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サービス残業110番の全国ネットワークを 大阪過労死問題連絡会事務局長 弁護士 松丸 正(民主法律216号・1993年2月)

大阪過労死問題連絡会事務局長
            弁護士 松丸 正

  大阪過労死問題連絡会では、昨年11月21日(土)「サービス残業110番」を実施した。事務系の労働者の過労死の背景には、会社が労働時間を認めずタイムレコーダー等の記録上も明らかでない、いわばグレーな労働時間であるサービス残業が存在することが「過労死110番」の多くの相談の中で明らかになってきたからである。そしてこのサービス残業の労働時間の立証の困難さが、ホワイトカラーの過労死の労災認定にとって大きな壁ともなっている。

  当日午前10時から午後3時までの電話のベルは鳴りづめで、計31件の相談が寄せられた(別表参照)。
  その相談の過半数は、妻、母からの相談であった。
  サービス残業を生み出す歪んだ企業社会のなかにある者にとっては、その歪みを見出すことすら難しいのかも知れない。また自らのサービス残業を訴えてきた労働者の年団は20代が過半数であることは、企業社会の構造にとりこまれていない年代だからであろう。

  相談で明らかになった問題点は3つある。
  その1つは、時短、残業削減がトップダウンの形で現場に指示されるなか、現場では、人員不足が恒常化しているためこれに対応できず、残業がサービス残業として潜在化している点である。
  外資系の海運会社では、会社の残業ゼロとの方針の下に残業が現場ではあるのに残業手当が支給されていないという。
  第2の点は、不況による労務費削減が残業枠を削減し、その結果サービス残業が増加している点である。
  大手電機会社の関連会社では、今春まで一人あたり月60時間の残業枠が月25時間までに減らされるなど、残業枠の削減に関係する相談が多く寄せられた。
  第3の点は、僅かな役職手当、営業手当と引きかえにサービス残業がなされたり、自己の勤務時間について裁量がないのに管理監督者労基法41条2号)として残業手当を支給しないことが当然の如く存在していることである。
  サービス残業は、このように時短、不況の下、潜在化かつ深刻化しつつあると言えよう。
  「サービス残業110番」に寄せられた相談については、大阪労働基準局と懇談をもつなかで、その調査監督を求めることになっている。

  当連絡会では、「サービス残業110番」に先立って、エース証券のトップセールスマンで同僚の3倍の営業量をこなし、セールスの番付表で横綱だった亀井修二さんの過労死の労災申請に取り組んだ。日々6時間近いサービス残業を続けて過労死した彼を、マスコミは「サービス残業でトップ証券マン過労死」と大々的に報道し、大きな社会的反響を呼んだ。羽後銀行のサービス残業代の2年分支給も報じられており、東京、大阪の労基局には取締り取締りのための特別司法監察官が置かれたという。

  個人生活をないがしろにしたサービス残業に対する取り組みは、企業の労務管理が労働者の意識をとりこむ形で成立している「強制された自発性」(熊澤誠)、そして、経済競争力を支えるダーティでアンフェアな企業社会の構造に迫るためにも緊要な課題であり、社会的関心も高い。
  まず、その実態を明らかにするため「サービス残業110番」のネットワークを全国に設置するとともに、その是正を労働行政と企業に求めていく労働基準オンブズマンとしての活動が求められている。

サービス残業110番(1992年11月22日)結果一覧

  相談者 本人の
性別
本人の
年齢
職  種 労 働 実 態
1 妻と本人 41 会社内部の業務用コンピュータソフト開発 月40時間分程度の技術手当が支払われるが、残業手当の支払いはなし。実際にはシステム立ち上げの際には泊り込みになることもある。最高月200時間残業することもある。
2   信用金庫勤務 残業手当は3万円のみ。労基局の調査の時だけは早く帰ってきたが、元に戻ってしまった。毎晩10時、11時の帰宅。
3 本人   (元)住宅セールス 歩合給のみで、残業手当は一切なし。休日出勤もあり。毎晩10時過ぎ。
4   旅行会社 基本給だけ。不景気なので、残業を付けるなという指示が出ている。毎日11時。休日も添乗で出勤する。
5 25 製造メーカーのエ程管理 残業代は実際の時間の6分の1から10分の1しかない。過少申告する慣習がある。月80時間から100時間残業している。
6 29 油圧機器の営業所勤務 もともとタイムカードより少ない残業代しかつかない。それが不景気で月9時間分しかなくなった。月120時間残業している。
7 33 中小印刷会社の営業兼コンピューター担当 月60時間以上の残業をしているが、職務手当(10万円)のうちに残業代が含まれているとして、全く支給がない。
8 本人 24 外資系船運会社の事務職 昨年度以降入社した大阪支社の社員に対しては、全く残業手当が付かない。それ以前入社の社員並びに東京本店の社員には残業手当は付いているものの、その一部しか支給されていない。
会社は残業ゼロという方針だが、仕事が多くて残業をせざるを得ず、残業すると仕事ができないからだといわれてしまう。
課長に手当を支給するよう要望したら、「何で金にこだわるんだ」としかられた。
9 23 生保会社営業所員 平目でも数時間、3、7、11月の特別月の月末にほ翌日午前0時すぎまで残業をしている。
土、日の休日もたびたび出勤する。基本給と歩合給のみで残業手当は全く支給されていない。最近はストレスがひどくて、夜、夢でうなされて「年金が…印が…」とか寝言をいっているので体が心配。
10 本人 29 電機メーカー設計開発 不況の中、コスト減、少量多品種生産が求められ、設計の業務量が増えている。月10時間の残業手当しか枠が与えられておらず、それ以上の残業は手当が支給されない。タイム、記録は定時はインプットしている。
11 22 プラスチック製品メーカー製品管理 職場まで2時間の通勤時間。毎日1時間以上の残業しても全く手当なし。
12 55 友禅職人 毎日3時間から4時間残業。残業手当なし。
13 本人 23 銀行員 定時は8時45分から5時。しかし、8時過ぎには出勤し、夜8時過ぎまで仕事している。しかし、月10時間しか残業手当の枠はなく、それをこえるとサービス残業となる。支店長代理は月20時間、課長は15時間の枠である。
14 26 ソフト開発会社・企画 月80時間以上の残業。泊り込みの仕事も2カ月に1回。土、日の休日もたびたび出勤し、今日も出勤している。しかし、夜9時を過ぎると食事代800円位がでるのみで手当の支給なし。
15 本人 53 銀行員 新入行員につき、入社3カ月間の研修期間は、残業手当全くつかない。人事部は新人には残業させない方針だからと言っているが、現実には毎日先輩と共に3時間くらいの残業をしている。
労働省の指導後もサービス残業は減っていない。
16 本人 39 大手電機メーカーの子会社のデザイナー 平成4年5月までは月60時間の残業枠だったのが、平成4年6月以降は月25時間に減らされた。
理由は売上げが落ちたからとのことだが、月70時間以上残業しており(フレックスタイム制)、枠を超える時間はサービス残業となっている。
17 47 自動車販売会社課長 夫が平成4年5月30日、仕事中呼吸停止。
18 29 生協配送等 毎夜10時過ぎに帰り、土、日も休日出勤が多い。しかし、月12時間の残業枠しかない。月100時間をこえる残業をしている。
19 54 ねじ製造会社 50歳をこえて基本給上がらず。有給休暇なのに賃金がカットされる。
20 本人     亡亀井氏の友人。支援したい。
21 本人   (元)信用金庫貸付窓口 残業をつけて帰ったことがない。残業つけても、消しゴムで消されて書き直されてしまう。
22 本人   証券営業(但し、以前の勤務先のこと) 残業手当は上司が裁量でつける。早朝から深夜までノルマに追われる。
証券業界の実態はとても「サービス」などと言えるものではない。完全な強制である。
23 本人 51 寮の食事作り 午前6時から10時までと午後6時から10時までの勤務時間で、時間給800円。こんな形が適法なのか。
24 27 就職情報会社・営業・出版 時間外は定額3万4千円。ボーナス時期に営業成績に応じて報償金がでる。10月、11月には午前1時、2時に帰ってくる。普段も遅い。
25 本人   生保外交(契約社員) 固定給と歩合のみ。残業代なし。休みたいのに休めない。
26   クレジット会社営業所 残業月18時間以上つけてはいけない。以前は30時間だったが、不況で打ち切りとなった。実際は毎日10時にならないと帰ってこない。社宅だが、他の人も同じようにやっている。
27 27 食品商社営業 所定時間は8時30分から17時30分だが、毎日7時に出社。22時ころ退社。祝日や休みの日にも出社。タイムカードがないので何かあったときに証拠にと考え、毎日出退勤時刻を記録した。半年間の記録をみると月108時間から115時間の残業。支払は30時間分のみ。
28 知人 40代 電機メーカー 詳しいことがわからないが、毎日朝早く夜も遅い。体壊さないかと心配。
29 32 通信事業 毎朝40分、終業後は4時間の残業するが、週2回合計4時間分しか手当はつかない。年休も1年に7日程度しか取らないが、残った分は出勤した日に年休をとったものとして処理される(タイムカードもないので出勤したという証拠が残らない)。
30 31 旅行センター 毎日6時30分に家を出て、0時ころ帰宅。月3回土曜が休みだが、出勤することが多い。日曜日も仕事を持ち帰っている。半年前に結婚したが、夫と話をすることがない。夫はくたくたに疲れている。業務手当3万円は出ているが、残業手当はゼロ。
31 50 不動産会社営業 残業代なし。歩合もない。最近不景気で休みをくれるようになった。

                                               (民主法律216号・1993年2月)

1993/02/01