過労死問題について知る


(3)過労死の新認定基準・運用通達対応表

過労死の新認定基準と、運用についての通達の対応表

(赤色、青色は当ホームページ管理者による)

脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について(平成13年12月12日基発第1063号) 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について(平成13年12月12日基労補発第31号)
標記については、平成7年2月1日付け基発第38号(以下「38号通達」という。)及び平成8年1月22日付け基発第30号(以下「30号通達」とい う。)により示してきたところであるが、今般、「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門委員会」の検討結果を踏まえ、別添の認定基準を新たに定めたので、今 後の取扱いに遺漏のないよう万全に期されたい。
なお、本通達の施行に伴い、38号通達及び30号通達は廃止する。
脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するののを除く。以下「脳・心臓疾患」という。)の認定基準については、平成13年12月12日付け基発第 1063号(以下「1063号通達」という。)をもって改正されたところであるが、その具体的運用に当たっては、下記事項に留意されたい。
なお、本事務連絡の施行に伴い、平成7年2月1日付け事務連絡第5号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上 の留意点等について」及び平成8年1月22日付け事務連絡第3号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の一部改正の留 意点について」は廃止する。
おって、1063号通達のより正確な理解のため、脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書を活用するものとする。
(別添)

認定基準

第1 基本的な考え方
脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。以下「脳・心臓疾患」という。)は、その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変又は動脈 瘤、心筋変性等の基礎的病態(以下「血管病変等」という。)が長い年月の生活の営みの中で形成され、それが徐々に進行し、増悪するといった自然経過をたど り発症に至るものとされている。
しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって、業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務に起因することの明らかな疾病として取り扱うものである。
このような脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる疲労の蓄積も考慮することとした。
また、業務の過重性の評価に当たっては、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態等を具体的かつ客観的に把握、検討し、総合的に判断する必要がある。

                   記
第1 認定基準改正の経緯
脳・心臓疾患に係る労災認定については、平成7年2月1日付け基発第38号(以下「38号通達」という。)及び平成8年1月22日付け基発第30号により示された認定基準に基づき、適正な運用を図ってきたところである。
このような中、平成12年7月17日、最高裁判所は、自動車運転手に係る行政事件訴訟の判決において、業務の過重性の評価に当たり、相当長期間にわたる業務による負荷や具体的な就労態様による影響を考慮する考えを示した。
この判決を契機として、「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」を設け、長期間にわたる疲労の蓄積の評価や業務の過重性の評価要因の具体化等を検討課題とし、主に医学面からの検討が行われてきたところである。
今般、その検討結果を踏まえ、業務による明らかな過重負荷として、長期間にわたる疲労の蓄積を評価の対象とするほか、具体的な負荷要因を明示することとし、1063号通達により、認定基準の改正が行われたものである。第2 主な改正点
1 対象疾病
現在、死亡診断書等には、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10回修正」(ICD-10)に準拠した疾患名が一般的に使用されていることから、認定基準に掲げる対象疾病について、これに基づく疾患名で整理したこと。
これにより、従来対象としていた「一次性心停止」及び「不整脈による突然死等」は「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うこととされたものである。
なお、今回の改正においては、認定基準の対象疾病の範囲に変更はない。

2 長期間にわたる疲労の蓄積
(1)  脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、これまで、発症前1週間以内を中心とする発症に近接した時期における負荷を重視し てきたが、近年の医学研究等により、長期間にわたる疲労の蓄積も発症に影響するものと考えられるようになってきたことから、今回の改正において、「異常な 出来事」及び「短期間の過重業務」のほか、長期間にわたる疲労の蓄積についても、業務による明らかな過重負荷として考慮することとしたこと。

(2) 長期間にわたる疲労の蓄積については、発症前6か月間における就労実態を検討することで評価できるとされたことから、その評価期間を発症前おおむね6か月間としたこと。

(3) 業務の過重性の評価にあたって、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目して、業務と発症との関連性を検討する際の労働時間の評価の目安を示したこと。

3 負荷要因の明確化
業務の過重性の評価については、38号通達において、「業務量(労働時間、労働密度)、業務内容(作業形態、業務の難易度、責任の軽重など)、作業環境 (暑熱、寒冷など)、発症前の身体の状況等を十分調査の上総合的に判断する必要がある。」とされていたが、具体的な負荷要因までは示されていなかった。
今回の改正において、客観的かつ合理的に業務の過重性を評価するために、その負荷要因と要因ごとの負荷の程度を評価する視点を明示したこと。

第2 対象疾病

本認定基準は、次に掲げる脳・心臓疾患を対象疾病として取り扱う。

1 脳血管疾患

(1) 脳内出血(脳出血)
(2) くも膜下出血
(3) 脳梗塞
(4) 高血圧性脳症

2 虚血性心疾患等

(1) 心筋梗塞
(2) 狭心症
(3) 心停止(心臓性突然死を含む。)
(4) 解離性大動脈瘤

第3 運用上の留意点

1 対象疾病について
1063号通達では、医学的に過重負荷に関連して発症すると考えられる脳・心臓疾患を対象に掲げ、取り扱う疾病の範囲を明確にしている。
このことから、対象疾病以外の脳・心臓疾患については、一般的に過重負荷に関連して発症するとは考え難いが、過重負荷に関連して発症したとして請求された時間については、本省補償課に相談すること。

第3 認定要件

次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する疾患として取り扱う。

(1) 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(以下「異常な出来事」という。)に遭遇したこと。

(2) 発症に近接した時期において、特に過重な業務(以下「短期間の過重業務」という。)に就労したこと。

(3) 発症前の長期にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(以下「長期間の過重業務」という。)に就労したこと。

第4 認定要件の運用

1 脳・心臓疾患の疾患名及び発症時期の特定について

(1) 疾患名の特定について
脳・心臓疾患の発症と業務との関連性を判断する上で、発症した疾患名は重要であるので、臨床所見、解剖所見、発症前後の身体の状況等から疾患名を特定し、対象疾病に該当することを確認すること。
なお、前記第2の対象疾病に掲げられていない脳卒中等については、後記第5によること。

(2) 発症時期の特定について
脳・心臓疾患の発症時期については、業務と発症との関連性を検討する際の起点となるものである。
通常、脳・心臓疾患は、発症(血管病変等の破綻(出血)又は閉塞した状態をいう。)の直後に症状が出現(自覚症状又は他覚所見が明らかに認められる ことをいう。)するとされているので、臨床所見、症状の経過等から症状が出現した日を特定し、その日をもって発症日とすること。
なお、前駆症状(脳・心臓疾患発症の警告の症状をいう。)が認められる場合であって、当該前駆症状と発症した脳・心臓疾患との関連性が医学的に明らかとされたときは、当該前駆症状が確認された日をもって発症日とすること。

2 過重負荷について

過重負荷とは、医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて急激に著しく増悪させ得ることが客観的に認め られる負荷をいい、業務による明らかな過重負荷として認められるものとして「異常な出来事」、「短期間の過重業務」、「長期間の過重業務」に区分し、認定 要件としたものである。

(1) 異常な出来事について

ア 異常な出来事
異常な出来事とは、具体的には次に掲げる出来事である。

(ア) 極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態

(イ) 緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態

(ウ) 急激で著しい作業環境の変化

イ 評価期間
異常な出来事と発症との関連性については、通常、負荷を受けてから24時間以内に症状が出現するとされているので、発症直前から前日までの間を評価期間とする。

ウ 過重負荷の有無の判断
異常な出来事と認められるか否かについては、①通常の業務遂行過程においては遭遇することがまれな事故又は災害等で、その程度が甚大であったか、② 気温の上昇又は低下等の作業環境の変化が急激で著しいものであったか等について検討し、これらの出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否 かという観点から、客観的にかつ総合的に判断すること。

2 異常な出来事について
1063号通達の第3の(1)の「異常な出来事」については、従来の取扱いに変更はない。
すなわち、生体が「極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態」又「急激で著しい作業環境の変 化」に遭遇すると、急激な血圧変動や血管収縮を引き起し、血管病変等をその自然経過を超えて急激に著しく増悪させ得ることがあるとの医学的知見に基づき、 これらを「異常な出来事」として認定要件に掲げたものである。
したがって、遭遇した出来事が「異常な出来事」と認められるか否かは、当該出来事によって急激な血圧変動や血管収縮を引き起し、その結果、脳・心臓疾患を発症したことが医学的にみて妥当か否かによることとなる。
具体的には、業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合、事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携 わった場合等のほか、極めて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害される状態や特に温度差のある場所への頻回な出入り等が考えられるが、これらの出来事 の過重性の評価に当たっては、事故の大きさ、被害・加害の程度、恐怖感・異常性の程度、作業環境の変化の程度等について検討し、客観的かつ総合的に判断す ること。
(2) 短期間の過重業務について

ア 特に過重な業務
特に過重な業務とは、日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいうものであり、日常業務に就労する上で受ける負荷の影響は、血管病変等の自然経過の範囲にとどまるものである。
ここでいう日常業務とは、通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう

イ 評価期間
発症に近接した時期とは、発症前おおむね1週間をいう。

ウ 過重負荷の有無の判断

(ア) 特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同僚労働者又は同種労働者(以下「同僚等」と いう。)にとっても、特に過重な精神的、身体的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。ここでいう同僚等とは、当該労働者と同程度の年齢、経験等を有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者をいう

(イ) 短期間の過重業務と発症との関連性を時間的にみた場合、医学的には、発症に近いほど影響が強く、発症から遡るほど関連性は希薄となるとされているので、次に示す業務と発症との時間的関連を考慮して、特に過重な業務と認められるか否かを判断すること。

① 発症に最も密接な関連性を有する業務は、発症直前から前日までの間の業務であるので、まず、この間の業務が特に過重であるか否かを判断すること。

② 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合であっても、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合には、業務との関連性があると考えられるので、この間の業務が特に過重であるか否かを判断すること。
なお、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合の継続とは、この期間中 に過重な業務に就労した日が連続しているという趣旨であり、必ずしもこの期間を通じて過重な業務に就労した日が間断なく続いている場合のみをいうものでは ない。したがって、発症前おおむね1週間以内に就労しなかった日があったとしても、このことをもって、直ちに業務起因性を否定するものではない

(ウ) 業務の過重性の具体的な評価に当たっては、以下に掲げる負荷要因について十分検討すること。

a 労働時間
労働時間の長さは、業務量の大きさを示す指標であり、また、過重性の評価の最も重要な要因であるので、評価期間における労働時間については、十分考慮すること。
例えば、発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められるか、発症前おおむね1週間以内に継続した長時間労働が認められるか、休日が確保されているか等の観点から検討し、評価すること。

b 不規則な勤務
不規則な勤務については、予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度、事前の通知状況、予測の度合、業務内容の変更の程度等の観点から検討し、評価すること。

c 拘束時間の長い勤務
拘束時間の長い勤務については、拘束時間数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、業務内容、休憩・仮眠時間数、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)等の観点から検討し、評価すること。

d 出張の多い業務
出張については、出張中の業務内容、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、宿発の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張による疲労の回復等の観点から検討し、評価すること。

e 交代制勤務・深夜勤務
交代制勤務・深夜勤務については、勤務シフトの変更の度合、勤務と次の勤務までの時間、交代制勤務における深夜時間帯の頻度等の観点から検討し、評価すること。

f 作業環境
作業環境については、脳・心臓疾患の発症との関連性が必ずしも強くないとされていることから、過重性の評価に当たっては付加的に考慮すること。
(a) 温度環境
温度環境については、寒冷の程度、防寒衣類の着用の状況、一連続作業時間中の採暖の状況、暑熱と寒冷との交互のぼく露の状況、激しい温度差があ る場所への出入りの頻度等の観点から検討し、評価すること。なお、温度環境のうち高温環境については、脳・心臓疾患の発症との関連性が明らかでないとされ ていることから、一般的に発症への影響は考え難いが、著しい高温環境下で業務に就労している状況が認められる場合には、過重性の評価に当たって配慮するこ と。
(b) 騒音
騒音については、おおむね80dBを超える騒音の程度、そのばく露時間・期間、防音保護具の着用の状況等の観点から検討し、評価すること。
(c) 時差
飛行による時差については、5時間を超える時差の程度、時差を伴う移動の頻度等の観点から検討し、評価すること。

g 精神的緊張を伴う業務
精神的緊張を伴う業務については、別紙の「精神的緊張を伴う業務」に掲げられている具体的業務又は出来事に該当するものがある場合には、負荷の程度 を評価する視点により検討し、評価すること。また、精神的緊張と脳・心臓疾患の発症との関連性については、医学的に十分な解明がなされていないこと等か ら、精神的緊張の程度が特に著しいと認められるものについて評価すること。

3 短期間の過重業務について
(1) 評価期間
短期間の過重業務の評価期間は、発症前おおむね1週間とされたが、これは、発症に近接した時期の業務の過重性を評価する期間として、医学的に妥当であるとされたことによるものである。(2) 発症前1週間より前の業務の取扱い
38号通達では、業務の過重性の評価に当たって、発症前1週間より前の業務については、この業務だけで血管病変等の急激で著しい増悪に関連したとは判断 し難いとして、発症前1週間以内の業務が日常業務を相当程度超える場合には、発症前1週間より前の業務を含めて総合的に判断することとされていたが、今回 の改正において、発症前1週間より前の業務については、長期間の負荷として評価することとする。
しかしながら、長期間の過重業務の評価期間が、発症前1か月以上の期間を対象とすることから、例えば、発 症前2週間以内といった発症前1か月間より相当短い期間のみに過重な業務が集中し、それより前の業務の過重性が低いために、長期間の過重業務とは認められ ない場合がある。このような場合には、発症前1週間を含めた当該期間に就労した業務の過重性を評価し、それが特に過重な業務と認められるときは、1063 号通達の第3の(2)の認定要件を満たすものとして取り扱って差し支えない

(3) 質的に著しく異なる業務の取扱い
業務の過重性の評価に当たって、日常業務と質的に著しく異なる業務に就労した場合については、医学的な評価を特に重視し判断することとする。
なお、日常業務と質的に著しく異なる業務とは、当該労働者が本来行うべき業務であっても、通常行うことがまれな異質の業務をいうものであり、例えば、事 務職の労働者が激しい肉体労働を行うことにより、日々の業務を超える身体的、精神的負荷を受けたと認められる場合がこれに該当する。

(4) 業務の過重性の総合評価
ア 業務の過重性の評価は、発症した当該労働者と同程度の年齢、経験等を有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる同僚労働者又は同種労働者(以下「同僚等」という。)にとっても、特に過重であるか否かにより判断することとされた。
これは、日常業務の遂行に支障のある者は別として、発症した労働者と同じような業務に就労する労働者のうち、年齢、経験等が当該労働者により近い者に とっても、業務が特に過重であったか否かによって業務の過重性を判断することにより、当該労働者に及ぼした業務による影響を客観的かつ合理的に評価しよう とするものである。

イ 業務の過重性の評価は、1063号通達で示された労働時間、不規則な勤務等の負荷要因により判断することとなるが、就労実態は多種多様であることから、これらの負荷要因以外の要因であって、医学的にみてそれによる身体的、精神的負荷が特に過重と認められるものがある場合は、これを含め、客観的かつ総合的に判断することとする。
また、複数の負荷要因のうち、交替制勤務・深夜勤務は、直接的に脳・心臓疾患の発症の大きな要因になるものではないとされていることから、交替制勤務が日常業務としてスケジュールどおり実施されている場合や日常業務が深夜時間帯である場合に受ける負荷は、日常生活で受ける負荷の範囲内と評価されるものである。
また、精神的緊張を伴う業務として1063号通達の別紙に掲げられていない業務又は出来事による負荷は、発症との関連性において、日常生活で受ける負荷の範囲内と評価されるものである。

(別紙)  精神的緊張を伴う業務

日常的に精神的緊張を伴う業務

具体的業務

負荷の程度を評価する視点

常に自分あるいは他人の生命、財産が脅かされる危険性を有する業務 危険性の度合、業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援、予想される被害の程度等
危険回避責任がある業務
人命や人の一生を左右しかねない重大な判断や処置が求められる業務
極めて危険な物質を取り扱う業務
会社に多大な損失をもたらし得るような重大な責任のある業務
過大なノルマがある業務 ノルマの内容、困難性・強制性、ペナルティの有無等 業務量(労働時間、労働密度)、就労期間、経験、適応能力、会社の支援等
決められた時間(納期等)どおりに遂行しなければならないような困難な業務 阻害要因の大きさ、達成の困難性、ペナルティの有無、納期等の変更の可能性等
顧客との大きなトラブルや複雑な労使紛争の処理等を担当する業務 顧客の位置付け、損害の程度、労使紛争の解決の困難性等
周囲の理解や支援のない状況下での困難な業務 業務の困難度、社内での立場等
複雑困難な新規事業、会社の建て直しを担当する業務 プロジェクト内での立場、実行の困難性等
発症に近接した時間における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事

出来事

負荷の程度を評価する視点

労働災害で大きな怪我や病気をした 被災の程度、後遺障害の有無、社会復帰の困難性等
重大な事故や災害の発生に直接関与した 事故の大きさ、加害の程度等
悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした 事故や被害の程度、恐怖感、異常性の程度等
重大な事故(事件)について責任を問われた 事故(事件)の内容、責任の度合、社会的反響の程度、ペナルティの有無等
仕事上の大きなミスをした 失敗の程度・重大性、損害等の程度、ペナルティの有無等
ノルマが達成できなかった ノルマの内容、達成の困難性、強制性、達成率の程度、ペナルティの有無等
異動(転勤、配置転換、出向等)があった 業務内容・身分等の変化、異動理由、不利益の程度等
上司、顧客等との大きなトラブルがあった トラブル発生時の状況、程度等
(3) 長期間の過重業務について

ア 疲労の蓄積の考え方
恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがある。
このことから、発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては発症前の一定期間の就労実態等を考察し、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断することとする。

イ 特に過重な業務
特に過重な業務の考え方は、前記(2)のアの「特に過重な業務」の場合と同様である。

ウ 評価期間
発症前の長期間とは、発症前おおむね6か月をいう。
なお、発症前おおむね6か月より前の業務については、疲労の蓄積に係る業務の過重性を評価するに当たり、付加的要因として考慮すること。

エ 過重負荷の有無の判断

(ア) 著しい疲労の蓄積をもたらず特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同僚等にとっても、特に過重な精神的、身体的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。

(イ) 業務の過重性の具体的評価に当たっては、疲労の蓄積の観点から、労働時間のほか前記(2)のウの(ウ)のbからgまでに示した負荷要因について 十分検討すること。その際、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであ り、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、

① 発症前1か月ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価すること

② 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務との関連性が強いと評価できること

を踏まえて判断すること。
ここでいう時間外労働時間数は、1週間当たり40時間を超えて労働した時間数である。
また、休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり、逆に休日が十分確保されている場合は、疲労は回復ないし回復傾向を示すのである。

4 長期間の過重業務について
(1) 評価期間
長期間の過重業務の評価期間は、発症前おおむね6か月間とされたが、これは、疲労の蓄積を評価する期間として発症前6か月間とすることが医学的に妥当とされていることによるものである。
なお、発症前おおむね6か月間を評価するに当たっては、1か月間を30日として計算することとする。(2) 発症前おおむね6か月より前の業務の取扱い
発症前おおむね6か月より前の業務については、発症から遡るほど業務以外の諸々の要因が発症に関わり合うとされていることから、業務の過重性を評価するに当たって付加的要因として考慮するとされたものである。このことから、タイムカード、作業日報、業務報告書等の客観的資料により、発症前6か月より前から継続している特に身体的、精神的附款が認められる場合に、これを付加的に考慮することとする。

(3) 業務の過重性の総合評価
ア 労働時間の長さは、業務量の大きさを示す指標であり、また、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられること及び1063号通達で労働時間の評価 の目安が示されたことから、業務の過重性の評価に当たっては、まず、労働時間(時間外労働時間)について検討した上で、労働時間以外の負荷要因の評価と併 せて判断することとする。
なお、業務の過重性の客観的な評価及び労働時間以外の負荷要因の評価については、前記3の(4)の考え方と同様である。

イ 1063号通達で示された労働時間の評価の目安は、長時間労働及びそれによる睡眠不足から生ずる疲労の蓄積と脳・心臓疾患の発症との関連性に係る医学 的知見に基づき、1週40時間(1日8時間)を一定時間超える時間外労働が1か月間継続した場合を想定して算出されたものである。

ウ 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労 働が認められない場合は、疲労の蓄積が生じないとされていることから、業務と発症の関連性が弱いと評価できるとされたものであり、一般的にこの時間外労働 のみから、特に過重な業務に就労したとみることは困難である。
したがって、このような労働時間の実態にあって、業務起因性が認められるためには、労働時間以外の負荷要因による身体的、精神的負荷が特に過重と認められるか否かが重要となるものである。

なお、発症前1か月間ないし6か月間とは、発症前1か月間、発症前2か月間、発症前3か月間、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のすべての期間をいう。

エ 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合 は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされたが、就労実態は多種多様であるとから、このことをもって、直ちに、特に過重な業務に就労したと判断す ることが適切ではない場合もあり、このような場合には、時間外労働に加えて、それ以外の負荷要因が認められる場合に、特に過重な業務に就労したとするもの である。
また、このような時間外労働に就労したと認められる場合であって、例えば、労働基準法第41条3号の監視又は断続的労働に相当する業務、すなわち、原則 として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ない場合や作業自体が本来間歇的行われるもので、休憩時間は少ない が手待時間が多い場合等、労働実度が特に低いと認められるものについては、直ちに業務と発症との関連性が強いと評価することは適切ではないことに留意する 必要がある。
なお、発症前2か月間ないし6か月間とは、発症前2か月間、発症前3か月間、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のいずれかの期間をいう。

オ 労働時間の実態がウとエの間の場合には、1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働 時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できるとされていることから、時間外労働時間が長くなるほど、それと併せて評価することに なる労働時間以外の負荷要因の寄与する度合いは相対的に低くなるものである。

カ 過重性の評価に当たっては、次の手順によることとする。
① 発症前6か月間のうち、まず、発症前1か月間の時間外労働時間数を算出し、次に発症前2か月間、さらに発症前3か月間と順次期間を広げ、発症前6か月間までの6通りの時間外労働時間を算出する。

② ①で算出した時間外労働時間数の1か月当たりの時間数が最大となる期間を総合評価の対象とし、当該期間の1か月当たりの時間数を1063号通達の第4の2の(3)のエの(イ) に当てはめて検討した上で、当該期間における労働時間以外の負荷要因の評価と併せて業務の過重性を判断する。

なお、発症前1か月間におおむね100間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる最少の期間をもって業務の過重性が評価できる場合は、その期間だけで判断して差し支えない。

キ 時間外労働時間の算出に当たっては、タイムカードをはじめ、業務日報、事業場の施錠記録等の客観的資料のほか、脳・心臓疾患を発症した労働者、同僚等の関係者からの聞き取り等により、その実態を可能な限り詳細に把握すること。
なお、日々の労働時間の記録がない場合又は時間外労働時間の算出の仕方について疑義がある場合は、当分の間、関係資料を添えて本省補償課に相談すること。

第5 その他

1 脳卒中について

脳卒中は、脳血管発作により何らかの脳障害を起こしたものをいい、従来、脳血管疾患の総称として用いられており、現在まで、一般的に前記第2の1に掲げた疾患に分類されている。
脳卒中として請求された事案については、前記第4の1の(1)の考え方に基づき、可能な限り疾患名を確認すること。
その結果、対象疾病以外の疾病であることが確認された場合を除き、本認定基準によって判断して差し支えない。

2 急性心不全について

急性心不全(急性心臓死、心臓麻痺等という場合もある。)は、疾患名ではないことから、前記第4の1の(1)の考え方に基づき、可能な限り疾患名を確認すること。
その結果、急性心不全の原因となった疾病が、対象疾病以外の疾病であることが確認された場合を除き、本認定基準によって判断して差し支えない。

3 不整脈について

平成8年1月22日付け基発第30号で対象疾病としていた「不整脈による突然死等」は、不整脈が一義的な原因となって心停止又は心不全状況等を発症し たものであることから、「不整脈による突然死等」は、前記第2の2の(3)の「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うこと。

5 リスクファクターの評価
脳・心臓疾患は、主に加齢、食生活等の日常生活による諸要因等の負荷により、長い年月の生活の営みの中で極めて徐々に血管病変等が形成、進行及び増悪す るといった自然経過をたどり発症するもので、その発症には、高血圧、飲酒、喫煙、高脂血症、肥満、糖尿病等のリスクファクターの関与が指摘されており、特 に多数のリスクファクターを有する者は、発症のリスクが極めて高いとされる。
このため、業務起因性の判断に当たっては、脳・心臓疾患を発症した労働者の健康状態を定期健康診断結果や既往歴等によって把握し、リスクファクター及び基礎疾患の状態、程度を十分検討する必要があるが、認定基準の要件に該当する事案については、明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り、業務起因性が認められるものである。

2011/11/07