性、家事労働を含めると女性も長時間労働になっていること、男女の賃金格差が経済的にも意識の上でも性別役割分担を固定していることなどの指摘とその改革の必要性が述べられた。
 現実に過労で夫を失った遺族を交えて働き過ぎと家庭を考える、組合活動という異質でデリケートな問題もあわせて取り上げる、という点で、不安もあったが、参加者全員から、予想以上に活発で率直な意見が述べられ、まずまずの成功であったと思う。

2 2日目は、過労死労災認定闘争の交流を中心に行った。
 最初に、この1年間の全国及び大阪における労災認定と行政訴訟、企業責任追及の闘いの到達点について報告がなされた。特に労災認定闘争では、新認定基準が施行された昨年2月から12月までの10ケ月間で、ここ数年間の2倍以上にあたる63件が労基署で業務上認定がなされたこと、審査官段階でも、同じ期間に18件もの逆転業務上認定がなされたこと、特に大阪ではこの間労基署・審査官を含めて10件の勝利を勝ち取ったことが報告された。また、労働省が認定件数をこの間増やしてきているのは、この間の驚異的な行政訴訟での敗訴率(例えば95年1年間で全国の地・高裁で16件中6件)の前で、行政訴訟になれば敗訴する可能性の高い事案は行改段階で業務上認定しておくという、裁判対策の面もあることなどが指摘された。
 続いて、昨秋から年末にかけて立て続けに業務上認定を勝ち取った亀井、中辻、田村、江国、翁長、Kの各事件について、報告とるお礼が述べられた。また、現在審査請求中の事件について、報告、労災申請をした動機と闘う決意、支援の訴えがなされた。
  最後に、全港湾阪神支部の参加者から、健康保険法48条の傷病手当金制度の不都合性について、問題提起がなされた。

3 参加者は、1日目約25名、2日目約18名。例年に比べてやや少なかったが、参加者のご協力により、所期の目的は達成できたのではないかと思っている。
(民主法律時報291号・1996年3月)

1996/03/01