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福山さん労災不支給決定取消─控訴審勝利判決 弁護士 小林徹也(民主法律時報337号・2000年6月)

弁護士 小林 徹也

1 はじめに
 大阪高裁民事8部(鳥越健治、山田陽三、小原卓雄、各裁判官)は、本年6月2日、福山勝三氏の労災不支給決定を認めた大阪地裁の一審判決を覆し、不支給決定を取り消す判決を下し、その後労基署側も上告をあきらめ、確定したので報告する。

2 事件概要
 いわゆる「一人親方」として、個人で運送業の認可を受けダンプトラックの運転業務に従事する福山勝三氏が、平成5年6月23日午後3時30分頃、第二阪奈道路大阪奈良線生駒トンネルの原石(いわゆる「ずり」)を11トンダンプトラックで運搬中、生駒インターより普通乗用車が阪奈道路に突然に進入してきたため、避けようとして急ハンドルを切ったところ、左側の道路縁石に接触した。その結果、福山氏は右脳出血を発症し、現在でも右半身に麻痺が残り通常の歩行すら困難な状況となったものである。
 このような福山氏の発症は、トラック運転という加重な業務に加え、右の事故による強度のショックによるものであって、明らかに業務に起因するものである。
 ところが、労基署は、既往の福山氏の動脈硬化を過度に強調し、本件発症は自然的増悪によるものであるとして、十分に事故の態様等を調査することなく、不支給決定を行った。そして、審査官への審査請求も棄却のため、審査会に請求すると共に、不支給決定の取消し訴訟を大阪地方裁判所に平成7年12月に提訴したものである。

3 一番の不当判決
 この点、原審(地裁民事五部。松本、松尾、森、各裁判官)において、労基署側は、労基署側が申請した医師の意見書において、「本件発症は事故直前に自然経過により発症したものである。原告はその発症の結果、視野欠損(脳出血のため一時的に視野の一部が欠ける症状)が生じ、これにより割り込んできた車を発見出来ず、縁石に接触したものである」との主張を突然に行った。
 しかし、①走行中の運転手が突然に視野が欠損したにもかかわらずそれに気が付かないことは極めて不自然、②事故直後のカルテにもかかる症状を示す記載がない、など不合理な主張であることは明らかであった。
 ただ、原告は、慎重に対応し、労基署側の医師の証人尋問においても、この点を詳細に追及しようとした。ところが、松本裁判官は「その点については、被告もあくまで仮説であることを認めているのだからそれ以上尋問しなくてもよい」と遮ったのである。
 代理人としては、不満は残ったものの、裁判長自身が「仮説にすぎない」としている以上、少なくともかかる仮説を前提として敗訴することはない、と考え、ある程度の尋問にとどめた。ところが、原審の判決は、かかる視野欠損が生じたことを前提とした、まさに被告主張にのっとった事実認定であった。

4 控訴審での訴訟活動
 このため、弁護団は、控訴審において、かかる視野欠損の不存在を明らかにするため、新たに脳外科の医師を証人申請するとともに、高血圧症の程度についても、医学的により詳細に主張した。
 その結果、控訴審判決においては、かかる視野欠損の存在を認めることは出来ない、と認定されるとともに、高血圧症の程度についても、自然経過で発症する程度のものではない、として控訴人側の主張を採用した。
 そして、本件発症は、「交通事故という業務に関連する異常な出来事に遭遇したため、基礎疾患である高血圧症が自然的経過を越えて急激に悪化し」発症したもの、と結論づけたのである。
 ただ、ダンプトラック運転自体に内在する労働の過重性は原審と同様認められなかった(この点、赤旗の報道は間違っております)。

5 蛇足-私的な感想
 本件は、私が、弁護士になった年に受任した事件である。当時は、割り込みを契機とする事故による脳出血、という「当然に労災認定されるべき事件」と弁護団全員が考えていた。
 甘い、と言われるかもししれないが、何度も現地調査を行うなど、弁護団は油断することなく、活動したと思う。それゆえ、原審判決は、「まさか」 の一言であった。
 このため、控訴審では、「絶対に負けられない」という思いのもと、誰が中心ということもなく、弁護団全員(といっても3名だが)がよく議論して活動したと思う。また、組合(建交労・関西ダンプ支部)の支援も広がり、訴訟外での活動も充実したものであった。
 判決を聞くまでは、かつて司法試験の合格発表を見に行ったときのように緊張した。
 「視野欠損の有無」という、あまり普遍性をもった判決ではないかもしれないが、私の弁護士歴においては、極めて重要な判決であった(弁護団は、村田浩治、武田純、小林徹也)。

(民主法律時報337号・2000年6月)

2000/06/01