過労死問題について知る

HOME > 過労死問題について知る > 勝利事例・取り組み等の紹介 > 権利討論集会第6分科会報告 入間らしく働くために~空洞化する労基法と職場の実態 ...

権利討論集会第6分科会報告 入間らしく働くために~空洞化する労基法と職場の実態 弁護士 松丸 正(民主法律217号・1993年7月)

弁護士 松丸 正

一、人間らしく働くためにをキーワードにして
  労働時間の問題は、労働者の心身、家庭、文化にかかわるとともに、労働者が主権者として、社会的政治的活動にかかわるための条件であり、「人間らしく働く」ことの中心にすえられるべき課題と言えよう。
  第六分科会では労基法改正問題、時間短縮問題、過労死問題を「人間らしく働くために」をキーワードとして議論した。

ニ、労基法改正問題―変形労働時間による「時短」の帳尻合わせ
  第1点の労基法改正問題については、青木弁護士より報告があった。
 最大の争点は、最長一年までの変形労働時間制の拡大である。労働者にとっては労働時間問題を考えるとき、月とか1シーズンとか一年とかの単位での労働時間の視点よりも、まず第一に優先さるべきは日々の労働時間である。「八時間は労働に、八時間は休息に、あとの八時間はわれわれの自由のために」の古いメーデーのスローガンは今でも輝きを失っていない。
 変形労働時間制は、使用者の季節、時期ごとによる業務の繁閑という理由により、労働者の日々、そして週毎の生活を分断してしまうものであろう。年間総労働時間の短縮の帳尻をあわせるため、一方では労働者の生活の質の豊かさを失わせ、一方では残業手当の支払いを使用者が免れるための制度で、明確で具体的な歯どめもないままにこのような制度を導入することは、労働者により一層の長時間労働を強いるものと報告かあった。
 第二には、現行の裁量労働制につき、対象業務の拡大やその他の業務への許可制による導入を提言している点についての指摘かあった。
 裁量労働制の下では、実際に働いた時間に応じた賃金は支払われず、サービス残業の温床になっていると言っても過言ではない。裁量労働制をより厳格に運用することこそ求められるにもかかわらず、その拡大をはかることは時間短縮という目的に反するものであり、さらには、完全年俸制への布石ともなることか指摘された。
 第三には、現行の二五%という低率のため、使用者にとっては残業によった雇用弾力性をはかる魅力となっている割増率につき、抜本的な改正はなく法定休日について五〇%の引上げを提案するのみで、残業削減のための真摯な努力がみられない点てある。
 この報告を受けたのち、討論に入った。

三、現場からの報告-時短がサービス残業を生み出す構造
  国労からは、JRか貨物列車乗務員の待ちあわせ時間を労働時聞から除外するという提案をして労働実態はほとんど変わらないにもかかわらず、右除外によって年間総労働時間を三〇〇時間余短縮したと述べ、二I世紀まで世間に耐えうる時間短縮をしたと公言しているとのことであった。
  また、乗務の間に長い場合は五時間もの休憩時間かあるため、日々の労働が不規則で歪んだものとなり、人間らしい生活を過ごす上で大きな支障となっていることが述べられた。
  使用者の恣意による休憩時間の設定に対しても、労働者の生活の質の点からの法的規制か必要でみることを考えさせられた。
  自交総連からは、年間一五〇乗務から一四四乗務への改訂が今年度からなされる予定だが、歩合給部分の多い賃金制度の下では、営収減を公休出勤でカバーする人も多く、賃金制度抜きの時短は難いことが報告された。
  ホワイトカラーの職場からは、サービス残業の実態がつぎつぎに報告された。
  国民金融公庫では、不況下で融資申込業務が増加しているが、公庫は二時間以上の残業をやらせないとして、営業所から追い出し、その結果、持ち帰り残業が増えている。また、人員の三四%か役職者であり、「管理監督者」として手当がつかない。この点については大阪労基局に申告して争っているとのことであった。
  三和銀行でも、サービス残業について大阪労基局に申告しており、局は既に三支店に立入調査をしており、住友生命からは始業時間前に企業ヒューマニティーと称して店の近辺の掃除をしているが、ボランティアということで手当はつかないとのことであった。
  国労ではで民営後に一時期オレンジカード売りや、QC等でサービス残業がはびこったが、これに対しては、これらサービス残業のため翌日の乗務に影響が生じ安全問題にかかわることを提示してこれをなくしていると報告かあった。

四、サービス残業一一〇番
  大阪過労死問題連絡会が全国に先がけて昨年の一一月に行った「サービス残業一一〇番」の報告では、第一に、相談者の過半数が妻、母親という家族であり、また、現にサービス残業をしている者からの訴えも二〇代からの相談が圧倒的であること、第二に、不況の下、業務内容は従来どおりなのに残業の時間枠が減らされ、その分かサービス残業として増加していること、第三に、時短がトップダウンの形で現場の実情を抜きにして進められ、その結果、現場では残業せざるを得ない、トップは時短を命じるとのジレンマのなか、サービス残業、持ち帰り残業が生じていることかその特徴として報告された。

五、使用者の都合による操短でなく、労働者の要求に根ざした時短を
  萬井教授より、現在の現場の実態は時短でなく、操短にすぎないのではないが、操短は使用者の都合で労働時間が短縮され、その結果収入が減ってしまうが、時短は労働者の要求で短縮され、収入も減らないのである。
  旧西独の金属労組等が不況時に、不況だがらこそ時短で仕事を分けあおうということで取り組んだが、これに学ぶ必要がある。また、管理監督者ということでその実態がないのに課長さらには係長までが残業手当の対象となっていないことがあるが、許しておけば、これに引っ張られて役付でない者にもサービス残業がはびこるのではないか、管理職も含めた運動として考える必要があるとまとめられた。
  また、関西大学経済学部の森岡教授がら、日本の残業を生み出す構造の説明と時短の基礎はサービス残業をなくすことにあることが強調された。

六、サービス残業をなくす運動体を
  各職場で取り組まれているサービス残業に対する大阪労基局等への申告の取り組みと、サービス残業一一〇香の運動等を結びつけてサービス残業に対する運動体をつくりあげていくことが課題として提起されたが、不況、時短のキーワードの下、かえってサービス残業が深刻化していることを考えると重要な課題の1つとして取り組むべきであろう。

七、過労死劇「突然の明日」─家族と労働者の連帯へ
  過労死問題に関しては、過労死を考える家族の会の会員からの認定に対する支援の訴えと昨年上演運動が取り組まれ、大成功した過労死劇「突然の明日」の経験が報告された。
  この大きな文化的な取り組みを通じて、遺族・家族対企業社会という闘いの構造から、遺族と労働者が協力して企業社会と闘う状況に変化する第一歩を歩み出したのではないかとの指摘があった。
  また、大阪職対連からは、過労死の認定をどう勝ちとるのかということを直視し、個別の事件の支援活動を意見書の作成も含めて支援するとともに、個別の事件の運動の交流を進めていくこと、支援すると同時に自らの職場の安全衛生活動を点検することの大切さが指摘された。
  不況の下、雇用、賃金を守る闘いの前に、ともすれば時短は色あせ、かすみがちの闘いとなっていることは否めないものの、「人間らしく生活する」ことにとって不可欠な時短に対するほとばしるような要求を大切にすることを最後に確認しあった。
(民主法律217号・1993年7月)

1993/07/01