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弁護士費用敗訴者負担制度導入に反対する声明(2001年1月22日 司法制度改革審議会宛て)

1、「三連敗」のあとの過労死の遺族にとって敗訴者負担は経済的足かせである

過労死の労災認定の事件は、訴訟提訴に至るまでには行政内部での三段階の不服審査手続きを経てきている。労基署長の労災保険不支給決定、それに対する審査官への審査請求での棄却、更に労働保険審査会への再審査請求での棄却と、行政内部の不服手続きで三つの敗北を遺族は続けたうえで提訴に至るのである。
一家の大黒柱であった大切な人を失い、苦しい生活を余儀なくされた過労死の遺族が、行政の認定基準の厚い壁と、過労死と認めようとせず、事実の開示を拒む企業の非情な壁に阻まれながら、労災認定請求をすること自体、大きな力と勇気がいるものである。
その請求が行政内部の手続きで「三連敗」したのちにおいても、更に労基署長の不支給処分の取消を求めて提訴をすることは、それまで以上に遺族にとっては厳しい決断となる。
大切な人の死が仕事の過労によるものだとの確信を遺族はもっていても、「三連敗」の重みは提訴についての大きな足かせとなる。
今回の敗訴者負担の制度が採用されれば、遺族が敗訴したときには被告(労基署長)の弁護士費用を負担させることになるかも知れないという経済的圧力が遺族に加わることになる。今日、明日の生活に必死で経済的余裕のない多くの遺族は、この経済的重圧の下で、提訴をためらうことになることは明らかであろう。

2、敗訴のなかでの勝訴が認定基準、判決を遺族救済の方向で発展させてきた

「三連敗」にもめげず提訴した遺族の過半数は、敗訴しながらも、少なからぬ勝訴の事例を積み重ねるなかで、「ラクダが針の穴を通るより難しい」とも形容されてきた労働省の過労死の認定基準を遺族救済の方向に改正させてきている。
従前の労働省の認定基準を判決が批判し、遺族を勝訴させるなかで、労働省が判決の方向に沿って認定基準を改正してきている。判決が労働行政を動かし、認定基準を改正させ、右基準の改正が更に判決を発展させるというプロセスである。
即ち、労働の過重性を評価する期間についてみれば、昭和36年通達は「発症当日あるいは前日まで」とし、昭和62年通達は「発症前1週間(それ以前は付加的にのみ判断)」とし、平成7年通達は「発症前1週間(それ以前は1週間内に相当程度過重な業務のあったときは総合判断)」としている。
更に2000年6月には長期の蓄積的疲労を評価する最高裁判決が下され、これに基づき労働省は、長期間の蓄積的疲労、ストレスについて検討する方向での認定基準改正作業を現在行なっている。
このように、従前の認定基準によっては敗訴する可能性の高い事案についても、遺族は提訴し、多くの敗訴事例にもめげることなく、勝訴を積み重ね認定基準を次々と改正させてきている。また判決も遺族救済の方向で動いてきている。

3、敗訴者負担制度は認定基準、判決を固定化させる

敗訴者負担の制度が導入されていたとすれば、遺族は認定基準、あるいはその時々の判決の救済レベルを固定的に考え(現段階の認定基準や判決のレベルで勝訴するか敗訴するかと判断するのが常であろう。)、提訴をためらい、その結果右に述べたような認定基準、あるいは判決は固定化し発展も望めず、更には電通過労自殺事件をはじめ、多くの過労自殺の企業賠償請求訴訟で遺族側の100%勝訴の内容での解決が相次いでいるが、提訴時(10年近く前のものもある)敗訴者負担制度があったとしたら、遺族、更には弁護士も提訴に踏み切ることができたであろうか。
希望を道になぞらえて、道ははじめからあるものではない。多くの人が歩くからそこが道になるのだ、と述べた著名な中国の文学者がいる。
敗訴者負担の制度は、過労死で大切な人を失った遺族が「三連敗」にめげずに道を拓こうとして提訴することに、重大な障害となるものである。断固として導入に反対する。

2001年1月22日

             大阪過労死問題連絡会
会  長 田尻俊一郎(医師)
事務局長 弁護士 岩城 穣
大阪市阿倍野区旭町1丁目2番7号
あべのメディックス2階 202号
あべの総合法律事務所
TEL 06-6636-9361(代)
FAX 06-6636-9364

2001/01/22